どろぼー!
師匠の言う通りにダンジョンの中で店を出した。
と言っても、道具が9個置けるくらいの露店だが。
何故かモンスターはこちらを襲ってこない。
有名なローグライクゲームにあるダンジョンの店主がモンスターに襲われない。
この世界もそんなルールがあるのだろう。
そんな事を考えていると大男が店の範囲に入ってきた。
見るからにお金を持っていなさそうだが・・・。
「いらっしゃいませ。」
大男は店のエリアの上のアイテムを一通り見ると「っち高いな。」と呟いた。
男は商品の武器や薬草を袋の中に詰めていき店の外に出た。
「お客様が、お持ち頂いた商品の合計金額は・・・」
「うるせぇ!」
男はそう怒鳴ると店から遠ざかる。
あ!万引きされた。
『主よ、追いかけて取り返す権利がある。泥棒!と叫べば商人の権利を行使することができるぞ。』
「泥棒!」
あれだな。追いかける奴だな?
犬やら兵士やらが出てくるやつ。
いや、ちょっと待てよ?
その手の店主って倍速行動だよな?
俺の場合はどうなるんだ?
試しに動いてみると身体が妙に重い。
ステータスを見ると素早さが半分になっていた。
『何をしておる?あ・・・速度が下がったのか。安心せい。半減してるとはいえ、主様の速度より速い生物など、殆どおらん。』
まあ、それもそうか。
急いで男を追うと次の階層の前で犬やら兵士やらと戦っていた。
よし、捕まえた。
「くそ・・・商人になりたての若造だから盗めると思ったのに・・・。」
なあ、この男をどうすればいいんだ?
『組合に引き渡して終わりだな。まあ、その場合は証が剥奪されて風来者として仕事が出来なくなる。』
証を奪われたら仕事できないだろ?
それは無しに出来ないのか?
『甘いな。だが、嫌いではない。貴殿が咎め無しと嘆願すれば此奴らの証は奪われぬ。』
そうか。まぁ、事情があるかもしれないからな。
「よく捕まえましたね。合格です。あ、彼は私が依頼した盗人役の方なので解放してあげて下さい。」
話を聞くと売れない役者らしく生活の為に冒険者をやっているらしい。
捕まった時の台詞まで用意しているとは・・・。
この後、日が暮れるまでダンジョンの中で商売に精を出した。