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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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フーリエちゃんを苦しめる元凶の正体

 店を出た後、メフィさんが振り返ると、勿体付けるような雰囲気を出して私に尋ねてきました。



「ここからはキミが決めてくれ。仲間の体調を優先するか、探し続けた姉の後を追うか」

「………………」



 二者択一、取れる選択肢はひとつのみ。フーリエちゃんを選べば比奈姉の居場所はまた分からなくなる。比奈姉を選べばフーリエちゃんの容態は悪化する。フーリエちゃんと比奈姉、どちらが大切かと問われた気分です。

 比奈姉は今までの私を形成した、無くてはならない存在。ずっとその背中を追い求め続ける存在。比奈姉がいなければ私はいません。

 一方でフーリエちゃんは私の憧れを叶えてくれた恩人です。これからの私には、無くてはならない存在で、これからの道をずっと共に歩みたいと願う存在です。

 どちらかが大切なんて、とても選ぶことなど無理です。ですが、今の状況で選ぶとするなら答えは簡単です。


「35番街へ行きます」



 メフィさんは満足したような笑みを見せて歩みを進めました。

 早く比奈姉に会いたい。その想いは今でも燻り、日を重ねるごとにその(かさ)は増していきます。けれども、そのためにはフーリエちゃんが必要なのです。

 オタクは推しが辛いと自分も辛い。

 オタクは推しを無しには生きられない。

 オタクは推しを無くしては語れない。

 比奈姉との再会にはフーリエちゃんが必要不可欠。そして何より、もう大切な人を失いたくないから。


 メフィさんを乗せて35番街へ急ぎます。高度は上げず、道に沿って全開で箒を飛ばします。



「ところでリラのお姉さんはどんな人なの?」



 横乗りするメフィさんが横目で尋ねてきたのを感じました。



「優しくて、天才で、魔法への情熱は誰にも負けない人です。私がここまで生きていられるのも、私が今の私でいられるのも、全部比奈姉のお陰なんです」

「キミにとっての全てというわけか」

「そうです。私の行く道を切り開いてくれた人。その道を今はフーリエちゃんとエリシアさんと共に歩んでいるんです」

「へぇ。この物凄いスピードとコントロールはそのお姉さん、と見せかけてフーリエちゃんへの好意の現れかな?」

「? 当然です。魔法への憧れは比奈姉ですけど、魔法を教えてくれたのはフーリエちゃんです。まだ出会って半年と経たないですけど、その中で色んな景色を見て、色んな知識を得て、色んなフーリエちゃんの良さを知りましたから」



 オタク特有の、突然流暢になる推し語りをしたら「うーん、まぁいいや」と、引いた様子とも違う返答をされました。

 メフィさんのナビに従って飛ばして十数分、35番街に到着。以前にも来た通り、住宅が過剰に密集しているせいで薄暗いです。しかしこの前は見落としていたのか、個人経営の八百屋や雑貨店も点在していました。

 キャリィさんの言う『アリアネさんげ』は分かりませんでしたが、天窓が開いている家が1軒ありました。平屋という以外には何ら特徴の無い家です。



「リラ、息止めに自信はある?」

「え、えっと、どうでしょう……? 気にしたことがなかったです。でもどうして?」

「天窓から侵入する。あの中で何が行われているのか潜入調査する」

「とどのつまり、不法侵入……」



 メフィさんは「そうとも言うね」と軽く笑い飛ばしながら裏路地に回りました。



「今回の目的は上空に滞留していると考えられる毒性物質の出所を調査すること。あの中で危ない植物が燃やされてるとか、そういうのを調べる。調べればフーリエを回復させる方法を見つけられる。最優先はフーリエの回復、でしょ?」

「その通りですが、メフィさんは大丈夫なんですか? 危険性とか犯罪になるとか色々」

「バレなきゃ犯罪じゃない。便利屋は時に無茶をしなければならない職業さ。あとゴーグルを持ってきてるから対策はバッチリ」

「重装備……」



 息を止めてゴーグルで目を守る。かなり強引な方法ですが空気を浄化する魔法というのも聞いたことないので、いち早く解明するには直接見るほかないのは確かです。

 透明化の魔法はまだ使えないので、テント用の生地を被って風で飛ばされた布にカモフラージュすることに。なぜテント用かというと覗き窓があるから。これは私のアイデアです、ドヤ。



「行くよ。思いっきり息を吸い込んで」

「はあああああああっ、んっ」



 胸いっぱいに空気を取り込み上昇。飛ばされているように見せるため姿勢をわざと崩しますが、息を止めながらだと地味にキツイ。しかしこれもフーリエちゃんのため。気合で耐えてメフィさんを降ろし、限界ギリギリで帰還。距離は近いのに、異様に長く感じました。



「ぷはぁっ! はぁはぁはぁはぁはぁはぁ…………体力の無さを実感する……」



 ほどなくしてメフィさんが天窓から顔を出しました。帰りはダイナミックに飛び降り、素早い身のこなしで戻ってきました。また限界ギリギリまで息を止めることにならなくて一安心。私まで窒息で倒れてしまいます。



「ふぅ、なんとか戻れた」

「どうでしたか、中は」

「片付け最中の物置って感じ。でも証拠はあった」



 メフィさんが上着の内ポケットから出したのは袋の切れ端でした。文字が書かれていた形跡があり、唯一読める部分には【指】と書かれています。



「【指】に続いて、ちぎれた文章の一部分には【絵】とある。切れ端のサイズからして袋はかなり小さい。ネジとかナットが数個入る程度だろうね。あと入る物といえば……植物の種とか」

「毒性を持った植物でしょうか」

「鋭いね。【指】ってのはジギタリスって植物の隠語。【絵】は【絵師】で、これはジギタリスに含まれる毒の名前、ガシェの隠語。幻覚作用や呼吸困難などの症状を引き起こし、最悪の場合は死に至る」

「死……!?」



 顔が青ざめるのが自分でも分かりました。もしかしたら既に生死の境に立たされているかもしれない……最悪の末路が頭をよぎります。私はメフィさんの上着を掴んで叫びました。



「どうすれば治るんですか! 何を調達すれば!」

「落ち着いて落ち着いて! 対処法は確立されてる。イモや青野菜を他の薬草と共に接種すると治る」

「早く行きましょう!」

「そう慌てないで。気持ちは分かるけど自分の身を犠牲にしすぎるのはよくない」

「自分のため、でもありますから良いんです」

「全く……」



 メフィさんを乗せ、道中で見かけた記憶を頼りに最大スピードで店へと箒を向けます。

 そしてありったけのイモ類と青野菜を購入し、「薬草は家にいくつかある」との声を聞き流して35番街から【クラウンの掲示板】がある20番街へ帰還しました。

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