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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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方言と多忙極まる労働に振り回される私…………

「いらっしゃいませぇ! 空いてるお席どうぞー!」

「お待たせしましたオムライスです! はい少々お待ちくださいね!」

「ふぎっ……ぴぎゃっ…………」



 次々と流れ込んでくるお客さん。注文の声は鳴りやまず、調理の手は止まらず。窓の外をチラ見すれば行列はまだまだ続き。

 永遠とも思えるピーク時に、半泣きになりながらキッチンの奥でひたすら皿洗いをしている哀れな魔法使いとは私のことです。もう、ゴールしてもいいよね……?



「リラちゃーん皿入るよー」

「は、はいぃぃぃ!」

「こっちの泡だで器と包丁も洗ってくんねかい」

「リラちゃんコップ足りるー?」

「今でますぅぅ!」



 お湯ですすいで、こびり付いた汚れはスポンジで落としてカゴに入れて自動洗浄機へ入れる。聞けば簡単ですが、運ばれる量と間隔がとにかく早いので少しでも手を緩めればあっという間にパンクしてしまいます。


 工業化が進む国なだけあって自動洗浄機が導入されていたのは不幸中の幸いですが、結局のところ機械で洗う間の待ち時間もあるので、それも計算して先に入れる物と後に回す物と考えなければなりません。レストランの洗い場の仕事はひたすら体力勝負と思っていましたが、頭も使うとは……


 それでも、メフィさんは慣れた顔で注文に料理運び、片付けと会計まで一手に担うのですから言葉が出ません。

 そしてもっと衝撃的なのが情報屋。曰く「今日は手伝いが2人もいで助がる。普段はわがだけで店回してっからひとづも違う」とのこと。3人でも大変なのに全部をひとり……??? 脳内が宇宙の真理を知った猫状態です。

 そんな中、あるお客さんの会話が耳に入りました。



「でな、かわいい女の子がいたんだ。薄茶髪でちょっと伸ばした髪の東洋人ぽい顔つきなんだけど、眼鏡がまた似合う娘だったんだ」

「それでナンパは成功したのか?」

「話しかけたら相槌は打ってくれたけど、本に夢中でこっちの話は全然だ」



 薄茶色の髪でセミロングで眼鏡をしながら本を読む、比奈姉の特徴にピッタリ当てはまります。お客さんの元へ駆け出して詳しく聞きたいところですが、そんな暇は当然なく、比奈姉への意識は大量になだれ込む洗い物によって片隅に追いやられました。

 そして休む暇なく時は過ぎ――



「「ありがとうございましたー!」」

「あり、がと、ござまし、た…………」



 ランチタイム営業の最後のお客さんが帰り、やっと労働終了です。

 最後にやったのはいつか忘れましたが、シャトルランを思い起こさせる疲労感です。いや、むしろシャトルランの方が途中のインターバルがある分、少し楽かもしれません。ペースを落とさず手を休めず同じ動きを素早く繰り返しながら、頭まで使うのですから。



「いやいや今日は助がった。リラちゃも初めてでくたびっちゃでしょ? ちっとばかしお礼だ、んまぇものくわっせ」

「あ、ありがとうございます……」

「ねぇ私のは?」

「メフィはいづもくわっせよ。あねさまがご飯用意して待ってるぞ」

「そんな~」



 まかないを頂き、労働は終了。ワンオペで店を回す情報屋には頭が上がりませんが、それはそれとしてもう二度とやりたくないです。



「いい加減バイトとか雇ったら? 別に給料払えない訳じゃないでしょ?」

「もう慣れっちゃから今更ねぇ。まぁ待たせぢまうのは申し訳ねえと思ってっから、これ以上お客さんが増えるんだら、ちとは雇うべがどは考えでるよ」

「体壊さないでよ」

「かだってんでね。おらはメフィとちとしか変わらねべな。ところで、例の件の話さお客さんから聞いたど」

「え、ホント!?」



 メフィさんが目を輝かやかせながらカウンターに身を乗り出します。

 お客さんから聞いた、ということはあの激務の中で、あの繁盛の中で会話を聞いていたということ。えっと、どこかのスパイですか? それとも聖徳太子の生まれ変わり? 聖徳太子も異世界転生しちゃった?



「35番街のアリアネさんげのみっつ隣に住んでるわけえあんちゃんの家から変な匂いがたまにするんだと。んでおがしごとに、いつも天窓が開けっぴろげなんだとさ」

「ごめん、アリアネさんの家ってどこ?」

「わがアリアネさんも知らねのか。35番街じゃ大家族だつって有名だ」

「知らないよ…………ともかくそこの家の人が怪しいのね。分かった早速調べてくるよ」

「あ、あとちょっといいですか…………?」



 メフィさんが立ち上がるのを阻止するように会話に割り込みました。勤務中に聞いた比奈姉の話を聞かなければ、この場を離れることはできません。



「あの、私の探してる姉についての会話が、耳に入ったんです。薄い茶髪の女性が眼鏡をかけて本を読んでて、ナンパしたけど夢中で気づかれなかったと。それ私の姉の特徴とピッタリなんです…………」

「あぁそだしゃべっちゃのいたな。確かあのあんちゃんは20番街で働いてる常連だっぺな。20番街は書店の街だ」



 書店が立ち並ぶ街、比奈姉なら絶対に立ち寄るスポットです。確信にまた一歩近づき、心臓が一層高鳴ります。

 そしてフーリエちゃんの体調不良の原因にも一歩近づけました。よし、このまま前進あるのみ! 身に気合が入ります。フーリエちゃんのため、比奈姉のために!



「有力情報ありがとう。労働はキツいけど、情報は確かだから頼るしかないんだよね」

「もちっと頼っでぐれだってえがべよ。ま、フィルのあねさまにもよろしく伝えてくなんしょ」

「あ、ありがとうございました!」

「また来てくなんしょ」



 確かな手ごたえと共に、相変わらずいまいち意味を理解できない言葉を聞き流しながらレストランを後にしました。

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