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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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暗闇で輝く銀色……間違いない! あの子だ!

 紫色の月がぼんやりと空に浮かぶ夜。蒸気都市スタンレーの居住区15番街には頼りない月の光は届かず、代わりに等間隔に並べられたガス灯が暗がりを照らしていました。

 そしてこの15番街を、世にも珍しい銀色の毛並みを持つ猫――名前をローラと呼びます――が寝床としているのです。ローラは1週間前、飼い主の前から姿を消しました。目立つ毛色なのに見つからない。

 調査の結果、ローラは太陽の光を浴びると姿を消す能力があることが判明しました。ならば見つけられるのは夜しかない、というわけで私とエリシアさんと便利屋【パサートの掲示板】のメフィさんと共に15番街へ出向いたのです。

 なおフーリエちゃんは体調不良でお休みです。幸いにも熱はなく、薬を飲んだらスヤスヤ寝息を立てたので大丈夫とは思いますが、少し心配ではあります。



「今日こそ片を付けないと。これ以上時間を費やすわけにはいかない」

「昼夜逆転したら生活リズムがボロボロになります」

「それだけ酒を飲んでピンピンしてるエリシアさんがまず異常だと思います……」

「体の水分がアルコールに置き換わってるだけですから」



 アル中による謎理論を展開されました。


 15番街は以前捜索した28番街や32番街と違って道幅が広く、整備も行き届いています。建物の造りも明らかに豪華でしっかりしていて、貧富の差が哀しくも顕著に表れています。

 複数の目撃情報からローラは15番街を寝床にしている可能性が浮上。ですが毎回決まった場所ではなく日によって違うそうです。



「猫を捕まえる時は、基本は死角である真後ろから近づく。音を立てず、かつ素早くね。そして尻尾に手と腕を近づけないように掴んで持ち上げてほんの少し上に放り投げる。そして優しく両腕で抱えるようにキャッチ。猫はとにかく柔らかいから掴むだけでは抜けられてしまう。だからキャッチした後、腕を組みかえる余裕をつくるために猫を一瞬だけ滞空させるんだ」

「うっすらと道は見えるくらいの視界では難しそうですねぇ」



 ついていきながら、私も魔法で捕らえる方法を模索します。運ぶときに魔力の形を変えれば……いや普通に引き寄せるのが早い…………?



「いてっ。急に立ち止まられると……」

「リラさん。いました」


 エリシアさんの指さす先にローラはいました。

 暗がりでも目立つ銀色の毛を輝かせ、背を向けて地面に寝ています。尻尾を周期的に振るのは縄張りを主張している合図でしょうか。唯我独尊がそこに居座っているようです。

 メフィさんは立てた人差し指を唇につけ、慣れた足取りでそうっと素早く近づきます。そして尻尾に触れないよう大きく腕を開いてがっしりホールド! 空中に軽く投げるように持ち上げて見事抱きかかえることに成功しました。メフィさん得意げにウインク。

 と、その瞬間でした。


「やっぱり狙ってたかクラウンロイツの落ちこぼれご令嬢様」

「分かってるな? ソイツをよこしな」



 振り向くと二人組の男が銃口を向けています。鈍く光る銃のシルエットは小さく、恐らくそれが本来の一般的な銃なのでしょう。当たり前といえば当たり前ですが、エリシアさんのとは全く違います。



「おやおや誰かと思えば最近話題の強盗犯じゃないか。ここで捕らえれば一石二鳥、いや名声もあがって一石三鳥か」

「リラさん、いきますよ!」

「もう来ると思います」

「はい?」



 空気を切り裂く風切り音がやってきました。その音に乗ってやってくる物は片方の男の後頭部を直撃すると、Uターンしてもう片方のこめかみに激突。両方とも倒れると箒は私の手元に戻ってきました。

 そう、こっそり箒を呼び出してダイレクトアタックするように仕向けていたんです。エリシアさんはマシンガンを倒れた男共に突きつけます。



「死にたくなければ大人しくお縄についてください。いいですね?」

「クソ、こんなんで終わる俺らじゃねぇぜ!」



 男は無謀にも銃口を掴んで腕を振り上げエリシアさんを投げました。しかしエリシアさんは冷静に股関節から脚を曲げて着地させすぐ体勢を戻しました。さらに素早く距離を詰めて立ち上がる直前に蹴りを2発入れ、1人にはみぞおちに銃口を、もう1人には弾倉をぶつけ再び地面にひれ伏せさせました。こういうのって起き攻めって言うんですよね、私知ってます。



「|Vusaq Zokkas《水弾》!」



 その隙に私は水を2丁の拳銃に浴びせて無力化。そして運よく花壇を見つけたので成長中の花を少し利用させて頂くことにしました。



Fqurr Fqiv(草よ伸びろ)!」



 草を伸ばして男を縛り上げます。後で所有者に怒られないか心配ですが、これはあくまで正当防衛のため、仕方ないことなので許してくださいっ。

 エリシアさんは両脚で倒れた2人をしっかり抑えつけサムズアップ。本当に格闘技が強すぎます……



「わたしはここで見張ってるのでメフィさんとリラさんは通報お願いします」

「ここだと憲兵が治安維持を担っている。駐在所はこっち、行こう!」

「あ、はい!」



 メフィさんと共に憲兵隊へ連絡し、その足で【クラウンの掲示板】へ帰還。そして脇目も振らずフーリエちゃんの元へ直行。

 フーリエちゃんは咳き込みながらも眠れているようでした。箒で飛びながら寝たせいで体温が下がって風をひいたのか、原因は定かではないですが良くなっているのが幸いです。少し息が荒いのが、こう……いやこれ以上はいけない。



「失礼致します。フーリエ様のご様子を伺いにきました」

「ありがとうございます……」

「熱は下がってますね。咳も引いてきてますから、明日には良くなると思います」

「あ、ありがとうございます……」



 フィルトネさんはタオルを変え、飲み物と補給食のリンゴを置いていってくれました。心なしかフーリエちゃんの寝顔も穏やかになっている気がします。

 むぅ、私の手でその寝顔を穏やかにしたかったな……ともかく今回の成果を聞いたらフーリエちゃんは大喜びしてくれるでしょう。早く朝になってほしい……っ! サンタクロースを待ちわびたクリスマスの夜より待ち遠しいですよ!



「フーリエちゃん、早く治ってくださいね」



 そう願いがら、ふわふわの頭を撫でていつもと同じように添い寝したのでした。

 しかしフーリエちゃんの容態が回復することはありませんでした。むしろ悪化の一途を辿っていくのです。

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