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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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スタンレー観光そのいちっ!

 翌日。フーリエちゃんとエリシアさんと共にスタンレーを観光することにしました。

 フィルトネさんの言う通り、確かに珍しい光景はありますが、観光地らしき場所はなさそうです。ひとまず最も目立つ、中心に建つ監視塔を見に行くことにしました。



「下からロープウェイが伸びてるから、それに乗って昇ろう」

「地面じゃなくて空中に浮かべるなんて高度なことしてますね」

「建てられるかはともかく、上方向に制限はないからねぇ」



 昇っていくロープウェイを横目に、駅のある街へ下っていきます。

 道幅がどこも狭く、空中にも障害物が多くて箒で飛ぶには向かないのがなんとも歯がゆいです。それでもフーリエちゃんは箒に乗りますが、障害物を避ける動作は面倒のうちに入らないのでしょうか。

 本人がそれでいいのなら、とやかく言うことではありませんが。



「ここが駅みたいだね。切符は片道60マイカ。高いのか安いのか分からないな」

「最新技術に対する投資と、頂上まで昇る時間と体力を考えたらお得じゃないですか?」

「リラがまともなこと言ってる」

「私、普段そんなにマトモじゃないこと言ってます!?」

「え、うん」

「ンヒィ……」



 そういう立ち位置はエリシアさんのものと思ってたんですけど…………私も含まれてるなんてちょっとショック。そんな心の声が漏れ出てる自覚ないんですけどぉ……

「揺れますのでご注意ください」と係員の注意喚起に怯えつつ乗車。日本なら気にしませんが、異世界では若干の恐怖を伴う文言です。

 ロープウェイは駅を離れ空中を進んでいきます。実は私、ロープウェイに乗ったことがないんですよね。家族旅行も山じゃなくて海でしたので。



「接地感が無いのは不思議ですね。箒でも気流に支えられてる感覚があるのに」

「う、うん……そだね……」

「どうしましたフーリエちゃん?」



 フーリエちゃんがなぜか膝を抱えてうずくまっています。そして肩も揺れている様子。もしかして……



「高所恐怖症、ですか?」

「ち、違うっ! これはその、盗まれないように、前に盗まれたから」

「私達しかいないじゃないですか」

「何が起こるか、分からないでしょっ」

「それもフーリエちゃんの天才的な魔法で蹴散らせるじゃないですか」

「う、動きたくないし……」

「正直に言ってしまいましょう、フーリエさん。吐けば楽になりますよ、ほら?」



 エリシアさんが刑事ドラマのように、腕を肩に回して酒の入ったボトルをフーリエちゃんの頬に近づけます。それは二重の意味で吐くことになるやつ。



「こ、こわい……っ、安定感のない浮遊感が、箒と違って、こわい……」

「エリシアさん、私、正直に言っていいですか」

「わたしも同じことを言おうと思ってました」



 私とエリシアさんは互いに耳打ちし、アイコンタクトで同じ感想を持っていることを確認しました。そして小声で叫びました。



「「最ッ高…………!!」」

「人の不幸を……蜜にするんじゃないよ……!」



 フーリエちゃんには申し訳ないですが、ギャップ萌えというのは最大級の火力を誇るのです。普段は飄々として隙を見せず、天性の才能で困難を打ち破ってしまうフーリエちゃんがロープウェイで怯えている。これがギャップ萌えでないとするならなんですか!!

 かわいすぎる……っ! 今なら私がフーリエちゃんを手駒にできると思うと……すっごい……ゾクッて…………はぁはぁ…………



「フーリエちゃんがかわいいのが、悪いんですからねっ……!」

「意味が、分からない……よ」



 ロープウェイはゆっくりとスタンレーの街中を昇っていきます。数えきれないほどの煙突から煙が吐き出されて屋根は煤だらけ。そして張り巡らされたパイプから噴き出す水蒸気で空はモヤで覆われています。あまり景色は堪能できません。

 しかしそれも下層でのこと。上層に行けば行くほど煙と水蒸気は晴れて、綺麗で壮大な景色を見せてくれます。

 規則正しい形の建物が無秩序に密集する地上。それとは対照的な無限に広がり遮る物の無い空。それらの対比が美しいコントラストとして、工業都市の地上からでは見えない美しい風景が広がっていました。

 まるでオープンワールドRPGのスクリーンショット画像、いやそのものです。これから始まる冒険への期待と高揚感を煽る風景が現実として眼前にあるのです。


 やっぱり、異世界に来て良かった。比奈姉もいない、見慣れすぎた風景ばかりのあの世界より、断然こっちが良いです。

 あの世界で生きる理由なんて、比奈姉が失踪してからとっくに無くなってましたから。



「…………素敵です」

「………………そう、だね」

「わたしも同感ですが、フーリエさんは今こそ寝るタイミングじゃないですか」



 そんなこんなで20分ほどして到着。看板には0番地と書かれています。

 すぐ目の前に監視塔、というわけではなく周囲に施設があり、一般向けの店もいくつか見受けられます。群服の人の中に一般人もちらほら混ざっていて、ランドマークにもなっている様子。

 とはいえ物々しい雰囲気も確かにあり、気軽に行こうと思える場所ではありません。機械式の武器もあちらこちらに配置されています。



「基礎は石とセメント、見た感じ岩盤を貫いてるみたいだね。柱は鉄で、これは溶かしてくっ付けてるのか。蒸気の国なだけあって製鉄技術が発展してるね」

「すごく……凄いです!」

「さすがに中までは入れないみたいです」

「あくまでも軍事施設だからね」



 まぁそれにしても高い高い。私が住んでいた街にあるビルくらいはあります。100mくらい?

 でもヨーロッパの古城って高さありますもんね。工業化が進んでいるなら、この高さも可能なのでしょう。



「世界で一番技術が進んでるんじゃないかな、スタンレーは」

「魔法と工業、それぞれ高度に発展した都市が近くにあるって不思議な因果ですね。真逆なのに」

「不思議な因果ってなんにでもあるんだよね。スタンレーは炭鉱が近くにあったからだろうけど、コルテは神話の時代から建国が済んでて、それ以上古い文献が見つかってない。なぜその土地を選んだのか不明」

「魔力が膨大だからとかではなくて?」

「魔力が多い場所はまた別にある。保護地域になっていて【ロータス】って国の領土にある」



 とすれば、仮にここで比奈姉を見損なったら次の目的地はロータスという国になりそうです。

 魔法を追い求める比奈姉なら、魔力の豊富なロータスへ行くに違いありません。あるいは、既に訪れているかもしれませんが。

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