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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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猫がいたぞぉぉぉぉぉぉ!!!

「結局、今日も収穫なしですね」

「何ひとつありません……」



 昨日に引き続き成果を挙げられず、がっくりと肩を落としながら帰路につきました。フーリエちゃんはやっぱり先に帰ってしまいました。



「そもそもメフィさんはどうやって迷い猫を探しているんでしょうか。コツとか教えてくれてもよくないですか?」

「教えないってことは、やっぱりしらみつぶしなのかもしれませんね」

「鳴き声ひとつでもあれば……」



 と、その時です。にゃーんという猫以外にありえない鳴き声が聞こえました。

 耳を澄ませ、そちらの方向に目を向けると――いました。純銀の毛並みに翡翠のような瞳の猫が、こちらを凝視しています。

 間違いなくあれが探していた猫です



「エリシアさん、エサになりそうなの持ってますか?」

「チーズ、干し肉、塩漬け肉、ミックスナッツ、野菜スティックに唐辛子をあえたやつ……」

「お酒のつまみばかりじゃないですか……仕方ないです、AmbkIra(囲め)!」

「最初からそれ使えばよかったじゃないですか」

「いや、ほら、意識を逸らして捕獲率を高める、みたいな」



 電気ネズミのゲームでありましたよね。泥かエサを投げて、捕獲率を調整して捕まえるエリアが。

 ともかく猫は魔力の壁で囲まれました。それでも微動だにせず余裕綽々のご様子。

 近付くとその特異性がより鮮明になっていきます。日が当たっていないのに、まるで撮影用のライトに照らされたかのように輝く毛並み。珍しいだけでは収まらない、ともすれば妖の存在となってしまいそうな、ただらなぬ雰囲気を感じます。



「やっと追い詰めましたよ! ずいぶんと手間をかけさせましたね! 大人しく手中にっ!?」

「ネコガニゲテル!」



 魔法を解除し、一度は腕の中に捕えたものの、猫特有の柔軟さでスルリとエリシアさんから脱走。そして33番街と書かれた標識の下で「捕まえてみろ」とでも言いたげに佇んでいるのでした。



「待ってなさい、今行きますからねぇ! 逃げるんじゃないですよ! サシで勝負ッ!?」



 再び魔力の壁を展開しようとした瞬間、猫は33番街の方へ駆けて、消えていきました。

 文字通り、()()()のです。日の光が降り注ぐ日向の中に。



「どういう、こと……?」

「人混みも無し、障害物も無し、隠れられる場所は無いはずなのに……」



 目の前で起きたマジックのような猫の逃亡劇に、ただただ唖然とするしかありませんでした。




「ただいま戻りええええええ!?」

「あ、あのときの…………っ!?」



【クラウンの掲示板】に戻ると、マントにシルクハットをかぶった人物がソファーに座っていました。

 意外にも幼い顔立ち、長い前髪は両目をもうすぐ隠しそうなほど伸びています。雰囲気は怪しげでクールですが、身長や声から幼い雰囲気もあります。



「なになに、知り合いかい?」

「知り合いもなにも、この人に殺されそうになったんですよ!」

「殺そうと……?」



 メフィさんはその人の方へ顔を向けると、その人は首を傾けました。まるで最初からそんなことは無かったかのように。



「ボクは質問をしただけ」

「ナイフ投げてきたじゃないですか!」

「ルーテシア、無関係の人間にナイフを使うんじゃないと言っただろう?」

「でも無関係じゃなかった」

「そういう問題じゃない」



 ルーテシアと呼ばれた少女はメフィさんの説教に、反抗期の子供のように屁理屈をならびたてて反論します。一方フーリエちゃんは一切意に介さずという様子で、優雅に紅茶を嗜んでいました。



「紹介が遅れたね。この子はルーテシア。色々あって人間を信用しきれてないんだ。孤児だったのを引き取ったんだ」

「お前らがここで泊まっているのを見た。怪しいと思った。メフィに引っ付く悪い虫、そう思った。だから確かめた」

「メフィさんに向ける矢印が大きいですね……」

「命の恩人、だから」

「ちょっと!?」



 ルーテシアさんがメフィさんに抱き着いた……っ!! これはクソデカ感情を向ける真摯な愛の現れ……っ! クールで口数少ない少女と活発な貴族の娘、身分違いの恋慕……! 尊いッ!!! 最ッ高…………!!!!!!



「うおっ、へ、うえ、うえっへへ、は、はははっ……っひ! ふ、あ、はぁ、はぁ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「え、どうした……こわい……」

「お薬ご用意しますか……?」

「これは、あれだよ、生理現象みたいなものだから気にしないで」



 いやだってこんなの、耐えれないでしゅよ…………



「それで、どうだった35番街は」

「見つけて捕獲しかけたのですが、逃げられてしまいました。しかも33番街へ消えたんです、文字通りに」

「どういうことだい?」

「日向に出た瞬間に姿を消したんです。魔法みたいに」

「強い日差しで見えなくなったとかではない?」

「ええ。そんな眩しくはありませんでした」



 猫がいきなり消える。それこそマジックか妖怪の類でしか聞いたことありません。もしかして本当にローラは妖怪だったり……? 魔力の影響を強く受けると動物も変異すると言ってましたし……



「日向で姿が消える。だとしたら飼い主の証言にも筋が通る。日陰を好み、かつ姿が見えないのに鳴き声が聞こえることがある」

「つまり、()()()()()()()()()()から日陰を好んでいると勘違いしたのですね」



 フィルトネさんがおかわりの紅茶をポッドに入れてカップに注ぎました。誰のかと思えばフーリエちゃんとルーテシアさんの分でした。小さきものコンビ……



「あ、あの、もしかして既に何回か飼い主の家に戻っていたり……?」



 私はおずおずと手を上げました。3人以上の中で手を上げるのは未だに緊張します。でもちゃんとできた、偉いぞ私。まぁ「それはないと思う」とバッサリ否定されましたが。



「逃げ出した日から足音も鳴き声も聞こえていない。姿だけが消えていて音までは消えないことから、まだローラは家に帰ってないだろう」

「なら探すべき時は」

「今夜……と言いたいけど、フィル姉に働かせすぎだと怒られるから、明日の夜にしよう。今夜はわたしが行く」

「護衛とか大丈夫ですか? よければ心強いわたしの銃がありますが」

「ボクが守る。それで充分」



 メフィさんはフィルトネさんには笑顔で圧を、ルーテシアさんには重くて大きい矢印を、それぞれ向けられています。美少女ゲームならこの後にルート選択になるやつだ。



「折角ですから、明日は観光でもされては如何でしょう。他国には無い珍しい光景ならばいくらでも御座いますよ」

「い、行きましょう、フーリエちゃん!」

「んー」



 適当な返事を肯定と捉え、早々からフーリエちゃんとの観光に胸を躍らせるのでした。

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