スチームパンク、スチームパンクですよ皆さん!
吐き出される蒸気、回り続ける歯車にレールに沿って運ばれていく石炭。
大きな鉄が動く音が響き、どこかで誰かが何かを伝える声が忙しなく耳に入ります。
社会科見学で行った工場で嗅いだことあるような、機械の独特な匂い。
肌で感じる空気は決して澄んでいるとは言えず、煙たくて少し水気を感じます。
そう、ここが蒸気機関により工業が飛躍的に発展した、一言で表すならスチームパンクな国【スタンレー】です。
空は晴天でも蒸気で覆われているせいで実質曇り空。その中をロープウェイのような吊り下げ式のゴンドラが行き来しています。
遠くには高い鉄塔のような建物が見え、そこへ向かって標高が上がっていく地形をしていいます。
建物は全体的に大きく煙突が付き、破損した部分から鉄の棒が出ていることから鉄筋コンクリートでしょうか? 壁にはパイプが張り巡らされています。
そんな中でも、石畳の道の端っこには、生命の力強さを誇示するように小さな草花が生えています。
「はぁええ~! ここが蒸気都市ですか! 見たこともない機械がいろいろあって、すごくすごいです!!」
「他の国や街とは雰囲気が全然違いますね。魔法の入る隙が無さそうなくらい工業化されてます」
「私は魔法が好きだから、いづれ魔法に取って代わられるとしたら歓迎したくないんだけど、新しく普及する技術を拒み続けると変化に対応できない遅れた人間になるからねぇ……難しいよ」
「でもフーリエちゃんの言っていた通り、魔法には魔法にしかない魅力とか利点がありますし、機械には実現できない能力があります! だから魔法は途絶えませんよきっと!」
私は腕をぶんぶん振りながら力説しました。ここまで魔法が発展しているのですから、今更工業化が進んだって絶滅しないに決まってます。
なんなら私は転生前の世界でも魔法は存在していたと信じています。しかし未成熟であったがために、工業化の流れに消えていったという説を、運よく大学に入学できたら論文にまとめて発表しようと妄想していたんですから。あくまで妄想ですけど……
「とりあえず宿を抑えようか。この国で野宿は窒息する」
「ギルドに行けば紹介してもらえそうな気がするのですが」
「ここにはギルドが無いらしい。ま、確かに必要ないかもね」
「むぅ……比奈姉探しが難航しそう……」
しかし無いものは仕方ありません。別の策を考えればいいだけです。例えば有力な情報屋を見つけるとか。
「なんか空中にゴンドラみたいなのが通ってますけど、あれは何です?」
「へぇ~ロープウェイまであるんですね。凄い……」
「リラさん見たことあるんですか?」
「あ、えっと、新聞で見たことがあって、開発段階? のを」
「乗ってみたい! 乗りたい!」
「まずは宿探しが先!」
フーリエちゃんがぴしゃりと引き止めます。まるでわがままな子供を叱る母親……母性も兼ね備えている可能性が……?
しかしフーリエちゃんの思惑通りにはいかず、宿探しは難航。
1.お風呂とお手洗いが別
2.値段が1泊ひとり700マイカ(日本円で約7000円)程度
3.寝具がベッドであること
4.個室であること
以上が宿泊するにあたって設けている条件なのですが、それらに合致する部屋が見つからないのです。宿そのものは何軒があるのですが、どこも相部屋だったりお風呂が共同だったりと、安かろう悪かろうな宿ばかり。やはり工業都市であるがゆえに、労働者向けの宿しかないのでしょうか?
そうしてさまよい続けて、気づけば入り組んだ路地まで来てしまいました。
「来た道が分からなくなってしまった……まさかうっかり迷うなんて……」
「地下迷宮の人、聞こえますかー!」
「仕方ない飛ぼう。リラよろしく」
「はい!」
つま先で地面をトントンと叩くと箒が私の方へ向かってくるのを感じます。風を切る音と共に颯爽と現れて――
ドスッ!!!
「痛ッ!」
声のした方を振り向くと、後頭部を抑えて倒れた人が。私の呼び寄せた箒が、誰かの後頭部を直撃したようです。
「あ、ああ、え、そ、そ、そ、え、あ、あ、ぅ、え…………」
どうしましょう、私、生まれて初めて罪の無い人に危害を加えてしまいました。つまりは逮捕、訴訟、裁判、判決…………
「し、死のう…………」
「自分に杖向ける前に相手に謝意を向けなよ」




