一件落着!だけど何か変なような……?
「このバカがッ! 坑道の修理代は、お前の給料から天引きするからそう思え!」
「なんでわたしが……」
捜査局に戻り、案の定こっぴどく怒られてしまいました。まあ坑道をまるごとぶっ壊したので当たり前ではありますが、私もハズウェルさんも悪くないじゃん! エリシアさんが勝手にやったこと! 私は悪くない!
一応カローラに拠点を置いていた国際犯罪組織【黄金の共鳴】のメンバー全員を逮捕でき、さらに盗まれた物も全て奪還できたので多少は目をつぶってもらえましたが……
「功績は認めるが、損失が大きすぎる。報酬は無しだ」
「全部エリシアの独断。責任はエリシアにある」
「そもそも情報を与えただけで仕事として任せてない」
「私は協力を申し出て引き受けてくれた。だから協力者として報酬を貰う権利はあるよね?」
「協力したいと申し出された記憶は無い。そっちが勝手にやると言い出しただけだろ」
「言葉の綾を狙ったけどダメか」
フーリエちゃんが報酬を求め警部と押し問答。フーリエちゃんがムキになってる様子はとてもおいしいですが、早くヤニ臭い部屋から解放されたい……
「このハズウェルが責任を全て負うことで何卒ご容赦を。この方達の功績は認められるべきです。事実、協力がなければ人手が足りない我々ではもう数日は掛かったでしょう」
「お前だけの問題じゃない。一体どれだけの土地が破壊されたと思っている!? 各部署に頭を下げに行く身にもなってくれ……」
「それはいわゆる副次的な被害に過ぎません。任務達成のための、致し方ない犠牲です」
「我々は治安維持と諜報機関だ。破壊工作機関じゃないんだよ!」
「あぁもういいよ時間の無駄。時間に対する期待値が0になった」
結局最後はフーリエちゃんが時間の無駄と折れました。それでもなお若干不満げで口を尖らせています。
「杖を取り戻せただけ無駄ではないのが不幸中の幸いってことにしとく」
「逮捕しないだけありがたく思え。ったく」
警部さんは、タバコの煙を払うついでのように手のひらを振って私達を追い出しました。やっとヤニ臭い部屋から解放される…………
捜査局を出ようとしたところでハズウェルさんに呼び止められました。
キッチリしたスーツ姿に着替えたらしく、印象がガラリと変わりました。
「360度も人が変わったようです」
「180度だよ……」
エリシアさんのボケにくすっと笑うハズウェルさんの表情は、見た目相応の素の笑いに見えました。
「少しばかりお礼がしたくて。本当に、少しなんですが食べてください」
「チョコですか?」
渡されたのは銀色の包みにくるまれたチョコがひとつ。大きさはペットボトルのフタくらいあって、1個の大きさにしては大きいです。
カカオの香りが強めでビターなテイストが想像できます。
「これ、1個50マイカもする高級品なんですよ? 味わって食べてくださいね」
「こ、高級品……!」
「うちでも出てたなぁ、こういうの。値段は倍くらいしたと思うけど」
上には上があるとはこのこと。やはり貴族の食べるお菓子は、平民の想像を優に超える代物のようです。
「色々とありましたが……時には勢い任せも大事だなと実感できました」
「暴走の間違いでしょ」
「結果良ければ全て良し、です。さぁ溶けないうちに食べて下さい」
「じゃあ遠慮なく」
屈託の無い笑顔のハズウェルさんにそそのかされ、包みを開けてチョコを口に入れました。
その瞬間、「もう会うことな無いでしょう」と小声が聞こえた気がしましたが、真意を尋ねる前にチョコは噛み砕かれてしまいました――――
あれ、私は今まで何を……………………
記憶が飛んだような……? さっきまで昨夜食べに行ったお店に向かってて、その後どうしたんでしたっけ? てかここはどこ?? うーーん???
「はっ、今までわたしは何を」
「記憶が飛んだ気がするのですけど……」
「何寝ぼけてるの。エリシアがペンダントが無いって大騒ぎして、町中を探し回ったじゃん。結局、捜査局に届けられて、私の杖もエリシアのペンダントもちゃんと手元にあるじゃん」
「本当だ、良かったぁ~!! 旅に出るときにお守りとして貰ったペンダントなので、戻ってこなかったらどんな顔をすればいいか分からなくなるところでしたよ」
「授けた人は、こんな酒に溺れた旅路を送ることになると想像できたのかな」
そういえばエリシアさんは自分の店を開くために旅に出たんでしたっけ。道中でワープホールで拾った銃を拾ってしまったがゆえに、こんなドンパチ酒飲みに……文明の利器は、やはり人を狂わせるのでしょうか。
「一件落着ってことで、帰って今日は寝よう」
「なんか動いた記憶が無いのにどっと疲れてます……」
「同じく」
きっとエリシアさんの暴走に振り回さられたのでしょう。私も別方向に暴走するので人のことは言えませんが。
ふと、フーリエちゃんが階段の上をを見あげていました。が、何もありません。
「どうかしました?」
「ん、いや何も」
「そういえばフーリエちゃんの杖って何が特別なんですか?」
建物を出て、眩しい夕日に目を細めながらフーリエちゃんに聞きました。
フーリエちゃんは杖を撫でながら答えます。
「いつも使ってるのは母から貰った物。幼い頃に貰ったから、買ってくれた物なのか母のを譲り受けたのかは分からない。少なくとも特注品なのは間違いない。色んな杖を触ったけど、これ以上にしっくりくる杖は無い。まるで最初から私に合わせて製作されたみたいだよ」
フーリエちゃんは懐かしむように、杖の先端から柄を蒼と緑の瞳でなぞりました。
右手首を軽く降って杖をしまうと、今度は手元に戻ってきた予備の杖を取り出しました。
「予備の杖はカリーナで買った、上の下くらいの物。予備でもなるべく妥協はしたくないから良い奴を選んだ。魔力伝導率はメインの杖と遜色ないんじゃないかな」
「カリーナはフーリエちゃんと出会った街ですよね」
「リラが杖と箒を買った店で買った。気づいてなかったの?」
「全然……」
その時の私といえば転生したてで、憧れのファンタジー世界に感情が昂りまくってた頃。恐らく周りが見えなくなっていたのでしょう。
「ちょうど予備が欲しかったのもあるけど……」
するとフーリエちゃんは、人差し指を顎にあてて少し考える素振りを見せました。
夕日に染まるその横顔エモい!!! かわいい!!!! あぁっ、すき!!!!
「リラの純粋な好奇心に引っ張られて、私も違う物を使ってみてもいいかなって。ちょっとした懐かしさだね」
そ、そそ、そそれってつまり、私がキッカケでってことじゃないですか!?!?!?!?
こんな一端のオタクが推しに影響与えちゃっていいんですか!?!?!?!? 同担に殺されませんよね????
フーリエちゃんの同担拒否の人手を上げてもらえますかー? 上げてもフーリエちゃんはあげませんがね!!!!!
うぅ頭がフットーしそうですよ………………!?!?!?
「どうしましたリラさん? 顔色が変ですよ?」
「いつもの発作でしょ。ほんとにリラは私のこと好きだねぇ」
「ア゛ッ゛」
フーリエちゃんのイタズラぽい声色で発せられた一言で、私の意識は途絶えました。
今度は正真正銘、記憶が飛びました。




