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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第5章 小さな町ですが、物騒な事件の匂いがします!
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腹が減っては戦はできぬってね!

「話を戻しますが、どんな作戦で行くつもりですか」

「箒で飛ばして突撃。向かってくる敵は気絶させる程度の攻撃で対処。あの程度の規模ならスピード任せでも大丈夫だと思う」

「まぁ、できなくはないかもですが……中はシンプルですし」

「人数が少ないから勢いに任せるのもアリかなと」

「おい、話し込むのは結構だが、ひとつくらい注文してくれたっていいじゃねえかよ、ええ?」



 突然、店主さんが割り込んできて注文の催促にきました。身内でも取るものはしっかり取ろうという気概を感じます。



「お客さん、ウチは炭火焼の焼き鳥串が自慢でな。あとは白鷺姫(しらさぎひめ)っつう酒がオススメだ。アンタは発泡ブトウジュースだ! 一番原価が高いんだから在庫捌きに協力しろ!」

「わたし炭酸飲めないって!」

「いつまで子供舌なんだおめぇは。そんなんだから男も釣れないんだ!」

「スパイに本気の恋愛は必要ないでしょ!?」



 両腕をブンブン振って否定するスパイさん。背後を取った時のは演技らしいですが、本人が気づいてないだけで何割か素が入ってそう。



「じゃあわたしはビールとりあえず2杯と発泡ブドウと白鷺姫! 焼き鳥串5種セットに枝豆、あとツクダニ? もお願いします! おふたりは何にします?」

「あぁもうお昼か。じゃあ手羽先とアールグレイ。焼き鳥串は共有で食べるでしょ? リラはどうする」

「うぇ、えっと、じゃあだし巻き卵に唐揚げとスパークリングティーで」

「あいよ! お代はそこのちっこいの持ちだから追加は遠慮なくしてくれ!」

「ちょっと聞いてな…………はぁぁ……どうして……」



 ちょっと不憫で可哀そうですが、身内にしか見せない素というのが見られて個人的には満足。定番だけど、良いですよね、そういうシチュって。



「っと、申し遅れました。わたしの名前は――といっても本名ではなくコードネームですが――ハズウェルです」

「私はフーリエ・マセラティ」

「わ、私はモトヤマ・リラです」

「わたしはエリシア・ラーダです!」

「ふむ、マセラティですか」



 スパイさん改めハズウェルさんはマセラティの苗字に反応して、こぶしを顎につけて思考を巡らせる仕草をしました。そういえばコルテでもマセラティの名前に敏感に反応されてました。



「どうせブガッティの貴族を思い浮かべたんでしょ。私は違うよ。そこまで珍しい苗字でもない」

「そうでしたか。しかし魔法使いでマセラティとなると、つい思い浮かべずにはいられませんね」



 どうやらマセラティという貴族は名高い名家で魔法に長けているようです。

 フーリエちゃんの名前が偽名なのは、貴族の娘でありながら名前で騒がれないことから察しはついていました。しかしあえてマセラティという有名な貴族の性を名乗っているということは、マセラティだけ本名なのか、それともあえて有名な性を名乗ることで逆に隠しているのか。

 どちらにせよフーリエちゃんがフーリエちゃんである限り、私が一目惚れした推しであり救世主であることに変わりはありません。

 しかし、それはそれとして正体は気になる……そもそも正体を明かしてもいいというまでに、私がフーリエちゃんに信用されているのかモニョモニョ…………



「それで、中はどう広がってるの?」



 フーリエちゃんがお冷をひと口飲んで問いました。



「採掘され始めてすぐに閉鎖された坑道なので中は広くありません。まず一本道から2つの道に分かれていて、右に進んだら次に左へ。今度は4つの道に別れていて、そのうち右から2番目の道の先に保管庫があります。保管庫へ入るには二人同時にハンドルを回して檻を開ける必要があります」

「15人いるって聞いた」

「わたし含まずの人数ですね。犯罪組織なので当たり前ですが、全員が何かしらの罪を犯しています。強盗、強姦、万引き、詐欺等々」

「つまり泥棒、人間のクズ、チンピラ、ペテン師の集まりってことですね。肥溜めみたいです」



 そんな会話をしていたら料理が届きました。アルコールと焼き鳥の香ばしい匂い、これが居酒屋の香りですか。

 焼き鳥はもも、むね、かわ、レバー、手羽先の5種が2本づつ。ツクダニは名前の通り、のり佃煮で私の手羽先も到着。しかも店主さんのご厚意で全てプラス1皿。

 腹が減っては戦はできぬ、有難いかぎりです。ハズウェルさんはすっかり顔が青ざめていますが…………



「では、かんぱーい!!」

「乾杯」

「か、かんぱーい」

「うぅ……」



 グラスがカチンと響き、真っ昼間の宴会が始まってしまいました。まぁエリシアさんが酒を飲むのはエリシアさんだけですが。

 まずだし巻き卵をひと口。固めの焼き加減ですが、噛めば噛むほど白だしのうま味が染み出して美味しいです。味付けはお酒のつまみになるよう濃いめで、それが逆にクセになります。

 焼き鳥は炭火の風味が鶏肉のあっさりめの味をガラッと変え、しかし部位ごとの特徴は隠さずに、甘いタレが未成年にも分かるように〝お酒に合う味〟を教えてくれます。

 手羽先は塩味が強いパリパリの皮と、肉本来が持つの濃い味により水がガブガブと進みます。なるほど、これがお酒が進むってことなんですね……!



「ブッハァ〜!! うまい!!やっぱ焼き鳥には定番のビールが進む! 白鷺姫もピリッと辛口で、ブドウ発泡ジュースは甘酸っぱい! 真逆だからこそ飲み比べが楽しいですねえ〜!!」

「そんなに飲んで午後にきませんか……?」

「気にしないで。平常運転だから」

「おいしいかも〜〜」



 ハズウェルさんの心配など意に介さず、絵に描いた酒豪のように消えていくお酒。

 ですが、おつまみでお酒が進む感覚は何となく理解できました。ビールと同じ炭酸だからか、スパークリングティーを一気に喉へ流したくなります。



「ごちそうさまでした!」

「ご馳走様」

「あいよ! 会計7000マイカな!」

「昼食の値段じゃないぃ…………」



 渋々と支払うハズウェルさんの姿はスパイの雰囲気を一切感じさせません。任務が成功したら、食事代の何百倍もの報酬がハズウェルさんに入ると信じて、有難くゴチになります。



「ボーナス上がらないかな」



 …………スパイの懐事情は、案外世知辛いようです。

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