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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第5章 小さな町ですが、物騒な事件の匂いがします!
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敵地視察は基本!

【黄金色の共鳴】が根城とする拠点は、東の外れの袋状になった土地にありました。

 露天掘りでもされたのか、洞窟の入口周辺とそこへ至る道だけ整備されており、それ以外は高い崖になっていて植物も手付かずでした。


 まずは敵地調査ということで、その崖の上から入口を観察することに。草木に隠れて隠蔽行動、これまた定番シチュですねぇ。一度やってみたかったんですよこういうの。

 エリシアさんの単眼鏡で覗いてみると、入口に護衛が2名いて他にちょくちょく出入りがあるといった様子。

 護衛の武器は短剣。体躯はそこそこガッチリしてますが、筋肉モリモリマッチョマンほどではないですね。



「洞窟というより炭鉱みたいな感じだよね。となればそこまで複雑じゃないかも」

「とっとと突入しちゃいましょうよ。銃を向ければひれ伏しますって!」

「その程度でひれ伏すならこんなことやってないでしょ……」

「透明になる魔法で潜入できませんか?」

「中だと屈折させる光源が少ないから微妙」

「あーそういう……」



 いくら魔法があるとはいえ、3対15は非常に不利。やむを得ない傷害がどこまで許されるのか分かりませんし、自爆に巻き込まれる可能性も無いと言い切れません。

 強引な手段ならいくらでもありますが、それはリスクを顧みない場合の話。私達の目的はメンバーの逮捕ではなく盗難品の奪還です。

 極論、メンバーを相手にしなくてもいいし、こちらも相手にされないのが最も理想なのです。



「触手みたいに絡めとるとかできませんか?」

「魔力でってこと? 」

「そうです」

「物を掴めるくらいに魔力を固めると見えちゃうし、そこまでの長さと密度だと魔力消費が激しいよ」

「やはり銃を乱射して!」

「やるなら1人でやってきて。私は犯罪者になりたくない」

「え、ちょ、こっち見られてませんか!?」




 フードを被ったメンバーの1人が、明らかにこちらの方を向いているのです。距離と高低差と障害物でかなり見えにくい位置にいると思ってたのに、バレてる……!?

 しかもこちらを見ているメンバーに、また別の人が話しかけてきているではありませんか! 完全に周知されちゃいますよね!?



「ど、どうしま、しょうか!?」

「会話聞いてみようか」



 すると女性と男性の声がどこからともなく聞こえてきました。

 イヤホンを耳に近づけたような音質で、ときより風切り音がノイズになって聞き取りにくくなります。



『何か――ったの――』

『いえ、ちょっと珍し――が生えていたので』

『それは――だろ。早く騙して――持ってこい』

『はい』



 疑わしいですが、会話上ではバレてないようです。そのままフードを被った人物は町の方へ去っていきました。



「これ、もしかして風の方向を操ってこちらに聞こえるようにしているんですか?」

「正解。風の流れをこちらに向けつつ、耳元で声が大きくなるよう制御もしてる。それにしても気になるな……あれが捜査局の送ったスパイ? 」

「追ってみましょうよ。ハズレだったらそれはそれで脅迫材料にできます」

「それもそうか」



 エリシアさんの提案により、フードの人物を追うことにしました。崖の上から後をつけ、拠点から離れた位置まで進んだのを見計らって上からダイブ!

 あ、もちろん箒でですよ? エリシアさんは生身で飛び降りてきましたが……15メートルはあるんですけど!?



「ちょっとそこの人、話が聞きたいんだけど」

「に、逃げようだなんて、お、思わないでくださいよ……?」

「あー結構衝撃きますねこの高さだと」



 2本の杖と1丁の銃を背後から向けられ、両手を上げるフードの人物。これだけだと、どっちが悪党か分からないですね。

 やがてゆっくりと振り返ると……



「ふ、ふえぇ……殺さないでくださいぃぃぃぃ」



 めっちゃ情けない声がフードの影から聞こえました。

 呆気にとられて杖を下ろすと、ぺたんと座り込んでしまいました。フードを下ろすと、黒髪ショートカットの子供っぽい印象の顔立ちが露わになりました。

 正直に言っていいですか? かわいいですね……。ふえぇ……なんて言う典型的な臆病少女、初めて見ました。



「わ、わたしは違うんです! あの、た、頼まれて……!」

「うん、分かったから落ち着こう?殺す気はないから。君はもしかして捜査局の人間かな」



 質問をした途端、さっと彼女の表情が変わりました。突き刺すように凝視し、弱々しい雰囲気とは対照的に厳しく選別するようなもの視線に思わず硬直してしまいました。



「なぜ、それを?」

「私達も【黄金色の共鳴】を追っているんだ。盗まれた物を取り返す為に、捜査局で場所を聞いて君のことも耳にした」

「わたしもペンダントを盗まれてしまいまして。あそこにありませんか?」

「ええ。その杖もあります」

「やっぱりね」



 予想通り【黄金色の共鳴】に盗まれていたようです。そしてフーリエちゃんは彼女に提案を持ちかけました。誰が相手でも対等に堂々と。それがフーリエちゃんの交渉術でした。



「お互いに協力しない? 聞いた話だと証拠不十分で逮捕できないんでしょ? 私達の盗難品を奪還すれば、それが証拠になって君も任務を完了できる」



 その提案にスパイさんは短く答えを返しました。低く、静かに圧を感じさせる声色です。



「別の場所で詳しく聞きましょう」



 立ち上がり、土ぼこりを払うとサッと振り向いて足音を立てずに歩いていきます。小柄な体躯からは想像もできない冷厳な背中を見せながら。

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