目には目を、歯には歯をってね
「ない、ない、ない、ない!!」
翌日。エリシアさんの騒ぐ声で目が覚めました。
「うるさいなぁ……朝から何?」
「おはようございますフーリエさん、リラさん。朝は冷えますねって、それどころじゃないんです! わたしの大事なペンダントが無くなっているんです!」
「酔っぱらってたからでしょ」
どうやらエリシアさんのペンダントがなくなった様子。そういえば昨夜、食堂で寝ながら手に握っていたのを思い出しました。お手洗いから戻ったらなくなっていましたが。
それを伝えるとエリシアさんは目を丸くさせ、着替えもせずに部屋を猛ダッシュで出ていきました。
「え、ちょ、エリシアさん!?」
「放っておけばいいさ。どうせ戻ってくる」
そう言ってフーリエちゃんはポンっと魔法で着替えました。しかしフーリエちゃんも何かの違和感に気付いたようで…………
「あれ……予備の杖が無い。いつもここに入れてあるのに…………えぇ〜嘘でしょ…………」
「フーリエちゃんもなくしたんですか……?」
「忘れ物をした。悔しいけど」
エリシアさんと同じ場所で同じ失態をしたのが気に食わないらしく、大きく溜め息をついて自分に呆れるフーリエちゃん。ちょっと不憫、でもそこがかわいい。
失態で眠気も覚めたのか、普段より1.5倍くらい機敏に動いて昨日の店に向かいました。小動物みたいでもっとかわいい。
店に到着すると、なんとパジャマ姿のエリシアさんが店の前で酒瓶をラッパ飲みしていました。それも大粒の涙を流して。
「えっと、何があったんですか……?」
「ない! 店にもない! 忘れ物はひとつもないって言われまじだ!」
「じゃあ杖も無いってこと……?」
フーリエちゃんの顔からだんだんと血の気が引いていくのが見てとれました。
落とし物でも、忘れ物でも無いとなれば残る可能性は……
「店内では確実にあった。つまり、盗まれた」
「さあ面を見せやがれ……銃弾が待ってますよ……!!」
「ちょ、落ちついてください!」
銃を構えて暴れたがるエリシアさんをどうにか抑えて、話題は犯人捜しへと移りました。
「確実なのは店内にいた人だよね。潰れていた瞬間を狙ったのは間違いないし、店員に聞けばすぐ分かるんじゃ」
「わたしも盗まれたと思って聞いたんです。そしたら見てないって言うんです! おかしいですよね!?」
「でもあの時は店員さん1人でしたし、満員に近かったので見逃しても仕方ないかと」
ふと、昨日目についた集団の存在が頭に浮かびました。
風で飛ばされた新聞に掲載されていた犯罪組織【黄金色の共鳴】。それがこのカローラでも出没していると書いてありました。
いや間違いありません。私のオタクとして培われたフラグ察知能力がビンビンに検知しています。ふと目についたものが後々の事件に繋がる定番フラグゥ!
「これ、【黄金色の共鳴】の仕業です」
「やはりそうでしたか! なんとなくそんな気がしてました!」
「絶対ウソ」
フーリエちゃんのジト目、好き。
【黄金色の共鳴】の仕業であれ、そうでないであれ、自治組織に報告しなければなりません。どうやらカローラには捜査局という名称で警察署のような建物があるようです。
どうやらフーリエちゃんは珍しくやる気のようで、自ら犯人を探し出すと言い出しました。
「予備とはいえ大事な杖。こればかりは私もしっかり動かないと」
「お、ついにフーリエさんの本気が見れるんですね! ワクワク」
「本気を出す前にカタをつけるよ」
ローブをはためかせ先頭を歩むフーリエちゃん。いつもと違う表情と動作に胸が高鳴ります。はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………普段とは違う姿にオタクは弱いんですよ…………ッッッッッッッ!!!!!!
「そういえばリラは盗られてないの?」
「私は大丈夫みたいです。警戒は怠りませんから」
「コミュ障だから他人に警戒心が強いと」
「いや、多分違う……と思います」
まぁ人混みで持ち物に気を付けているのは事実。同人誌即売会で大事な戦利品を盗られてはたまったもんじゃないですからね! 同志に成りすまして最低な行為をする輩もいるんです! 皆さんも注意してくださいね!
そんなこんなで調査局へ到着。
建物に入ってすぐフーリエちゃんは近くの職員を掴まえ、なんと自ら【黄金色の共鳴】の拠点に乗り込みたいと申し出たのです。
「大事な杖を盗まれたんだ。出来損ないの犯罪集団の手に握られたままなのは気に食わない。奪還するから場所を聞きたい」
「あーっと、ひとまず別室に来てください。担当を呼ぶので……」
別室に連れて行かれ、数分後に現れたのはジャケットと細身のズボンをぴっちり着込んで、タバコを口に咥えたいかにも捜査官らしい風貌のお方。
ガタイが良くて見た目年齢は中年くらい。渋いオジさんというのが第一印象でした。
「被害報告かと思えば自ら奪還したいと直談判とは、一体どんな風の吹き回しだ」
「目には目を、歯には歯を。盗まれたら自分で取り返したいというのが心情ってものでしょ?」
「フゥン…………」
彼は横目で、フーリエちゃんをつま先から頭のてっぺんまで目を注ぎました。その見る目の移動距離が短かったことは言わずもがなでしょう。
「本気のようだな。そしてヤツらを捕まえる気もないと」
「そこまで分かる?」
「何百人とツラ合わせて取り調べして、逆に分からないなら失格だろ。お前らは複数の意味で尋常ではないな」
尋常ではない魔法の腕の持ち主に尋常ではないコミュ障、尋常ではない酒飲みの3つですね。
彼は、今度は私とエリシアさんにも吟味するように視線を流し、タバコを一息吸って煙を吐きました。ニコチンやらタールやらの嫌な臭いが辺りに立ちこめます。
「お前らは信用できそうだ。拠点を教えてやる」
「助かるよ」
「だがコッチは協力しない。頼んでやってるワケじゃないからな」
「仮にひっ捕らえて突き出したら何か貰える?」
「それは上が決めることだ。逆にお前らがメンバーを殺したら、いかなる理由であれ罰せられるからな。まだアイツらは1級罪人ではない」
1級罪人とは、生死を問わず逮捕することが認められる指名手配犯のことだそうです。仮に生きて逮捕されても死刑は確実。
【黄金色の共鳴】のリーダーは2級ですが、カローラの拠点にはいないそうです。
「ヤツらの根城は東の外れにある洞窟だ。潜んでいるのは15人ほどらしい」
「ん? なんでそこまで分かっているのに逮捕しないんですか?」
エリシアさんの疑問に、彼はまたタバコをふかしてから答えました。
「まだ罪を犯した証拠を掴めてないからだ。潜伏だけしている分には手出しできない。とはいえ国を股に掛けた犯罪組織、故に迅速な対応が求められる。そこで今は部下を送り込んで証拠を掴もうと動いているところだ」
「じゃあその部下のことも教えて。間違って傷つけないように」
そう語るフーリエちゃんはどこか挑発するような表情と声色でした。捜査官に対しての挑戦状のつもりでしょうか。いいな……
「そこまでは教えられない。自分達で判別しろ、できるだろ?」
「ん、分かった」
「取り返したら報告してくれ。それが証拠になる」
「報酬くれたら考えるよ」
「それは上が決めることだ」
「またそれ? まぁいいや行くよ」
落胆ぎみに立ち去るフーリエちゃんと後を追うエリシアさんを、彼はまだタバコをふかしながら横目で見送っていました。
もう指に唇が付きそうですが、そこまでして吸いたいものなんでしょうか? 一応「失礼しました」と一礼して私も後を追いかけました。
「まずは敵地観察ってことで拠点に行くよ」
「フーリエさんノリノリですね!」
「私は殺伐とした人間ではないんだけど」
「かわいい……」
ノリノリではなくとも、意気込んでるフーリエちゃんは尊みの極み。
この事件、私も積極的に首を突っ込ませて頂きましょう! フーリエちゃんとエリシアさんのために!




