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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第4章 ドラゴンとのいざこざで、村が大ピンチです!
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よりみち 比奈姉の手紙

 道中で早速、比奈姉(ひなねえ)の手紙を読むことにしました。フーリエちゃんもエリシアさんも気になるらしく、両脇から覗き込んできます。

 封筒を開け、中から出てきたハガキサイズの紙には、綺麗な日本語で文字が書かれていました。


『ハーデンベルギアは聖者の夢を見るか

 飛び火に照らされた声はリナリアか

 私は幻想を追う。最後のアネモネが訪れるまで

 また会えたなら、ひと振りの魔法を』


「その文字は何?」

「あ、えっと、これは、比奈姉と作った秘密の言語、です……」



 こっちの異世界に慣れてしまい、比奈姉の手紙が日本語で書かれている可能性が頭から抜けていました。

 とっさに適当な嘘で誤魔化しましたが、無理があるので多分バレてる。バレたところで問題になるようなことはフーリエちゃんとエリシアさんなら無いと思いますが……

 一応、詮索はされなかったので不幸中の幸いでしょうか。



「どんなことが書かれているんですか」



 エリシアさんは興味津々でした。



「えっと、詩、みたいです。何かを待っている……?」



 “飛び火”はコルテでの爆破事件を指していると推測できます。そして“最後のアネモネ”を待ちながら“幻想”を追いかける。

 “幻想”はファンタジー的な何かとしか推測できません。シンプルに魔法なのか、それともよりスケールの大きいものなのか。

 “最後のアネモネ”は“飛び火”の推測が正しければ私こと本山莉羅(もとやまりら)を指している可能性はあります。そもそも比奈姉があの時に私の声を聞いていたなら、少しでも私の姿が視界に入っていたのなら、この推測は真実性を増すでしょう。

 しかしリナリアとは一体、ハーデンベルギアに聖者の夢とは一体……?



「見るからに難しそうですね」

「そ、そうですね。実際、難しいです」



 筋は見えていますが、ところどころ途切れていて確証となる道が見えない、そんなもどかしさが頭にへばりついていました。比奈姉は文系も理系も成績優秀だったので、文系の文学的要素と理系の論理的要素が組み合わさると、この手紙のような具合の口調になります。



(確かあの時もだったけ)



 それはある日のこと。比奈姉に魔法の存在証明について聞いたときだった。確か数学の利便性が鍵になるみたいなことを言っていた。


『数学は利口でね、こちらが条件を与えれば式によって成される動作に基づいて結果を出力してくれるの。まさにパソコンのように。とは言えそれは至極当然のことだけど、その動作が肝心なの。

 物理学や科学、芸術にまで結びつくその動作は量子から宇宙までを包むと言っても過言じゃない。まるで超弦理論のように。

 つまり数学はこの世の全てを示す教典なの。それどころか、我々人類が解明できていない、更に別世界の事象まで観測できるかもしれない。 いくつかの算用記号と0から9までの数字が織りなす式は幻想世界すらも繋げてしまう。手掛かりの全ては数学の中にある――哲学的でもあるわよね』


 比奈姉はスイッチが入ると、いつもこんな調子で話していた。正直、内容はほとんど理解できてないけど、比奈姉が好きなことを好きなように語る姿だけで満足だった。早口でまくし立てるような喋り方は、ベクトルが違えど私も同じ。こんなところでも姉妹の繋がりを強く感じずにはいられなかった。

 恋愛感情とも違う比奈姉にのみ向けられない感情。この異世界でも届いていることを願って。

 たったひとり、世界中の誰よりも近くて濃い血の繋がりであることは、誰一人として否定できない。させない――



「……ラ……リラ!」

「はっ……」

「やっと戻ってきた」

「おかえりなさい」

「あっ、た、ただいま、です」



 フーリエちゃんの呼びかけで脳内が現実に引き戻されました。すっかり自分の世界にトリップしてしまっていたようです。



「少なくとも、待ってる気は無さそうだね」

「そうですね……まあ探求心はとにかく強かったので比奈姉は」



 比奈姉は典型的な、没頭すると周りが見えなくなるタイプでした。

 それに比奈姉からすれば、妹が同じ異世界にやってきたなんて信じられないことでしょう。直接顔合わせをしていない妹と似ている声の主待っているよりも、妹が現実として自分に追いついてくるのを待つ方が有意義なのは理解できます。

 正直私だって完璧には信じきれていません。でも、例え限りなく0が続くとしても、その先にある1を引く可能性に賭けたいのです。真実をこの目で確かめるまでは盲目でもいいです。比奈姉がいなかったら、その時に考えますから。



「あ、そういえばフーリエちゃん。この先にワープホールはありますか」



 私は思い出したようにワープホールについてフーリエちゃんに尋ねました。いや実際に思い出したんですけど。

 この異世界と元いた世界との繋がりを示唆するワープホール。異なる時間軸から様々な物が送られてくるという謎の事象ですが、その送られてくる物が、どうも見覚えのある物ばかりなのです。

 断定はできませんが、戦艦の大砲のような物に魚雷、電子機器の基盤。そしてワープホール経由ではありませんがアラビア語らしき言語で書かれた書物。

 断定できなくとも、否定もできない証拠を見てきました。



「ワープホール? あれって確か普通は同じ場所に現れないよね? 周期的に変わるんだっけ?」



 フーリエちゃんはエリシアさんを見やりました。



「同じ場所にずっと出現しているのが世界で4か所あって、あとは周期的に変わるのと極まれに出現するパターンだったかと。とはいえ母数がかなり少ないですので、狙って見つけられるのもではないです。以前のは運が良かったんですね」

「コルテの時にもう1回見にいけばよかったです……」

「あの時はそれどころではなかったですしね……調べるにしても、世界中の研究者が頭を悩ませているほどですから相当難しいでしょう。一方的に物が来るだけでこちらから送れないので、あの中でどうなっているのか解明できないんですって」



 ワープホールの謎を解明するのは難しそうです。私は比奈姉やフーリエちゃんのように頭は良くありませんから。

 最低限、この異世界の中で時空を超えて繋がっているのか、別の異次元と繋がっているのかだけでも知りたいのですが……。比奈姉が手紙に書いた“幻想”とはワープホールを指しているのでしょうか。



「ともかく比奈姉を見つけることが最優先です」

「目的があっていいねぇ。私は特にこれがしたい、あそこに行きたいとか無いし、ひたすらリラの脛を齧りながらついていくよ」

「わたしも、お二人が行くならどこまでも!」

「待ってて比奈姉、今行くからぁ……っ!!」

「うわ急に走り出した。しかも意外と瞬発力あるな」

「箒使わないんですか……」



 私は気合いを入れて走り出します。ひたすら比奈姉の後ろ姿だけを追い求めて。

 果てしない0の向こう側にある1を追いかけて。

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