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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第4章 ドラゴンとのいざこざで、村が大ピンチです!
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それでも、進む

「もう行ってしまわれるのか」

「あまりのんびりはしてられないからね」

「そうか……すまないの。満足に与える物が無くて」

「仕方ないよ。貰える分だけありがたく頂く」



 木片が散らばった村の姿を背に、村長がありとあらゆる作物を分けてくれました。最初に提示した半年分には遠く及びませんが、それでも多すぎるほどの量を頂けました。人の善意は遠慮なく受け取ったほう互いに気持ちが良いんです。

 他の村人達は既に隣町へ避難したそうで、全員無事だったのが不幸中の幸いです。



「もうこの村も長くないじゃろうな……自給自足で生活してきたがゆえに、失ってしまえば戻すことは困難じゃ。悲しいが、それが自然の中で生きるということなのじゃよ」

「私も故郷を離れた身だけど、案外なんとかなるものだよ。新しい出会いに恵まれたり、ね……」

「そうじゃな……若人にとっては、むしろ村の外に出て広い世界を学ぶ方が良かろう」



 村長は遠い目で村を見つめていました。

 結局、温厚と言われたユージェズドラゴンも、人間側に非があるとはいえ、多くの伝承の通り多くのものを奪い去っていきました。残念ながら“都合のいい魔法”でも、時までは戻せません。



「あ、あの、例の手紙も……」

「あぁそうじゃな。ほれ、これじゃ」

「ありがとう、ございます」



 震える手で封筒を受け取ります。

 村長からの依頼を受けることになったキッカケ、比奈姉(ひなねえ)の残した手紙。確かにそこにいた、コルテでの比奈姉の姿。

 爆破事件でうやむやになってしまいましたが、比奈姉はあの時、私の声に反応して振り向きかけていたはずです。あの時、比奈姉は何を思っていたのか。その後にどんな思いを巡らせていたのか。全てが事実であるならば――



「リラ、(はや)る気持ちは分かるけど後にしよう。隣町までどのくらい?」

「歩いて半日程度じゃろ。……ヘルムは何か言っておったか?」

「ありがとう、と言っていた」

「そうか。龍民族の村にもお伺いをしなければならぬな」



 村長はやつれた表情で、消え入りそうな声で呟きました。こんな状況下では私からは、心中お察し致しますという当たり障りのない気遣いの言葉しか言えません。

 フーリエちゃんが横目で合図を送り、私達は出発の準備をしました。



「そろそろ行くよ。ありがとう」

「どうかお元気で!」

「お、お世話に、なりましたっ!」



 村長と別れを告げ、村の門だった柱の間を通ったときでした。



「待ってください!!」



 凛とした声が鼓膜を震わせました。

 振り返ると、ヴェロさんが機械の体なのに息を切らした仕草を見せながら、こちらへ走ってくるのが見えました。心なしか、前より表情が和らいでいるように見えます。



「この度はご迷惑をお掛けしました。そして、ありがとうございます」

「当人が納得する結果なら、こっちから口出しできる事はない」

「ええ、十二分に納得できました。ヘルム様との時間は本当に短いものでしたが、そのほんの僅かな時間でも、わたくしのことを想って頂けたことが、ただただ恐悦であり身に余る思いでございます。これが、運命というものなのでしょうか……」



 ヴェロさんは遠くへと目を向けました。それは道の先でもなく空でもなく、時空の先を見据えているようでした。

 きっと約2000年前のヘルミーさんと、時を超えて出会ったヘルミーさんの子孫であるヘルムさんに想いを馳せているのでしょう。



「ブ、ヴェロさん、なんか、表情が明るくなった気がします」

「そう、ですか?」

「今のヴェロさんは、笑ってます」



 私の言葉を聞いて、ヴェロさんはクスリと小さく声を漏らしました。本当に笑ってくれたようです。

 彼女に渡した手紙は、確信を持っていたとはいえ中身を見ていないので、あの時点で渡すのは賭けでした。でもあのタイミングしかなかったのです。


 私の考察――あくまでアニメ視聴後の考察のようなものでしたが――では、約2000年もの間閉じ込められていた空間に渡し損ないの手紙があるのは、明らかに何かを意図して残されたとしか考えられません。おまけに宛名も書かれていましたし、見つけた当初はそこまで深い意味があると思っていませんでしたが、ヴェロさんの告白を聞いて絶対に渡さねばならない物だと確信しました。

 ヘルミーさんは渡し損ねたのではなく、あえて渡さなかったのです。長い永い時を超えて目覚めたヴェロさんに読んでもらうために。懐に入れなかったのは、契約の偽りを誰かに知られてしまうのを危惧したのでしょう。

 徹底的に秘密を隠蔽しながらも、ヴェロさんがかつての部屋に戻ってくると信じたヘルミーさん。ヴェロさんは詳しく語りませんでしたが、2人には主従関係を超えた関係があったのでしょう。そうでなければ、こんなことはできません。



「『どんな未来であろうとも貴女はただ唯一のヴェロ・ノーザン。依然変わりなく』そう書かれていました。ヘルミー様は今回のような事態に発展することも織り込み済みだったのです。その場凌ぎではなかったのです。どんな結果になろうとも、わたくしを未来で生き残らせるという、ヘルミー様の思惑。それをヘルム様も受け継いだのだと、わたくしは確信しております」



 ヴェロさんは手紙を胸に抱え、敬慕の目で空を見上げました。雲ひとつない澄み渡った空です。



「それで、ヴェロさんはどうするんですか。村はもう終わりだと村長が言ってましたが……」

「わたくしは旅に出ます。お従えする方は居なくなってしまいましたが、何もしない事も出来ませんので。まずは龍民族の村をもう一度訪ねるつもりでございます」

「あんな閉鎖環境によく行こうと思うこと」



 フーリエちゃんが小さく皮肉るように呟きましたが、ヴェロさんは意に介さず深々とお辞儀をして別れの挨拶を交わしました。



「本当にありがとうございました。深く御礼申し上げます。御三方の旅路に幸が多からんことを」

「ヴェロも気を付けて。その服はすぐに着替えた方がいいよ」

「ふふ、そうかもしれません。では再開することがあれば、また」

「また、いつか!」

「さようなら!」



 ヴェロさんの姿が見えなくなるまで手を振って、次の目的地に向かいました。フーリエちゃんによれば次の次で蒸気の国スタンレーへ着くそうです。



「ヘルムはヴェロが絡んでなくとも、自ら生贄となることを選んだだろうね。管理人が言ってたでしょ。族長の期待に応えようと勉強と修行ばかりだったと。それに反するようなお気楽な性格、全てを背負うと突然言い出して、更に私達が調べている間は姿を現さなかった。超がつくほど真面目で努力を他人に見られたくないタイプの人間だよ」

「最後まで龍民族として生きようとしていたんですね」

「真面目な人ほど誤魔化したり、隠したりするのさ。何せよもう終わったことで、私達には関係ない話。こっちにはこっちの目的があるんだから、それに向かって進むだけ」

「そうですね」



 時には激動、時には愉快、時には哀憐。出会いの先にある結末は誰にも分かりません。それでも私達は進み続けます。

 それぞれの想いを抱えながら、その行く末にあるものを求めて。

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