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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第4章 ドラゴンとのいざこざで、村が大ピンチです!
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ドラゴンと龍民族の関わり

 開かれた本の中身は、読めない言語の文字列とドラゴンの絵が書かれていました。フーリエちゃんも読めていないので古代コルテ語とも違うのでしょう。



「まずドラゴンはどんな存在なのかについて。ドラゴンは洞窟や火山に流れる膨大で濃縮された魔力を力の源としている。それ故に魔力の変化に敏感で、ドラゴンの異変は魔力の異変であり、自然の異変となる。だから龍民族にとってドラゴンとは自然の代弁者なんだ」

「でも違ったじゃん」

「うっ……ま、まあとにかく、龍民族はドラゴンを通じて自然を知り、守ることが役目。契約によってドラゴンと良好な関係を築いて人間側に還元していく。仲介役みたいな立場だね。そしてこれが契約の証」



 ヘルムさんは辞書サイズの箱を開けました。中には煌びやかに輝く宝石のような物体が8つ、厚いクッションに包まれて入っていました。それぞれ赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、透明の色です。



「これは各地方に生息するドラゴンとの契約の証。ドラゴンの魔力と龍民族の血を掛け合わせて固めた結晶。うち6つは絶滅したか、ごく少数になってしまったけど、ワイバーンとユージェスドラゴンは未だに多く生息している。そして緑がユージェスドラゴン。耐えられる自信があるなら魔力を注いでみるといいよ」



 意味深な言葉を受けてフーリエちゃんが手をかざしました。すると結晶は激しい光を放ち、質量を持った風のような波動を発しました。それほど強烈ではないものの、波動から感じる魔力の濃さは軽い頭痛を引き起こします。お酒を飲んだことがないので分かりませんが、度数の高いお酒を飲むのと似た感覚なのかなと思いました。



「へぇこれは凄い。ちょっと流しただけで反発が来る。確かに今まで感じたことのない魔力だね」

「うぅ~二日酔いみたいで嫌です~……」



 どうやら私の感想は間違ってなかったようです。エリシアさんの感想だと説得力がありますね。

 これによりユージェスドラゴンとの契約は間違いなく交わされていると証明されました。しかし合意があるとするならば、契約のどこにドラゴン側は疑惑を抱いたのか。



「契約の内容は2冊目の本に書かれている。契約文書は普通、族長の家にあって持ち出し禁止なんだけど、最近見つかったこの本の中にも契約内容が書かれてたみたい」

「複製じゃないの?」

「契約文書は双方分で2枚だよ? なんでこんな分厚い本の、しかも途中のページに書く必要があるの?」

「確かに意図が不明だね」

「で、これが内容」



 ヘルムさんは淡々と読み上げます。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 契約


 ユージェスドラゴンと龍民族は、以下の内容について契約を締結する。

 第1条:ユージェスドラゴンは人間の居住地域、および生活範囲への侵略を禁止する。

 第2条:龍民族は、龍民族の掟に従いユージェスドラゴンの生息地域の保護を行う。

 第3条:ユージェスドラゴン及び人間の、双方の狩猟について干渉を行わない。

 第4条:ユージェスドラゴン及び龍民族の、族内で発生した諸問題について一切の干渉を行わない。

 第5条:契約に違反が認められた場合、告発及び警告を以て制裁が行われるものとする。

 第6条:制裁について拒否は認められない。

 第7条:第5条における制裁の内容は、当時の最高責任者の裁量によって定められる。


 本契約は、儀式に基づき双方の合意とする。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は契約書を見たことがないので、文面からしか読み取れませんが、要はお互いに干渉を避けるという内容のようです。暗黙の了解みたいなのがあれば別ですが。



「今までこれらが破られたことはなかった、という認識でいいね?」



 フーリエちゃんが怪訝な表情で尋ね、ヘルムさんはこくりとうなづきました。



「少なくとも自分が知り得る限りだとそう。実際にこれまでユージェスドラゴンは友好的だった」

 やっぱり生贄の少女に疑いを向けるのが自然な流れか」



 改めて私達が成すべきことの方向性が定まりました。目標は名前の消された生贄の少女についての調査。これが分からなければ、真相を知っているヘルムさんでさえドラゴンとの交渉ができません。そして村は滅びる。

 しかし現状は全くのノーヒント。唯一怪しいのは2階にあった閉ざされた部屋ですが、生贄の少女との関りがあるのか不明です。


「こ、この本には、契約以外にどんなことが書かれているんですか?」

「それがイマイチ不明なんだ……人間と思われる絵と謎の言語が書かれていて、医学の類かもしれないんだけど……」



 ページをめくると、確かに医学書にありそうな絵が描かれています。臓器よりかは骨格や筋肉を中心に描かれている印象です。

 ……が、あるページに目が吸い込まれました。どこかで見たような既視感があったのです。



「っ! すいません、さっきのページ、もう一度いいですか」

「ここ? これが本当に謎なんだよ」



 そのページには読めない文章がビッシリと書き込まれていました。しかし、そのレイアウトはどこかで見たような記憶をにわかに思い起こさせるのです。

 数字に括弧で囲われた部分、数学記号もあり、一見すると不規則と思われる改行もあります。一部は改行後の空白が階段状になっています。何か思い出せそうで思い出せない……霧の向こうにぼやけた色彩だけが見える、そんなもどかしさが脳内を漂っています。



「すいません、分からなかったです……」

「でしょ? これが鍵になってたりするのかな」



 ヘルムさんは顎に手を当てて唸ります。フーリエちゃんも紙をめくったり戻したりしますが、やはり分からない様子。

 一方でエリシアさんは、小さなスキットルでしれっと酒を飲んでいました。小さくウォッカと彫られているのが見えます。こんな場面でも酒を飲めるエリシアさんの頭の中はどうなっているのか……



「あの部屋って、魔法で開けられたりしないんですか?」

「どうだろう……」

「あの部屋って?」



 フーリエちゃんに先祖の部屋について話しました。フーリエちゃんはうなづきながら耳を傾けると、やがて「なるほど」と口にしました。



「たぶん開けられる。難しいけど、上手くいけば内側の鍵に干渉して開けられる」

「もうそれチートじゃないですか!」

「チー、ト? ただすんなりはいかないだろうけどね」

「物は試し、やってみよう」



 というわけで2階にある扉の前まで来ました。フーリエちゃんはじっくりと観察すると、杖を向けます。目を閉じて神経を集中。また新たな表情のフーリエちゃんを見れました。

 杖を小刻みに動かして、やがて手を下ろしました。鍵が開いた音はしません。



「ダメ。内側のドアノブに魔法の干渉を阻害する結界のようなものが張られている」

「一体なんのために……」

「明らかに怪しいよ。この部屋の奥に全ての謎を解くカギがあるか断言はできないけど、2000年も封じられてたんだ。絶対に手掛かりはある。外の窓から入れないかな」

「あっと、ごめん。そろそろ行かないと魔法陣が消えちゃう。時間が過ぎるとシムクィソ村に帰るまでひと月以上掛かっちゃう」

「時間制にするなんて、対策しっかりしてるね」



 魔法陣ひとつとっても、元いた世界でも通じるような対策や理論があることに感心しながらシムクィソ村に戻りました。

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