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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第4章 ドラゴンとのいざこざで、村が大ピンチです!
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比奈姉の手掛かりを求めて、ドラゴンと面合わせ……って、え??

 案内された家は、村の中でひときわ大きな家。その家だけ2階建てで、小さな前庭もあることから村長の家であることは容易に想像がつきます。ヘルムさんはノックだけして勝手に入っていきました。家の施錠しない風習は異世界の田舎でも同じようです。

 出迎えてくれたのは、白髭を長く伸ばして腰が曲がり杖をついた、これまた典型的な村長さん。まあ人間の老化現象である以上、似たり寄ったりになるのは仕方ありませんね。



「これはこれは旅の者。わざわざ遠くから足を運んでなすった」

「初めまして! ヘルムさんとヴェロさんに案内されてきたエリシア・ラーダです!」

「同じくフーリエ」

「お、同じく、リラと、申します……」

「ヘルムに連れてこられた、ということはドラゴンと対峙してしまったのか?」



 驚きからか急に立ちあがってよろける村長さん。老人だからこそ変なところで機敏になって危ないというのは、比奈姉から散々聞かされた話です。



「この旅人がドラゴンを討伐してくれたんだ。巨大な鎖で縛り上げて、矢で眉間を一突きしてあっという間だったよ」

「それはそれは大したものじゃ。さすれば……」



 村長が長い白髭を撫でながら視線を下げました。どうやらフーリエちゃんも察したようで、右足を後ろに下げています。



「旅人の能力を見込んでちとお願いが……」

「!!!」



 一瞬でフーリエちゃんは姿を消していました。後ろに残されたのは開け放たれたドア。



「フーリエチャンガニゲテル!」

「え、ちょリラさん!?」



 慌ててフーリエちゃんを追いかけます。

 というのは半分建前で、赤の他人と面を合わせる時間を切り上げるためでもあります。我ながらズル賢い。


 さてさてフーリエちゃんがどこに逃げたかですが、村を見渡してもお店は見当たりません。ただ唯一、公衆浴場はありました。

 フーリエちゃんの性格からして村の外までは出ていない気がするので、逃げたとするならそこしかありません! 外部の人間が利用することを想定されているか不明ですが、フーリエちゃんがいる可能性に賭けてスライド式の扉に手をかけ――



「風呂の時間には早いでしょ」

「ウヴァ!?」



 突拍子もなく声を掛けられました。ほんとに心臓に悪すぎますって!

 恐る恐る振り向くと、ってデジャヴを感じますねこれ。忘れもしない転生して初日のことでしたね。



「フーリエちゃん!」

「とっとと出るよ。面倒事に巻き込まれたくない」

「でもまだエリシアさんが……」



 その時でした。エリシアさんが手を振ってこちらへ向かってきました。ヘルムさんとヴェロさんも一緒です。

 フーリエちゃんはあからさまに嫌な顔をして後退り。そんな姿がかわいい。



「えーとですね、村長からドラゴン騒ぎの解決を依頼されました。大人しいドラゴンが慌ただしいそうで、どうにか解決してくれないかって」

「龍民族はどうなってんの」



 横目でヘルムさんを睨むフーリエちゃん。懐疑と呆れがその目から見て取れます。かわいい。



「僕じゃ力が及ばなくてさ。こんなちっぽけな村では騎士団とか出してくれない。頼む、この通り!」

「わたくしからも、お願い致します」



 2人は深々を頭を下げます。どうやらかなり切羽詰まっている様子。

 先ほどの森の様子からして、今後の道中に影響が無いとは言い切れません。私としては安全な旅路のために調査くらいはしてもいいと思うのですが……でもやはりフーリエちゃんは無言のまま、乗り気ではありません。



「何か対価は」

「もちろん用意してもらいましたよフーリエさん! 特にリラさんにとっては重要だと思います!」

「え、私ですか?」

「村長さんがモトヤマ・ヒナなる人物からの手紙を預かっているそうです。問題を解決してくれたら、その手紙を渡してくれるそうです」

「比奈姉の、手紙……!」



 心臓が激しく脈打ちました。息があがって過呼吸に似た症状を抑えられません。

 比奈姉が手紙を残している。もしかしたら私達がこの村に来ることを見越して、村長に預けたのか。あの神話演舞の時、確かに私の声は比奈姉に届いていたはずで、ならば、だとしたら――



「やります」



 ハッキリと答えました。比奈姉のことならば、私は何だってやるつもりです。掴みかけた糸をもう一度手繰り寄せるために。比奈姉との再会は私の使命なのですから。

 私の返答にヘルムさんは満足そうな笑顔でうなづいてくれました。フーリエちゃんも溜め息はつきつつも「多少は付き合うよ」と同意。あぁもうそういうところですからねフーリエちゃん!私がフーリエちゃん大好きな理由(ワケ)、そういうとこ!! もうすき!!



 ということで改めて村長さんの家にて依頼の内容を聞きました。

 この村はユージェズ山の麓に位置しており、その山の頂上付近にドラゴンの巣があるそうです。そこに住むドラゴン達は普段は温厚で、基本的には人々を襲うことなく悠々と空を舞い、餌となる鳥や鉱石を食べて暮らしていました。

 時に村が襲われそうになることもあったそうですが、その時は龍民族であるヘルムさんが対処しています。『ハメを外すドラゴンにはオイタを与えてやるのが龍民族の役目さ』というセリフはこのことでしょう。

 しかし最近はどうも様子が違うようです。



「温厚なはずのドラゴンが急に暴れだすようになったのじゃ。森の木々をなぎ倒し、山肌を爪で引っ掻いては土砂崩れを起こすまでになった。暴れるドラゴンが村の近くまで来て皆怯えておる。いくら龍民族とはいってもヘルムだけでは収拾がつかないのじゃ。原因を突き止めて、どうかこの村に平穏をもたらしてくれんかの」

「ちなみに報酬はどれくらい貰えるの」

「残念ながらこの村はお金がないからのう、作物で勘弁してくれないか」

「危険な依頼なんだし、最低でも半年分は欲しい」

「あぁ持っていきなされ。今年は稀に見る豊作でな、貯めるだけ腐ってしまうほどなのじゃよ」



 ならば外に出て売るなりすればお金が入るのではと思いましたが、きっと自給自足の暮らしなのでしょう。商人も訪れそうにない立地ですし、温厚とはいえドラゴンがいる地域にわざわざ出入りしようとは普通思いませんものね。

 合意は得られたので、早速ヘルムさんとヴェロさんについてユージェズ山へ向かいました。標高が1万5000メートルもあり、いくらなんでも箒で行くのは無茶があるのでテレポートの魔法陣を使って登ります。

 ヘルムさんとフーリエちゃん曰く、魔法陣は転移や気候変動など大規模で複雑な魔法を使う際によく用いられるのだとか。描かれる魔法陣そのものに魔力の増幅機能などが備わってるらしいです。



「いちいち手書きするの?」

「僕は魔法陣が使えても魔法は使えないからね」

「珍しい」



 そしてヘルムさんが魔力をつぎ込むと魔法陣が発光。これまたファンタジーの定番中の定番! 魔女に空飛ぶ箒、詠唱と魔法陣は魔法において欠かせない要素です!

 魔法陣の中に入ると視界が真っ白に、と思いきや次の瞬間には雲の上にいました。テレポート先は頂上のようで、すぐ脇に『ユージェズ山頂上』と彫られた木の棒が刺さっています。

 見えるのは青い空と地面も灰色のみ。森林限界をとっくに越えていて遮る物が何もありません。



「あれ? 標高がこんなに高いのに雪が降ってない? それに息苦しくもないです」

「一般的に息苦しくなるほどに空気が薄くなる境界は2万メートルからとされています。雪は春なので溶けてしまったのでしょう。しかしそれでも気温は低いので、どうぞ十分にご注意下さい」

「寒さなら濃縮熱源があるから大丈夫!」



 ヘルムさんが取り出したのは、手のひらサイズのピラミッド。中央部分がくり抜かれていて、透明なカバーの奥に火が灯っています。



「これは名前の通り、火元素を濃縮して熱源にした便利道具。周囲を暖められる冒険者必携アイテム!」

「な、なるほど……! でも、フーリエちゃんも、暖かいですぅ……」

「私は暖房器具じゃない」



 肩に手を置いただけで分かるフーリエちゃんの温もり! じんわり優しく手のひらに伝わる体温、そして手の甲にはふわふわ髪の毛! こんな天国みたいな感触を享受しているなんて、自分の手に嫉妬してしまいそうですよ!



「ドラゴン達は火口を住処にしている。早速行こう」



 ヘルムさんの案内で火口付近へ向かいます。

 リュックサックも背負わず身一つで山を歩くなんて、魔法が無ければ絶対に出来ないことですね。身軽になるからメリットの方が多そう? まあ私にはハイキングコースすら厳しいですが…………

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