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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第4章 ドラゴンとのいざこざで、村が大ピンチです!
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正体が謎な人に村へ招待を受けてしまったので、早退していいですか?

 ひょっこり姿を現した2人はヘルムとヴェロと名乗りました。

 ヘルムさんは皮でできた衣服をまとい冒険者のようなスタイルです。一方でヴェロさんはメイド服。



「まさか簡単に倒してしまうなんて、相当な腕の持ち主だね」

「私達は通りすがりの旅人だよ。なんか魔物の動きが怪しいから追ってたらドラゴンと遭遇した」

「それもドラゴンの影響と思われます。もう少し討伐が遅れていたらスタンピードが発生していたことでしょう」

「僕らもこっちに向かうときに同じ方角へ逃げる動物や魔物に遭遇した」



 ヘルムさんは淡々とドラゴンの周囲に円を描いています。このコンビ、一体どんな関係なのか想像つきませんね……



「君らは何者なの」

「僕は龍民族の末裔。ドラゴンと共に生き、ハメを外すドラゴンにはオイタを与えてやるのが龍民族の役目」

「龍民族、聞いたことあります。今でも数少ない龍民族が各地に暮らしていて、ドラゴンを従えて世界の均衡を保っていると」

「今はもうそこまで盛大な民族じゃないよ。ただ自然と共生し、その自然の中でもドラゴンは特別な存在ってだけさ」



 ヘルムさんの描いた煙はやがて巨大な魔法陣となりました。フーリエちゃんが興味津々に覗き見ててかわいい。

 ふわふわの金髪、風に乗って漂う匂い、オッドアイの瞳、私の肩くらいの身長、気だるげな声のトーン、あぁ愛おしいよぉ……



「それってコボル式? 普通その大きさまでなるとジャヴァ式を使うと思うんだけど」

「おぉ随分と詳しいね。ジャヴァ式はどうも好きになれくてさ。この辺の環境だとトー値とキャスター値の均衡が取りづらい。奇数項を魔素変形すれば上手いこといける」

「原理は分かるんだけど、めんどくさいから私なら6項と8半項を入れ替えて24項に属指数を加えるな。あとは調整を上手いことやればトー値とキャスター値も自ずと均衡が取れると思うよ」

「おぉ、そういう手もあるのか! やってみる!」



 専門用語だらけの会話にエリシアさんと共々首を傾げていました。分からないことが分かった、無知の知ってやつですね。



「魔法ってすごいですねえ……」

「私もまだまだです……」



 そんな小学生みたいな語彙力で呆然としている間に、ドラゴンは魔法陣から放たれる光に包まれて跡形もなく消えました。満足そうにちょっとドヤ顔なフーリエちゃんかわいい。



「よかったら僕の村に来てよ。【シムクィソ村】っていう小さな村だけど寝泊りはできるからさ。ドラゴンと遭遇して疲れただろうしね」

「ならお邪魔させてもらおうかな。どっかの誰かのせいで深くまで入ってしまったし」

「てへぺろ」



 とりあえず招待は素直に受けるということで、ついでにヘルムさんとヴェロさんの間柄も教えてもらいました。



「ヴェロはこの森で助けたんだ。傷だらけで倒れていたところを保護した」

「お嬢様には感謝してもしきれません。記憶を失っているわたくしを介抱して、衣食住を提供して下さったのです」

「今でも記憶は戻ってないんだけどね。思い出しても、ここにいたいなら構わないよって」

「恩を返すまでは、例え自身を思い出したとて離れない所存でございます」



 あら~なんとも尊い関係性ですね~。主従関係は定番中のド定番! 現実で見ることができて感無量です!

 あ、ちなみに私は受け攻めの左右固定とかそういうの全く気にしないタイプですので、尊いものはじゃんじゃかくださいです!



「ねぇそのヴェロってメイドさ、人間じゃないよね」

「な、何を言うのですかフーリエさん! どこからどう見ても生身の人間ですよ!」

「ええ、確かにわたくしは人間ではありません。機械人形(オートマタ)とでも申し上げましょうか」



 ヴェロさんは右脚の皮膚をぐいっと押しました。浮き出てきたのは3本の棒とスプリングのような形。人間の筋肉と骨の構造ではないのは確かです。



「わたし初めて見ました。噂でしか聞いたことなかったですが、本当にいるんですね」

「わたくしに課せられた目的は、残念ながら記憶から途絶えてしまいました。わたくしが理解している自身とは、人工物であることと名前のみ。今のわたくしに出来ることは、人間の為に奉仕することでございます」

「あ、あの、ヴェロさんには、自我は、あるのでしょうか……?」



 私はおずおずと手を挙げながらも気になることを問いました。

 周囲から奇怪な目を向けられましたが、ヴェロさんはアナウンサーのような明瞭なイントネーションと発音で答えました。



「自我、ですか……今の私には明確な答えは出せないです。わたくしが人工物である以上、過去現在未来の言動も、何かしらの制御によって成されていると考えるのが自然です。しかしそれが真実であるかは、わたくしにも分かりません。製造者が見つからない限りは答えは出ないでしょう」



 私から見てヴェロさんはファンタジー的なオートマタよりも、AIが搭載されたロボットのように感じられました。だから自我について聞いたのです。AIの存在を知っている私から見たヴェロさんと、AIの存在しない世界の人から見たヴェロさんは見え方が違っているかもしれません。

 哲学にも近いこの疑問は、この異世界を理解する上で重要なファクターとなるはずです。常識が違えば、根本の思想や道徳観も違うのは元いた世界でも理解していたことです。認識の擦り合わせ、大事。解釈違いが起こらないようにしませんとね。


 そんなこんなで村に向かって歩きだしました。先ほどのドラゴンの影響か、森には立派なクレーターが点在していて、そこからエベレストより高くアルプス山脈より長いであろう山々が見えます。その山にも爪痕のような地崩れがクッキリと確認できます。なんかカッコいいです。厨二病が喜びそ……ウッ、頭がぁッ……!



「どうしたのリラ。頭痛いの?」

「昔の自分に頭痛を引き起こされています……! 過去から干渉してきている……ッ?」

「ごめん何言ってるか全然分からない」



 小一時間歩いて村へ到着しました。

 背の低い木で組み上げられた門と柵の中に小さな住宅と畑が並ぶ、これぞ異世界ファンタジーの村という見た目です。村を囲む柵の前には模様のような何かが刻まれていました。子供の落書きでしょうか。

 すると村の子供が一斉に私達を囲みました。よほど外の人が珍しいのでしょうか。



「おきゃくさんだー!!」

「まほうつかい! まほうつかいだほんものだ!」

「ねーねーお姉さんはどんな人なのー?」

「わたしは錬金術師!」

「なんで片方だけメガネをしてるの?」

「生まれつき弱くてね~」

「おねーさん遊ぼうぜ!」

「はいはい順番ね~。後で良いものあげるから」

「「「はーい!」」」



 一番目立つエリシアさんは子供に大人気。エリシアさんも手懐けるのが上手いです。

 私は子供相手ですら、どんな対応をすればいいか分からずテンパってしまいます……



「小さい子供って難しいよね。魔法を教えるならできる自信あるけど、それ以外で相手できない」

「フ、フーリエちゃんもそう思いますか!? よかった仲間がいて安心しました……」

「勝手に仲間にされても。私も妹いるけど、2歳差だから子守りみたいなのしなかったし」



 フーリエちゃんに妹なんていたのですか!? 一体どんな子なのでしょう、きっと姉譲りの美貌でかわいいんでしょうね! 活発で身長が高くて、それをフーリエちゃんが気にしてたりする王道パターンとか! ああいつか会ってみたいです……!


 ……でもフーリエちゃんの過去は壮絶。妹さんもきっと深い心の傷を負っているかもしれません。それを承知で、良くないことと理解しながら言ってしまうと、姉妹で互いを支えあっている関係性だったら良いななんて……むしろそうであってほしいです。

 私の中で姉妹とは、いつでもどこでも一緒にいるもの。場所は離れていても繋がっていて、互いを想い合う関係だから。

 敬愛していた母を失ったフーリエちゃんが、妹さんとの仲まで険悪であってほしくありませんから。…………よそ様の家庭事情を赤の他人が勝手に願うなと言われたらそれまでですが。



「おねーちゃん行かないのー?」



 子供の声で自分の世界にトリップしていた脳内が現実に引き戻されました。「い、今行きますっ!」なんて子供相手に敬語になりながら先を行く二人を追いかけました。

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