質問です。ドラゴンと出会ってしまったのですが、対処法を教えてください
あ、どうもリラです。行方不明の姉を探して、今度は蒸気都市スタンレーに向けて1週間もかかる道のりを旅している最中です。
そして私も箒の後ろでうつらうつらしているのが皆さんご存知! かわいい大天使もしくは妖精の金髪ロリぐうたら系魔女っ娘フーリエちゃん!!
その斜め後ろで、コルテで譲り受けた魔法使いでなくても使える空飛ぶ箒を操っているのがエリシアさん。白髪紅眼で右目にはモノクルをかけていて、見た目は清楚系ですが中身はドンパチ賑やかな酒飲み錬金術師です。
そんな愉快な仲間たちは、なだらかな丘陵地帯を進んでいました。穏やかな風が吹き、眠気を誘う温もりに包まれて頭がぼんやりして、3人とも口数が減っていた頃です。
突如として目の前に狼姿の魔物が襲い掛かってきたのです。まあ異世界ではよくあることですが、少し様子が変。
襲ってくる数が1匹、3匹、5匹、時に一気に10匹以上とまばらで、しかもそれが途切れないのです。そういえばレジ打ちのバイトをしていた比奈姉から聞きました。来るお客さんの数がランダムで、それがずっと続く妙に忙しない時間帯があると。
今の状況はまさしく比奈姉の言っていた通りのように思えます。実際に2人で忙しなく魔物を相手に体を動かしているのですから。
「こいつらって単独行動する種類だった?」
フーリエちゃんがのんびりとあくびをしながら尋ね、それにエリシアさんが答えました。
「いや群れで行動する魔物だったと思います。普通は20から30の大きな群れになるはずなのですが、群れの中で分裂でも起きたのでしょうか」
「あるいは分裂せざるを得ない状況が発生しているのか」
「Vemc・Qen!」
数が少ないので範囲魔法を使うのも渋られ、ただひたすら単発魔法を撃ち続けるだけの地味な絵面。しかしそれが長く続けば疲労も蓄積していき、エリシアさんの弾数も心もとなくなってきます。これがお客さん相手と考えると魔物よりも恐ろしいです。想像して思わず背筋が凍りつきました。
「これは群れが出てくる方角に進んで原因を探ったほうが早いかもしれないね。あと何匹いるか把握だけでもできれば」
「突撃ィィィィィ!!!!!」
「うるさっ」
エリシアさんが雄叫びを上げながら突っ込んでいきます。銃を左右に振って乱射するその様子は銀行強盗のよう。錬金術師要素は何処へ……?
そして私達は道も無き森へと入っていきました。魔物が生息する場所といえば森と相場が決まってるんです。
フーリエちゃんの予想通り、多くの魔物の他に普通の小動物達も四方八方に逃げ散っていました。なんとなく勘が働いてしまったのですが、これメッチャ強い魔物が出てくるパターンじゃないですか? 食物連鎖的にも筋が通っちゃいますし。
「これ超巨大な魔物とか出ませんよね……? カリーナで遭遇したような蛇とかもう嫌ですよ!?」
「この魔力の感じ、たぶんドラゴンぽい」
「…………ああああああああ!?!?!?」
ラスボス降臨じゃん。終わったじゃん。無理、死ぬ。
『グオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』
マジで出てきた……影で森が覆われてるじゃん……咆哮だけで木々が揺れるってどういうことなの…………
黒く艶やかな鋼鉄のごとき鱗。
妖艶に輝く紫の目。
森に影を落とす巨大な翼。
山脈のようにそびえる鋭い何百もの牙。
宇宙からマントルまで轟く咆哮。その他諸々……おおよその人がドラゴンと聞いて想像する姿そのままでした。
もちろん本物のドラゴンに遭遇できて少しだけテンション上がってますけど、それ以上に命の危機を感じているのでそれどころじゃないです! どんな作品でもドラゴンが恐れられ、世界の終わりのような恐怖に包まれている理由が理解できました。
周りに村も無い田舎道だったのが不幸中の幸いでしょうか。いや普通に不幸でもありますね。だってこの場にいるの私達だけってことですし。
「どどどどうしますかフーリエちゃん!?」
「倒すしかないでしょ。見た感じ殺意はあるみたい」
「そもそもどうしてドラゴンが現れたんですか!?」
「先にあれを倒してから解明する必要がありそうだね」
そう言って、いつも通り危機感が皆無なフーリエちゃんは、杖をドラゴンに向けると巨大な鎖で縛り上げてしまいました。
そこら辺の魔物を相手するかのような感覚で、いとも簡単に動きを封じたのです。天才なのは重々理解してますが、これはさすがに唖然としてしまいました……
「どれくらいの耐久があるか調べたい。エリシア、ちょっと威力が一番高い弾で打ってみてくれない?」
「え、ええとはい分かりました! 弱点は確か眉間でしたよね……!」
エリシアさんが構えて引き金を引くと、銃弾は見事に眉間へ命中しました。巨大とはいえ数十メートルも先にピンポイントで照準を合わせる技術は、純粋に凄いです。
ただし肝心のドラゴンはビクともしません。今にも鎖を引きちぎろうと藻掻いています。
「っ!? 貫通弾のはずなのに!?」
「暴れドラゴンの手綱を取るのも容易じゃないねっ」
「私も微力ながら加勢させてもらいます! 『|Neaqba Eba Uq'iv《氷矢よ貫け》』!」
魔力を込めて可能な限り硬度を上げた10本の氷矢は、奇跡的に眉間へ命中し突き刺さりました。しかし刺さり具合は浅く、全くダメージが通っていない様子。
しかしフーリエちゃんは姿勢も表情も変えることなく、まるで簡単な実験でもするかのごとき様子で私に問うてきました。
「なるほど、だいたい分かった。リラ、あの突き刺した部分に毒を流せる?」
「ど、毒ですか? 初めてですけど、やってみます!」
もう一度、ドラゴンの眉間に杖を向けます。大事なのは想像力。毒を作り、照準を合わせて傷口へ流す。
(毒と言えば毒草とキノコ。この世界にあるか分からないけどトリカブトにスズラン、ベニテングダケにツキヨタケにカエンタケ、カツオノエボシ……っ! できた!)
その瞬間にドラゴンは苦しみはじめ、悶絶の咆哮をあげました。「おっ、やったね」 という声が横から聞こえてきます。
詠唱していないのに魔法を撃てた……? そういえばフーリエちゃんも詠唱をしないで魔法を使ってます。もしかして、よく最強だとも言われたりする無詠唱魔法ってやつだったりします……!?
「なんか詠唱しないでできちゃいました」
「詠唱は魔法を発動させるキカッケづくりだから慣れたら必要ないよ。私はてっきり様式美でやってるのかと。それにしても随分と強力な毒を仕込んだね?」
「思いつく限りの猛毒をイメージしたので!」
「あまり知られてないんだけど、ドラゴンは鱗の内側の層も弱点。狙う難易度が高いけど、そこに毒を流せば経皮毒の要領でコロっと倒れる」
「2人とも危ないですよ! 倒れてきます!」
「へ?」
ぽけ~と悦に入っていたら上からドラゴン落ちてきていました。
巨大さゆえに影が落ちると曇り空のように周囲が一気に暗くなります。あばばばばばばと情けない声を発しながら、運動不足の体に鞭を打ってどうにか避けることができました。
木々はなぎ倒され、土煙は遥か上空まで舞い上がり、衝撃は地震のように地表を揺らしました。
「リラさんが、倒した……すごいです!! フーリエさんから魔法を教わっただけあってリラさんも魔法の才能がすごいです!!」
「でしょ? 私が教えただけあるよ」
「はいそうですねっ!!!! フーリエちゃんのご教授の賜物です!!!」
まぁとりあえず結果良ければ全てヨシ!
とはいえ、このドラゴンの処理をどうするべきか。コルテからかなりの距離を進みましたし、スタンレーまでも6日は掛かります。周辺には村も見当たらず、運ぶのは現実的ではなさそうです。
素材として頂くとしても、この巨体を解体するのに一晩では済まなそうです。
これだけのドラゴンが現れたことも、どこかのギルドなりに報告しなければなりません。色々と悩んでいると、木の陰から2人組がこちらへやって来るのが見えました。
「大丈夫!? まさか君らが倒したのかい……!?」
「お怪我はございませんか?」
皮のベストにブーツを履いた冒険者風な人はいいとして、なぜこんな森にメイドが……?




