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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第3章 魔法使いの聖地に来ましたが、大大大事件の予感です!
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戦闘の中で

 アサクラはポケットから短いナイフを握ったかと思えば、一振りで片手剣に変形した。私は武器には詳しくないから知らないけど、変形する剣もちょっとロマンあって良いなと思うよ。



「許さないッ!」

「アサクラさんっ!!」



 リラの制止も聞かず、怒気を込めてアサクラが駆け出す。瞬きも許されぬ間に目の前まで迫られていた。

 間一髪で魔力弾を当て、彼女を吹き飛ばせた。しかし咄嗟に出した魔力弾だからダメージは期待できない。間合いを取ることには成功したが、ほんの少しでも反応が遅れていたら死んでいたかもしれない。

 久々に、緊迫してきた。



「どう考えても普通の人間の動きじゃないね。一体どんな仕掛けを?」

「基盤と魔鉱石発動機の応用よ。魔鉱石の魔力を、変換基盤を通じて身体強化に変換してるの。予備も持ってるよのねッ!」

「そういう技術力は賞賛に値するんだけど」



 アサクラは怯むことなく再び斬りかかってくる。魔力で壁を展開して防御。それを切り崩さんと彼女は剣に鬼迫を込める。



「防ぐこと自体は難しくないね。リラ、辺りを見張ってて。他に仲間がいるかもしれない」

「私も戦います! 2人で戦えば仲間が来ても……」

「リラにはリラの役目がある。最短距離が一番楽とは限らない」

「ナメた口を…………ッ!」

「どうして、なんですかっ……」



 憎悪と嫌悪に顔を歪めるアサクラを見上げながら、左手でパチンと指を鳴らした。

 従順な愛箒(あいそう)が夜風を切り裂いて、私の背後からやってくる。飛び乗ると同時に箒の先端がアサクラの脛に直撃しバランスを崩して後ろに転倒した。

 その隙に空へ舞い上がり、再び地上へ降り立つ。上空から地上の一人に対して、ピンポイントに狙いを定めるのは出来なくないけど神経を使う。



「|Fqut’w・Inaq’m《重力操作》」



 重力操作の魔法を放つ。本来なら大抵の物体は動けなくなるが、今日は細い三日月。月属性であるが故に月の魔力の恩恵を十分に受けられず、重力を強められない。

 相手も苦しんでいるようだけど、ゆっくりと動けていて完封には至らない。これで完封して拘束して終わりにしたかったけど、手足が動けていると自爆の可能性もある。生死を問わないと言われても、目の前で人が死ぬ様を見るのは堪忍願いたい。



「こんなもの……! この程度、レースで散々経験してるのよ!!」



 アサクラが重力から抜け出した。

 残像だけが残るその移動速度はまさに瞬間移動。咄嗟にもう一度壁を張った。

 しかし彼女は私を狙うことなく――横をすり抜けた。刹那に視界に写るのは彼女の邪悪な笑み。


 ドォォォォォォン!!!!


 爆発した。展開した壁のおかけでダメージは無いが、砂埃が舞い上がって周囲が見えない。

 灰色に染まった視界の奥から上がる悲鳴。考えるより先に風魔法で砂埃を払う。開けていく視界の先には、アサクラにナイフを首筋に突き立てられたリラの姿があった。

 完全にやられてしまった。何という不覚……ッ



「安心して。わたしは言われた通り1人で来ている。仲間はいない。警戒しすぎたのがアダになったわね」

「ご、ごめんなさい……っ、私の油断、で……」

「安心して。リラはそのまま動かないように」

「聞き分けがよくて結構。さぁコルタヌ六芒星を解散させて。そして魔法使いが優遇される腐った国に新たな命を吹き込め!」

「全く……人の都合も考えず、手段を選ばず、過激派の典型だね」

「主語を大きくすれば多数に聞こえるのよ。罠に掛かったわね」



 アサクラは勝ち誇ったように、これぞ悪役の笑い顔とも言うべき表情に満ちている。それは私の中にある嫌悪と復讐心を呼び覚ますのに十分だった。人質に取る汚いやり方が私は一番嫌いだ。



「どうせ最初からそれが目的だったんでしょ。仮初の魔法では本物の魔法には勝てないから、対等に戦うフリをして途中離脱で人質を取る。汚いね」

「仮初……? ふざけないで……一体どれだけの時間を費やして研究したと思っているの! 仮初じゃない! 未来永劫にわたしの研究は残り、この国を変える!」

「そんなのは私にとってどうでもいい。問題なのは、君が私の仲間を盾にしていること。リラを盾に使っていいのは、私だけなんだよね」

「へぇ、盾だって。 面白いわ、貴女はお仲間から都合のいいように使われているのね! 哀れなこと?」



 アサクラは煩く煽り立てる。調子に乗った低俗貴族の嘲罵より醜いセリフが不愉快さを極限まで引き立てている。能が無い証拠を自らさらけ出して、哀れなのは一体どちらなのか。

 静かに杖を向ける。ほのかに光る先端が向くのは彼女の胸元。流石、最期まで抜かりがない過激派の典型だね。



「まだ杖を向けようというの? この状況でそれができるなんて大したやつね」

「……………………」

「ふ、フーリエちゃん…………っ、アサクラさん、も……」



 次の一手は決まっている。難しいことではないけど、極限まで魔法が到達するまでの時間を短くしなければならない。

 あんな競技(レース)をやっているだけあって反射神経は並外れている。魔法を放ってアサクラまで到達する時間と、私が魔法を放ったと認識してナイフを突き刺す時間、どちらかが何百分の一秒違えば運命は180度変わってしまう。

 頭の中で計算が渦巻く。距離、角速度、射出初速、風速…………追加条件が加えられては比較され、入れ替わる。



「投降するセリフを考えているのね。体が小さい癖に歯向かおうなんて無謀なのよ。魔法の力を過信しすぎたわね」

「…………ッ! フーリエちゃんは……そんなんじゃない……ッ! 魔法はそんなんじゃない!!!」



 リラが叫んだ。アサクラが短く間の抜けた声を発したとほぼ同時に、どこからともなくやってきた箒が彼女の脇腹に激突。かなりの速度で突っ込んできたらしく、彼女はそのまま倒れて腹を抱えてうずくまっている。



「ごめんなさい、 Seac On(縛れ)!」



 リラは飛んできた箒を掴むと同時に、投げ捨てられていたロープを使って魔法でアサクラを縛り上げた。

 手と足を入念に縛られているので、過激派のお家芸である自爆はできないだろう。



「フ、フーリエちゃん、こんなんで大丈夫ですか……」

「大丈夫……とにかく無事で良かった。本当に」

「……………………はい」



 アサクラは呻き声を発しながら苦しそうに顔を歪めていた。まぁあれだけの速度で突っ込んできたら意識飛びかけるよ……私も経験があるから分かる。



「アサクラさん!!」



 程なくしてエリシアと2人の兵士、秩序の魔女がやってきた。とりあえずざっくりと、今回の事件はアサクラがやったということを伝えて宿に帰った。

 帰りの道中もリラはハッキリしない言動だったけど、ほんの少しは表情が戻っていたので気にしないことにした。もっとも私が正体を隠してリラ達と旅をしている訳だし、私の立場のせいで事件に巻き込んでしまったともいえる。

 とやかく言う筋合いは無いので、さっさと寝支度をして床についた。

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