どこか遠いところに
外に出てフーリエちゃんはエリシアさんに情報を共有しました。やはりアサクラさんの父、アキノリさんの死因は自殺でした。そして借金絡みのトラブルを抱えていたことも記載されていたそうです。
そして軍導の魔女が研究していたという、基盤に似た装置もワープホールから流れ着いた物体が元に作られたそうです。これでワープホール=私の元いた世界であるとほぼ立証されました。
エリシアさんは力なくうなだれました。私も気が重くなります。私もエリシアさんも、アサクラさんは誰でも魔法が使える世界を父から受け継いで目指した、素晴らしい人だと信じていましたから。ですが、父が魔法使いとのトラブルで自ら命を絶ったのならば、魔法使いとコルテという魔法使いの聖地を憎むのも理解できます。
「……あれ、待ってください! 確かにアキノリさんは借金で問題を抱えていましたが、それが魔法使いの金貸しという証拠がまだ無いです!」
「っ! そうです! そっちの証拠も抑えないと!」
「いやもう充分だよ。その証拠はあっても無くても変わらない。直接アサクラに話を聞く。でもこっちから行くと、はぐらかされるだろうから向こうから誘き寄せよう。トラブルを抱えていた金貸しを装って一人で来るように仕向ける。来なければお前が主犯だとバラすとね」
「フ、フーリエちゃん、それは強引ではありませんか……? だって他にも主犯候補はいるんですよね? そっちの方も視野に入れて――」
「時間が無いんだよ。主犯か否かの証拠を容疑者全員分集めていたら時間が掛かって、下手したら民衆による暴動が起きる。ただでさえ出国禁止の処置を取っている今、うかうかしてたらそれこそ国が血で染まる革命が起きかねない」
冷たく輝く空色とエメラルドグリーンの瞳に畏縮してしまいました。そこに飄々とした雰囲気は微塵もありません。
フーリエちゃんは語気を強めて言い放ちました。
「テロリストの声明に賛同の声が挙がっているのは知ってるはずだよね。国への不信、魔法への懐疑、それが最高潮に達しようとしている。爆破事件で人を殺している最大の汚点があるから秩序をどうにか保てているけど、この状況を長く続かせたら、それこそ不信感が更に高まって暴動が起きるのは目に見えてるはずだよ」
私とエリシアさんに向けられた鋭い目が、フーリエちゃんをどこか遠くに感じさせました。
決して何事も“面倒”の一言で済ます彼女が望みという話ではありません。自由奔放で気の向くままに任せる姿勢が好きなのに、なぜか今のフーリエちゃんは、使命感のような、自由とは反対の概念に囚われている気がしてなりません。あくまで私の勝手な主張と感想ですが……
どちらにせよ、コルテと繋がりのあるフーリエちゃんに判断を任せるのが最善のように思います。私には国の一大事に際して決定を下せる勇気はありません。
「あっ、あ、そうだ、泊ってる宿の主人は……」
「ついでに調べたけどアリバイがあったよ」
「…………わたしはマクヴェイルさんに話を聞きます。まだフーリエさんに賛同できません」
「ごめんなさい、私も、エリシアさんと同じ気持ちです。エリシアさんに、ついていきます」
「今日はまだ午前中だし時間はある。でも私の考えは変わらない。マクヴェイルが自白したでもない限り、今日の深夜に決着を付ける。……私は魔法が好きだし、コルテとは色々とある。だからコルテは魔法を失わないでほしい。それだけだよ」
「そう、ですね。魔法は、私も失われてほしくありません」
ぎこちなさが帰ってきてしまいました。ぼんやりとした――決して認めたくはないのですが――不信感と、それを感じてしまう自分への嫌悪。うまく表現できない、もやもやしてハッキリしない分が余計にそれらを増幅させる。
シリアスな雰囲気だから? フーリエちゃんに冷たい目を向けられたから? 自分の意見を否定されたから?
分からない。分からないから、嫌……。これも私が臆病で、コミュ障だからでしょうか。コミュ障でなければ、こんなことで悩むこともないのでしょうか。
「フーリエさんは行かないのですね」
「作戦決行の為にやることがある。同時進行の方が効率良いし、私は宿に籠ってる」
「では新しい情報が入り次第、フーリエさんにも伝えます。……くれぐれも一人身は気を付けて。犯人が襲ってくるかもしれませんから」
「逆に好都合だしそうして貰いたいな。最も手っ取り早く事を片付けられる」
フーリエちゃんはニヤリと口角を上げましたが、どこかぎこちなくて、重苦しい空気感でした。こんな空気さえも魔法で変えられたらいいのに……なんて。
こんな時、比奈姉ならどうするのかな…………




