なんとなく点と点が繋がりそうな気がします
調査開始から3日目。ここまでの成果をまとめると、
・爆発の原因は、ニトロという魔物から入手できる爆液。演出で使う火薬が入った木箱に何者かが混入させた
・火薬はタトラ商会が搬入し、搬入時に中身の確認はしなかった
・同じ保管場所に魔鉱石で作られたダミーの火薬が置かれていて、これもまた中身の確認はしていない
・アサクラさんの父、アキノリさんは魔法使い絡みのトラブルがあり、それが原因で自殺した可能性がある
・よってアサクラさんが犯行に及ぶ動機としては充分
・アキノリさんの友人であり、アサクラさんとも接点のあるマクヴェイルさんも同様
一方で謎も残っています。
・火薬の箱に付いていた謎の基盤
・自然には存在しないはずの魔力の痕跡
これらが解明されないと、完全な解決には至りません。
ですが、私には心当たりがあるのです。基盤については特に――
「あの基盤はワープホールから流れてきた物だと思うんです」
「どうしてそう思ったの?」
「っと、それは……何となくってのもあるんですけど……あ、そう! 私が今まで見たり聞いたりしたワープホールから来た物と特徴が似てるんです! 機械ぽいというか、精密さが違う、みたいな!」
昼前の宿の部屋で、私は基盤についての推理をフーリエちゃんとエリシアさんに披露していました。
私が窓側のベッドに座り、隣のベッドに対面する形で2人が座る格好です。ちょうど、面接みたいで少し緊張します。
というより、この私の推理は前世での知識が前提なので、そこを上手く誤魔化さないといけないのです。
グノーシのダンジョンで発見した本も、大砲と魚雷も疑惑止まりですが、あの基盤だけは何度考えても電子回路の基盤としか考えられないのです。
「あの基盤は、元は何かを変換させる物なんですよ。それを魔力の変換に使って自然には存在しない魔力にして誤魔化したと」
「すごい……どこからそんな発想が出るんですか?」
「えぇっとそれは、想像力ぅ……ですかねぇ……?」
「魔力を運動に変える技術そのものは存在してるから、例の基盤もその類かもね」
根拠に欠けた言い訳でしたが、思いがけずフーリエちゃんからの補足が入ったので助かりました。
助け舟に乗ったつもりで、上手いこと説明を続けます。
「例えワープホールから落ちてきた未知の物品でも、エリシアさんの銃のように構造を調べて使えるようにすることもできますよね。アサクラさんはワープホールで拾った基盤に着目し、それが何かを変換する物だと突き止め、魔力の変換基盤として改造したんです」
「ならばアサクラが改造を施したとする根拠は」
「魔鉱石発動機もまた、ワープホールから落ちてきた物だからですよ。そもそも魔鉱石発動機の形の機械を見たことがありますか?」
フーリエちゃんとエリシアさんは首を横に振りました。これで縦に振られたらどうしようかと気が気でなかったですが、ひとまず安心です。
フーリエちゃん達は見たことがないが私は見たことがある=私が元いた世界の物、という式ができたので確証をもってワープホールからの物と主張できます。
後は脳内で用意した台本通りに喋るだけ。ついでにベッドから立ち上がって自信を演出します。
こらそこ、自信は演出するものじゃないとか言わない。
「未知の機械は0から作られた物か、あるいはワープホールからの物かの2択になります。0から作った説に関しては、アサクラさんの工房に金属加工の道具が無かったことから可能性は低いです。基盤と同じように、アキノリさんは元となる機械をワープホールから拾って改造して魔鉱石発動機を完成させたんでしょう。そうなればワープホールアサクラの場所をアサクラさんは知っているでしょうし」
最後はしっかりドヤ顔。エリシアさんから「おぉ……」と感嘆の声が漏れます。やったぜ。
「確かに、あの基盤みたく精密な機械はワープホールの物以外では見たことない。それか、どこかの研究所から流出した物か。どちらにせよアサクラなら仕組みを解析して改造できる技術はある」
「だいたい、あそこから物を持ち帰るなんてわたしみたいな相当な物好きしかしませんものね」
「じ、じゃあ後は直接話を聞くだけですね!」
「その前にアキノリの正式な死因を調べないと。本当に自殺であるならばアサクラが主犯である可能性がより高まる。それに、あの基盤に関しては軍導の魔女も知っているかも言及していた。そこも含めて聞こう。公安調査局に行くよ」
フーリエちゃんが立ち上がり、さっさと窓辺へ歩き出します。なんだかんだで一度決めてしまえばすぐに行動に移す性格だと理解ってきました。
箒を取り出して外に浮かべ、私が前でフーリエちゃんが後ろに乗ります。続けてエリシアさんも魔鉱石発動機を起動させて箒にまたがりました。
やはりと言うべきか、エリシアさんは浮かない顔です。それも当然です。仲良くなった人が、国を相手にして爆破事件を起こし、多数の死傷者を出した主犯である容疑が掛かっている。私なら気が狂いそうになります。
私もアサクラさんが主犯であるとは考えたくありません。あの夜に見た光景はまさしく魔法であり、輝いていました。アサクラさんもまた、魔法を夢見て追い求めた人だと思っていますし、そんなアサクラさんがどうして国を相手取るような真似までして犯行に及ばなければならないのか。
釈然としない気持ちのまま、公安調査局に到着しました。
前回訪れた部屋に入ると、エレクトラさんが頭を抱えて机に突っ伏していました。声にならない声をあげている様子から、捜査に相当苦戦しているようです。
「単刀直入に、アキノリって人の死因と軍導の魔女が研究してたっていう物品について聞きたい。それさえ分かれば私達はお暇するし、5割の確率で事件は今日か明日には解決する」
「ああ、旅人か……相変わらずのタメ語で敬意がなってないな」
「今は長のお墨付きで対等な立場だからさ。気に入らないのを理解してるからこそ、早く事件を終わらせて目の前から消えてあげたいんだよ」
「それはまた随分な口調を……まるでシャマルみたいだ。奇遇にもお前は同じ苗字で、同じ魔力を感じる」
「5000万分の1を引き当てたとは、私も幸運だね。ま、いいから出して。場所を教えてくれるだけでもいいから」
フーリエちゃんは煽るような口調で要求を述べます。確かにエレクトラさんはちょっと嫌な部分がありますが、軍導の魔女のように脅迫をしないだけ幾分もマシです。それでもフーリエちゃんには気に入らない相手みたいですが。ジト目になっているのが何よりの証拠です。かわいい。
「分かった。今出す」
「助かる」
短い返答をするとエレクトラさんはようやく腕を上げて杖で棚の中を漁りました。声も低いので疲労が溜まっているのでしょう。心の中でお疲れ様です、と労いました。
やがてぎゅうぎゅうの棚から資料を取り出し、ページをパララララとめくってフーリエちゃんに差し出しました。もちろん、これらの動作も全て魔法です。エレクトラさんは机に突っ伏したまま一歩も動いてません。
フーリエちゃんは目の前に浮かぶ資料を一通り目に通した後、ジト目がいつもの眠そうな目に変わってコクリと小さくうなづきました。
「ありがとう。あとはもう来ない、多分」
「人も事件も来ない方が良いんだけどな」
別れ際のセリフから、エレクトラさんにも正義感はきちんとあることが伺えました。いやそうでないと困るんですけども。




