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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第3章 魔法使いの聖地に来ましたが、大大大事件の予感です!
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浮かび上がる疑惑

「だから言っているでしょう。始祖の前に偽りは通用しない。それに判別のペンキも箱に塗られていましたから」

「またそれですか。混入させられる隙がアリアリのありじゃないですか」



 再び戻ってタトラ商会。エリシアさんはいきなり扉を開けるなり、直接担当者を呼びつけて取り調べ開始。

 清楚な見た目で豪快な行動。ギャップ萌えしてしまいそうです。いや、もうしてる可能性が若干……?



「現段階で一番怪しいのはあなたと搬入担当者なんですよ? そんな根拠に乏しい理由でアリバイが証明できるとでも? 仮にあなた方でなくても、管理が足りないとして責任は追及されるのではありませんか?」

「証拠はあるじゃないですかぁ……納品書と受領書、それから搬入先からの確認書。これで不十分と?」

「始祖の前に偽りは通用しない、その文言が全ての証拠を無駄にしているんです」

「まるでアキノリみたいなことを言うなぁ」

「誰ですかそれ」

「アサクラのお父さんだよ。向かい側の路地に住んでる、夜な夜な埠頭で箒でヘンな実験してる娘の父。前はここで一緒に働いていたんだ」



 予想外のところでアサクラさんの名を聞きました。魔鉱石発動機(エンジン)に使う魔鉱石はタトラ商会から仕入れていたんでしょうか。



「確かアサクラさんの父は病気でお亡くなりになられたと」

「え、自殺じゃないのか? 仕事を辞めた後だから、俺も詳しいことは分からないが……」

「アサクラさんも、アキノリさんの友人であるマクヴェイルさんも病気で亡くなったと言っていましたよ?」

「それは魔法使いの君たちへの配慮じゃないか? アキノリがガラの悪い魔法使いに詰め寄られているのを見たことがある。借金も抱えていたらしいし、それ絡みで自殺したと俺は聞いたな」



 途端にアサクラさんが主犯である可能性が浮上しました。

 テロ組織の目的は『魔法使いと非魔法使いの平等とコルタヌ六芒星の解体』。父が魔法使い絡みで自殺したならば、犯行の動機に十分なり得ます。

 エリシアさんが言葉を失った様子で、私とフーリエちゃんに振り返りました。



「受け入れがたいですが、話を聞きに行きましょう。アサクラさんに」

「いや、まだ証拠が無い。そんな状態で聞いてもはぐらかされるだけだよ。少し聞きたいんだけど、アサクラはここに良く出入りしてた?」

「ああ。よく魔鉱石を買いに来てたよ」

「そっか。じゃあ魔鉱石の購入履歴があれば見たいんだけど」

「分かった」



 どうやらフーリエちゃんは推理が一足先に進んでいるようです。微笑する横顔がそれを証明しています。かわいい。

 フーリエちゃんは渡された顧客リストをパラパラと眺めると、やがて確信したようにうなづきました。しかし答えは口にしません。



「ありがとう、また来るかもしれない」

「え、ちょっ、あ、お邪魔しました!」

 


 フーリエちゃんは速足で出口まで行ってしまったので慌てて追いかけました。

 外に出るともう日が暮れかかってました。水平線に沈む太陽がなんとも幻想的。こんな絵画みたいな景色は初めて見ました。

 フーリエちゃんが波の音を背景に、ゆっくりと口を開きました。



「エリシアとアサクラ、ずいぶんと仲が良くなったみたいだね?」

「え、はいまぁ……意気投合はしましたし、また会おうっても約束しました……」

「エリシアもリラも薄々気付いてると思うけど、アサクラが第一の容疑者になるね」

「やっぱり、ですか」

「点と点が線で繋がる人物がアサクラなんだよ」



 エリシアさんから活気が消えました。いつも笑顔を絶やさないのに、今は失望と悲観の混ざった表情が浮いています。

 私もあまり考えたくはありませんでした。レースで見た光景は魔法と遜色無いものでしたし、アサクラさんの発明に私も賛成でしたから。

 でも話を聞いて、一気に浮上してしまったのです。アサクラさんが犯行動機となり得る証拠と事情があるのですから。

 ポジティブに考えるなら、まだ容疑者止まりで無罪の可能性が残されていると捉えられますが……特にエリシアさんは仲が良さそうでしたし、そのショックは想像に難くありません。



「でもフーリエちゃん、マクヴェイルさんはどうなんですか? 舞台の小道具を作っていますし、忍び込ませるなら適役ですよ。それにアキノリさんの友人ですし、国と魔法使いを恨む理由になり得ます」

「そうだね。共犯の可能性は非常に高い。明日にアサクラ父の正確な死因を聞きに行こう。あとは基盤の謎が残ってるね……」

「あの基盤ですか」

「そう。絶対に存在しない魔力構造、一体どうやって……」

「じ、実は、思い当たる節が――」



 ぐううぅぅぅぅ



 腹の虫が鳴きました。

 だーれだ。

 私です。

 空気読め。

 腹の虫までも別ベクトルでのコミュ障かよ。



「ふふっ、あはははははっ、お腹すきましたね」

「そうだね。ずっと移動の繰り返しだったし。私もここまで動いたのは久しぶりだよ」



 エリシアさんが笑ってくれました。私のくだらない腹の虫に笑う要素ありましたっけ……?



「フーリエさんはほぼ動いてなかったじゃないですか! ずっと箒に乗ってふよふよ! まぁそこがかわいいんですけどねっ」

「ツンデレみたいなイントネーションで言われても困るんだけど」

「あぁ好き……! ホント好き……」

「リラ行くよ。酒の置いてない店探そう」

「ちょっ、わたしに酒を飲むなと!?」

「酔って毎朝ベッドの脇に酒瓶転がしてるのはどこのどいつだ!」



 フーリエちゃんがツッコミを入れる旅に引っ付こうと絡んでいくエリシアさん。なんだか、一安心しました。

 もしかしたら、空気読めよって顔を向けられるかもしれなかったから……でもそうですよね、仲間ですもんね。


『同担は語り合ってナンボですから!』


 きっとこの3人は、仲間と書いて同担、あるいはその逆? まあ要は遠慮しなくていい関係ってことですね。その場の雰囲気とか関係なく。



「フーリエちゃん! 今日は一緒のベッドで寝ませんか!」

「は?」

「ひぃぃぃごめんなさい調子こきましたでもその軽蔑な表情もいい……」

「箒に乗りながら、なら別に構わないけど」

「ヴェッ!」



 私、フーリエちゃんに殺されそうです。

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