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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第3章 魔法使いの聖地に来ましたが、大大大事件の予感です!
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調査開始ぃ~…………!

「爆発の中心地は舞台の下、観客席から見て右側に保管されていた火薬からだった。元々は演出で使う予定で運び込まれた物だったが、火薬が詰め込まれた木箱の中に、衝撃に反応して暴発する液体が混入していたことが調査で判明した。木箱の破片に混じったガラスの破片に、アバンスの森奥地に生息するニトロの爆液の痕跡があった」



テーブルに積まれた膨大な量の紙の束から1束抜き出して、ジャケットに六芒星のブローチを付けた魔法使いは淡々と説明します。


ここはコルテ国家公安部の一室。私達はコルテを治める長、アルキオネ・エクリプス・ダイムラーの依頼で、先日に発生した爆破事件の解決に協力しているのです。

そして目の前で忙しなく資料の出し入れをしている、分厚い生地のジャケットを羽織った人物が“秩序の魔女”ことエレクトラ・マイネルさんです。国家公安調査局の局長であり、コルタヌ六芒星の治安維持担当です。


これでコルタヌ六芒星に会うのは4人目です。さすがの私も少し慣れました。なにせ長に会ってしまってますからね……



「この火薬を搬送したのはタトラ商会で、火薬の仕入れも同商会が行っている。しかしニトロの爆液は納品書には含まれていなかった」

「つまり誰かがニトロの爆液を混入させて、舞台演出の揺れで暴発するように仕向けたってことか」

「その通り。そしてこれがアリバイの無かった人物で――」

「あとでいいよ。出処が掴めれば自ずと絞り込める。絞り込んでからアリバイのあるなしを調べるのが”そっち”のやり方でしょ?」

「よく口が回るな。ま、それで出来損ないの革命家の尻尾が掴める」



エレクトラさん太い黒縁メガネを正し、語気を強めて言い放ちました。

フーリエちゃんはソファにどっかりと腰を下ろし、いつもの飄々とした態度で資料を流し見しています。

ちなみにエリシアさんは酒臭いと入口の検問で引っ掛かり屋外待機です。ベッド脇に4本も酒瓶が転がっていたので当然ですね。本当に見た目だけは清楚だなとつくづく思います。



「でも私的に引っ掛かるんだよね。国家公安調査局は“埃ひとつあれば犯人まで辿り着く”と言わしめる程の組織だよね? 実際にそうやって幾多の事件を10日足らずで解決してきた。真っ先に犯人を突き止め、証拠集めに日数を掛ける普通とは逆の手法を取る。言葉を選ばなければインチキな調査組織なのに、今回は犯人どころか尻尾すら掴めてない。つまり調査局の急所を突かれてるってこと?」

「嫌な言い方だ。だが返す言葉が無いのが余計に腹立たしいな。お前の言う通り、我々は犯人までの道筋を辿れていない。普通なら現場に残された魔力や、それに類する素材の“残り香”から犯人を特定する。それが我々に出来る最強の武器だったが、今回はそれが通用しない」



彼女は苦虫を噛み潰したような顔で、空中に浮かぶ透明なボードに文字を書き加えていきます。

もちろん普通のペンではなく、魔法使いの国らしく杖で書き込んでいます。まるでタッチペンみたいです。



「実は現場から奇妙な基盤を発見した。爆発で粉砕していたが、鑑識が徹夜で復元した。それがこれだ」



差し出されたのは、袋に入った正方形の板でした。

大きさは文庫本くらいで、ところどころ接着剤がはみ出した跡があります。いくら都合の良い魔法でも時間は巻き戻せないようです。

フーリエちゃんはテーブルに置かれたそれを、眉間に皺ができるほどに凝視しました。

焼け焦げて見えにくいですが、細かな部品が装着されていて、細い線が溶けて断線した後もあります。



「リラ、この板に付いてるの見える?」

「丸い筒状のと、断線した細い線とか四角い部品とか色々あります」

「えー全然見えないな……」



フーリエちゃんはおもむろに手首を振り、メガネを出すとスッと装着。

……いやいやいやいやいやそれは反則ですってフーリエちゃん!!! メガネっ子は反則!!! ただでさえかわいいフーリエちゃんにメガネを付け加えたら、世界がかわいさで崩壊します!!! しかも普段はつけていないからこそのギャップ!!! 属性過多すぎてかわいいの闇鍋!!! 今ここにコルタヌ六芒星の7人目が爆誕しました!!! オタク殺しの魔女フーリエ・マセラティッッッッッ!!!



「……ンンンッッ!!! …………ンンッッ!!!」

「えっ、どうした急に?」

「精神的な発作だよ。気にしないで」

「薬の副作用でもない……?」

「安全な麻薬を自家製性してるだけ」

「???????????」



エレクトラさんからは困惑で染まった目を、フーリエちゃんにはジト目を向けられました。

……いやだからその目やめてくださいってメガネのレンズ越しのジト目は余計狂います狂ってるけどもう死んじゃう助けて。



「ぜぇ……ぜぇ……げっほげほ……っ」

「水飲んで落ち着いて」

「おみじゅ……たすかる……」



フーリエちゃんが魔法で生成させた水を飲んで正気を取り戻しました。これが本当の聖すゲフンゲフン。

限界化して乱れた服を整えて、改めてエレクトラさんの方に向き直します。



「では改めて。その板には誰のものでもない魔力が付着していた。一般的に、魔力を構成する幾つかの物質の大小により、人や物体ごとに異なる魔力を持つとされる。それが属性の適正にも関わってくるのだが、ここに付着していた魔力は全くの均一だった。おまけに自然では有り得ない物質まで魔力に含まれていた」

「均一な魔力構造は存在しないと結論付けたのも、確か何世代か前のコルタヌ六芒星だったよね?」

「星詠みの魔女の祖母が提唱した」



2人の会話を聞くに、どうやらこの基盤に付着した魔力は不自然なようです。

魔力で個人を特定できてしまう調査局が特定できない、自然界ではありえない魔力。自然界に存在しないからこそ、逆に唯一無二の魔力のように思えます。

――瞬間、頭に閃きが走りました。



「……魔力を持たない人が、魔力を真似たとか。テロリストの声明から考えても、主犯が魔法使いの可能性は低いと思います」



エレクトラさんの目が丸くなりました。それは驚きよりも感心の意味と感じ取れる目でした。



「成程、良い推理だと思う。だが魔力を持たない人間はいない。特異体質がいれば別だが、この場合は特定されないよう魔力を偽装したと考えるのが自然だろう」

「偽装なんて、できるんですか…………?」

「錬金術師なら、あるいはってとこか。あとはタイゲタなら何か分かるかもしれない」

「なぜそこで軍導の魔女が?」

「彼女は以前、研究の一環で似たような物を作っていた。魔力量を自由に調整して出力させる装置と言っていたが、途中で頓挫したらしい」



なんだか科捜研じみてきました。

魔法で何でもかんでも解決! というのを想像していましたが、事件を起こす側も対策を施してきたようです。

まあ考えれば当然ですよね。国に喧嘩を売っているんですから、国家公安調査局のやり方を知らない訳がありません。



「この場で議論できる事象は以上だ。あとは外で星詠みの魔女が待っている。先に行っててくれ」



どうやら本祭の前日に会った星詠みの魔女も一緒らしいです。

雰囲気がツンとしていて、軍導の魔女ほどではないですが少し怖い、さらに全てを見透かされそうな雰囲気でちょっと苦手です……大丈夫かな。

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