テロ事件を調査するってウソでしょ……
「え、えっ、えっ、どういう流れですか……??? 話が全く読めないんですけど??」
「ざっくり言うと、私とリラとエリシアは事件の実行犯との疑惑を掛けられている。そこで調査に協力して主犯を確保できれば、疑いは晴れると」
「仲間!? 私達は悪いことなんもしてませんよね!? 」
「まぁまぁ落ち着くンネ。疑惑はあるが、根本から疑ってる訳ではないンネ。君達がテロリスト仲間であろうが、そうでなかろうが、その実力を買いたいンネよ。結果に関わらず相応の対価は用意するし、身の安全は保障するンネ」
何をどうして、一国の一大事に手を貸すことになったのか。
長の言い分によれば、要はホワイトハッカー的な感じで雇われるらしいですが、それでもそれでも意味不明! あれれ〜おかしいぞ〜? ってレベルじゃない!
「ふ、フーリエちゃんは何で引き受けたんですか!? いつもだったら面倒だからと絶対に拒否するのに! 」
「逆に聞くけど、私達より遥かに立場が上の人から直々にお願いされて断れる? それに提示された対価は、私にとって莫大な利益に繋がるんだよ。リラも例えば、お姉さんを引っ捕まえて、私の目の前に差し出せと要求もできる」
「……要はお金では買えない利益が手に入るってことですね?」
「勘が良くて助かる」
いくら長からの依頼とはいえ、単純な額の大きさでフーリエちゃんが動くとは思えません。やけにフーリエちゃんに興味を示す長の態度といい、秘密や企みが確実にあるはずです。
私達にテロリストの疑いをかけているのは名目上で、フーリエちゃんとコルテの繋がりを起点とした何かを利用した取引が、古代コルテ語の会話にあったに違いありません。
長は居住まいを正すと、ニッコリ笑顔で私に顔を合わせてきたので反射的に目を逸らしました。
いやまあ他人と目を合わせてるほうが珍しいんですけど。
「リラ氏の願いは姉を見つける事ンネ?」
「あっ、え、はい……」
「承知したンネ。事が終わった暁には協力するンネ。さて、詳細は追って知らせるンネから、今日は戻るように。強くあれ、万能であれ、美しくあれ、夢であれ」
「……強くあれ、万能であれ、美しくあれ、夢であれ」
フーリエちゃんが長の言葉を張り詰めた表情で復唱し、部屋を出ました。
「フーリエちゃん! 一体どういうことですか。軍導の魔女や長の反応といい、急な古代コルテ語の会話といい、単にテロリスト仲間の疑惑だけでは腑に落ちない部分が多すぎます!」
「超絶人見知りの割には、洞察力は優れてるんだね」
フーリエちゃんは皮肉るような微笑を私に向けました。これが赤の他人ならイラついてましたが、フーリエちゃんなので許します。
「私は貴族の出身と言ったよね? 簡潔に言えば、その繋がりだよ」
「でもフーリエちゃんは家出してるじゃないですか。身分がバレて口封じ的な感じですか?」
「うーんそこまでバレちゃってたかぁ。リラの洞察力を低く見積もりすぎてたみたい」
今度は困ったような笑いを向けてきました。かわいすぎて狂いそう。
オタクあるあるだと思うんですけど、アニメを見た後に感想に付け加えて “これってこういう展開なのでは?” という予想をすることってありますよね? その感覚が日常でもあるんです。
疑い深いと言われればそれまでですが、予想して準備しないと不安なもので……
「でも口封じとは少し違う。向こうは私の成り行きを鑑みて対価を提示してきた。テロリストの壊滅に協力してくれれば、私の情報を秘匿してくれるってね。内心、追手の存在に警戒しながら旅をしてきたから、ありがたい話だよ」
「確かに……それに私の要求にも応えてくれると言ってましたし、大変ですが労力を費やす価値はありますね」
「ちなみにリラは私の正体に気付いてる?」
フーリエちゃんはイタズラっぽく笑いました。フーリエちゃんって声に乗せる感情は少し控えめですが、表情はわりと豊かですね。
ああっ、もう、理性が、持たないよ……っ! かわいいっ……!
「かわいいっ!」
「いやそうじゃなくてさ」
「かわいいかわいい属性モリモリ森鴎外の最推し幼女系魔女っ娘!!!」
「誰が幼女系だ! 私はこれでも17歳、リラと同い年だよ!」
「私はどんなフーリエちゃんでも大好きですし、仲間でい続けるつもりです!」
「……へへっ、その言葉、信用させて貰うよ」
フーリエちゃんが照れた!一瞬だけでしたが!恐ろしく早い照れ、私でなければ見逃してましたよ!
フーリエちゃんはフーリエちゃん、どんな爵位持ちだろうと私の心を一発で射抜いた罪深き魔女っ娘であることには変わりないんですから!
さてさてそんなこんなで聞き取り調査が終わり、エリシアさんとも合流できました。エリシアさんも背負ったマシンガンのせいで逮捕寸前のところを、長からの通達で解放されたとのことです。
つまり長は私達3人分に、それぞれの報酬を渡すつもりだということ。まあ国のトップですし、お茶の子さいさいなのでしょう。
しかし情報というのは早いもので、事件から24時間も経過していないのにも関わらず、既に世論ができあがってました。驚くのは、コルタヌ六芒星の解散や長の退任、税制度の見直しなどを求める声が多いということです。
『魔法使いと非魔法使いの壁を無くし、全てが平等なコルテを築き、その証としてコルタヌ六芒星の解散せよ。これは今日まで不当な統治を行い、非魔法使いの差別を行ってきた国への報復である』
これがテロリストの出した声明です。
罪の無い人々を殺し、それによる恐怖で要求を通すのは非人道的で、非難と処罰を受けるのは当然。
それでもなお、テロリストの主張に同意する声が多いのは、自分の感じる以上に魔法使いと非魔法使いとの溝が深いということなのでしょうか。
「これは難しい問題だなぁ。単なる無法者の自分勝手な主張ではないのを、世論が証明しちゃった以上はコルタヌ六芒星も手を焼くだろうね」
「じゃあ私達も動こうにも動けないってことですか……?」
「そうでもないよ。私達に求められているのは主犯を見つけ出すこと。後の政治については関係ない。六芒星より先に壊滅させてもいいってこと。それが可能ならね」
「ならちゃっちゃとやりましょうよ! わたしのスカルチノフが暴れたくてウズウズしているんですから!」
銃を構えるエリシアさんをフーリエちゃんが制します。
「可能ならって言ったでしょ。コルタヌ六芒星の治安維持担当、エレクトラ・マイネルの手に掛かればどんな事件も3日以内に犯人を特定できると言われている。けど、わざわざ長が協力を求めてきたってことは、キッカケすら掴めてない。単独で先に見つけ出すのは難しいよ」
「そんなぁ」
フーリエちゃんが腕組みをしながら、ベッドであーでもないこーでもないとゴロゴロ転がっています。かわいい。
しかし困りました。スペシャリストの上澄みの上澄みのであるコルタヌ六芒星ですら、正体を掴めない相手をどう探すのか。
長からの要求を呑んだ以上は最後までやり遂げなければなりません。主犯を見つけない限り、この国から出られない。比奈姉探しもままならない。
私達にとっても、国にとっても早急な解決が必要なのですが……
「ふ、フーリエちゃん。まずは情報収集しませんか。何も分からなければ、一歩も動けません」
「もう一歩も動く気ないよ」
「へ?」
「疲れたから寝る。おやすみ」
「ええぇ~…………」
ネグリジェ姿にポンっと変わると、そそくさと布団に入ってしまいました。
どうやら本格的な捜査は明日へ持ち越しになりそうです……




