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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第3章 魔法使いの聖地に来ましたが、大大大事件の予感です!
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本山比奈というお姉ちゃんは

 アルシオーネさんの助言で、生誕祭を見て回ることにしました。

 フーリエちゃんは丘の上で昼寝中なので、エリシアさんと一緒です。なにせ動かない意思を鉱石のように固くされてしまったので。石だけに。


 しかしひと口に見て回る、とは言っても会場が広いのでどこから行けばいいのやら。サークルチェックしないとこうなるんですね。

 もっともエリシアさんは迷いなくお酒を買い漁っているのですが。



「あぁ~リラさん~あそこのワイナリー行きましょうよお~」

「エ、エリシアさん、これ以上はダメですよ……」

「なんでえ~祭りは吞んでナンボでしょう~?」

「飲みすぎはダメです! 酔って道端で寝込んで、神話演武ではしゃぐフーリエちゃんを見逃してもいいんですか」

「はっ! 確かに」



 フーリエちゃんをダシにしたら潔く諦めてくれました。人のこと言えないですが、チョロいですね。

 とりあえず祭りといえば屋台フードです。日本のような屋台ではないものの、八百屋や肉屋が自慢の品を使って、フランクフルトや焼きトウモロコシなどを売り出しています。比奈姉とも屋台巡りしたなあ……


 と、急に手を握られた感触がありました。もしや痴漢かと一瞬身構えましたが、なんとエリシアさんが私の手を握っているではありませんか。え、どうして???



「酔ったせいで方向感覚狂いそうなんで、はぐれないように手を繋いでてもいいですかあ~?」

「へ、いや、大丈夫、ですが、こう慣れてないもので……」

「リラさんの手も暖かいですねえ~」

「なんか、恥ずかしいです……」

「リラさんも祭りは好きですか?」



 エリシアさんが覗き込むように尋ねてきました。顔が近くでドキっとする……エリシアさんも顔は良いんですよね……



「……好きですよ。いつも比奈姉(ひなねえ)と一緒に、こうやって屋台を巡っていました。比奈姉がいるから祭りが好き、が正しいですかね。私は人と話すのが苦手なので……。大好きな比奈姉といると、楽しいんです」



 毎年行われる街の夏祭りが、楽しみで楽しみで仕方ありませんでした。屋台や花火、それも素敵だけど、普段とは一変した空間の中で比奈姉と一緒にいる感覚が大好きなのです。

 比奈姉はぐれないようにと帰るまで手を放してくれませんでした。私も放す気は無くて、その柔らかい手をずっと握っていたんですけど。


 でも一度だけ離れてしまったことがありました。私が小学校6年生で、比奈姉が中学2年生の頃でした。人とぶつかった拍子で指と指がするりと抜けてしまい、そのまま人の流れに呑まれてしまったのです。

 小6の、それも当時から運動音痴だった私は人間による渓流を遡ることがままならず、小さい背丈では周りも見渡せず、小さく叫んだ声は喧噪に消えていく。

 両親は一緒ではなかったですし、単純に迷子になった恐怖と、比奈姉の姿が予知できない場所に消えたことへの絶望でその場ですくむしかありませんでした。


 ただただ怖かった。比奈姉の声が聞こえない、見ず知らずの他人の背中しか見えない、五感に比奈姉を感じない。大好きだったはずの祭りという空間が、比奈姉がいなくなって急に魑魅魍魎の妖の世界へ変貌した。比奈姉の持つ魔力が楽しげな雰囲気に変えていたのだと気付きました。

 大好きなのに探しに歩きだせない自分にも嫌気が差して、無力感と恐怖で頭の中は混乱。もはや見えるのはアスファルト、聞こえるのは無音、感じるのは自分の肌だけ。誰も声を掛けてくれる人もおらず――掛けられていてもまともな受け答えはできなかったでしょうけど。


 それがどれほど続いたでしょう。数十分か1時間、2時間、あるいは案外数分だけか分かりませんが、比奈姉は私を見つけ出してくれました。


莉羅(りら)!」



 と叫ぶその声は正しく天使の呼び声、地獄に差す一筋の光。顔を上げると比奈姉の顔が目の前にしっかりとありました。



「良かった無事で…………っ」

「比奈姉、ごめんなさい……! 私が、手をちゃんと、絡めて、なかったから…………っ!」

「もう大丈夫だから、次は離さないから……」



 そんな会話を交わしたでしょうか。そのまま泣き止むまで、比奈姉は私を抱きしめてくれました。その瞬間に再び景色は色を取り戻し、匂いも音も感じるようになりました。

 比奈姉は私が落ち着くと屋台で焼き鳥や金魚、わたあめを買ってくれました。その間はずっと比奈姉のシャツの裾を掴んでいた記憶があります。そして裏路地に手を引っ張って、狭い横幅の中に横並びになって買ったものを食べました。きっと私がまだ怯えていると思ったのでしょう。ほんとに幼少期から人見知りで、比奈姉もそれを見てますから。


 祭りという期間限定の空間から、少し外れた薄暗くて狭い路地裏。そこに2人きりで食べるチョコバナナに焼きそばにかき氷…………あの味は一生忘れられません。誰の手でも二度とは再現できない味です。ただただ尊い、そうとしか表現できません。

 私が一口ひとくちを噛みしめていると、比奈姉が顔を寄せてきて「口についてるよ」と教えてくれました。確かにチョコが付いてて指で拭おうとした時です。



「――――――――!?」



 比奈姉に、キスをされました。

 私のファーストキスです。でも恥ずかしさとか困惑よりも気づいたことがありました。

 提灯の微かな明かりに照らされた比奈姉の頬に筋があった。キスされた瞬間に驚きで見開いた目に、それは映ったのです。


 比奈姉も不安だったのです。妹がはぐれて、しかもまだ小学校6年生で1人で祭りは心もとない時期。なにより姉妹がイレギュラーな事態で離れたことなどありませんでしたから。きっとキスは比奈姉なりの、姉妹の関係性を自身に再認識させて私も安心させる為の行為だったのです。

 ずっと離れない。そう心に決めました。比奈姉が離れるならどこまでも追いかける。姉だから、姉妹だから、離れることなんてない、はずでした。


 比奈姉が忽然と姿を消したのは、その半年後でした。

予約投稿忘れてたぁ!

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