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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第3章 魔法使いの聖地に来ましたが、大大大事件の予感です!
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砂漠に落ちた針を探すが如しの比奈姉探し

 いよいよ【コルテ】最大の祭り、始祖セレーネ・ゴドルフィン・ダイムラーの生誕祭当日を迎えました。

 宿から見下ろす大通りは、人で埋め尽くされて地面の色が見えにくいほど。人気のお店からは列が延々と続いており、さながら同人誌即売会における人気サークルの待機列のようです。

 絶対に比奈姉(ひなねえ)を見つける、と意気込んではいましたが、改めてこの人の多さを目の当たりにすると自信がなくなってきました……



「人、人、人……嫌になっちゃうね」

「この中から比奈姉を見つけるとか、無理難題ですよ~……」

「そんな簡単に諦める程度じゃないんでしょ」

「そ、それはそうですけど……実際難しいじゃないですか。この前の探知魔法で探せないんですか?」

「人には対応してないからね。地道に探すしかない」

「ともかく外に出てみないことには、始まりませんね……」



 予想外の人の多さに辟易しますが、巡ってきたチャンスを逃すわけにはいきません。これを逃したら次はいつになるか分からないのです。

 人混みなんて幾多のイベントで慣れていますし、何より憧れていた魔法使いになった私を比奈姉に見せたい。比奈姉の見せてくれた夢が現実になったよと伝えたい。空白の三年間は、この世界で取り戻す。

 まずはもう一度ギルドで目撃情報を確認することにしました。最新の情報があれば、そこから範囲は絞れるはずです。



「最新の情報だと、メイン会場の方でありますね。神話演武(しんわえんぶ)が行われる場所ですから、観覧される予定なのかもしれません」

「神話演武!わたしも見たかったんです!」

「去年も良かったけど、今年は最新の解釈を取り入れているそうだよ。どんな違いがあるか楽しみ」



 神話演武とは、生誕祭におけるメインイベントで、始祖の神話をなぞらえた劇だそうです。神話の学術的解釈が更新されると、今年のように内容が変わるらしく学問の上でも非常に重要な劇なのだとか。


 早速メイン会場に向かうと、開演は夜だというのに客席は満席に近い状態でした。空いているのは立ち見席くらいです。

 会場を見渡していると、見覚えのある姿と目が合ってしまいました。ショートカットで濃い緑色の髪。そして胸に付けた六芒星のブローチ。寝具店の店員さん、もといコルタヌ六芒星のアトラスさんです。



「あ、この前のお客さん!」

「あ、ア、アッ……」

「え、リラ会ったの? コルタヌ六芒星に?」

「実はかくかくしかじかにじかでして」

「そんなことがねぇ」



 フーリエちゃんはアトラスさんを見据えると、歩み寄っていきました。一歩一歩が丁寧かつ堂々。貴族出身ゆえの佇まい、そのギャップに思わず感情が高ぶってしまいます……! 数センチの歩様に詰まったフーリエちゃんの魅力……! はぁはぁはぁはぁはぁ、今は我慢抑えろ私のクソデカ感情……ッ!



「初めまして。フーリエ・マセラティと申します。お会いできて光栄です」

「フーリエちゃんの敬語キターーーーー!!!!」



 我慢できませんでした。でも小声だし気づかれてないからセーフ。



「そう畏まらないで。ボクお堅いの苦手だからさ」

「やっぱり? ならお言葉通りに。ふぅ、こちらがモトヤマ・リラでこっちがエリシア・ラーダ。以後お見知りおきを」

「ボクは農水畜産担当のコルタヌ六芒星、豊穣の魔女ことアトラス・カール・ポタジェ。この前は驚かせてごめんね」

「アッ、いえ、全然……ベッド、良かった、です」

「それならよかった!」



 いや全然よくねーですよ何でこんなところにまでコルタヌ六芒星に遭遇してしまうんですか私みたいな平民に不釣り合いでしょう!?

 それより今の私は比奈姉探しの最中、優先すべきはこっちです! フーリエちゃんがアトラスさんと話していますが今は無視。目を凝らして比奈姉ぽい人を探して――



「――あぁそんな感じの人見たよ。セレーネ像の方へ向かってた」

「だってさリラ」

「ヴァッ!?」



 急にこっちに振るのやめてください! コミュ障は急に反応できないんですから!

 ただ流れは理解できました。比奈姉がそちらへ向かったなら追うしかないです。屋台のカップ酒を買い漁るエリシアさんを引っ張って、メイン会場の西にある大広場へ足を急ぎます。


 女神のように美しい美貌の始祖セレーネ像が目印の大広場。こちらにも出店やら大道芸人やらをお目当てに、観光客で大賑わい。まるで即売会のコスプレスブース。つまり、ここも探すのが困難ってことです。



「この様子ではまともに探せません……どこか一望できそうな場所はありませんか」

「それ当てつけで言ってる?」

「あっ……」



 そうでした。フーリエちゃんは小さいので、人の壁に阻まれて先が見えないんでした。ジャンプしてるフーリエちゃんかわいい。私の心もぴょんぴょん。

 見渡すと小高い丘があったので、登ってエリシアさん謹製の単眼鏡で捜索開始です。

 ……………………これ何時間かかるんでしょうか。当たり前ですが、拡大すれば一度に見られる探索範囲は狭くなります。

 目星を付けて範囲を絞っているとはいえ、大広場をしらみつぶしに探すのですから膨大な時間を費やすことになります。



「比奈姉ぇ〜どこ〜」

「もう別の場所に行ってしまったかもね」

「フーリエさんもふもふ……寝転がったフーリエさんもふもふ!」

「ちょっとそこで寝転がらないでくれるかしら。星が見られない」

「ピェッ!?」



 だから急に背後から話しかけるのやめてくださいってば!!

 振り返れば望遠鏡を担いだ、フーリエちゃんより少し高い程度の背丈の少女が。長い黒髪で、夜空のような青みがかった紺色の瞳。星空の模様のローブには六芒星のブローチが……って、またコルタヌ六芒星!?!?



「もしかして、この方も六芒星の方?」

「“この方も”って他にも会ったような言い草ね。そうよ、私が星詠みの魔女アルシオーネ・アドマイヤ。星が見たいからどいて」

「昼なのに星が見えるんですか?」

「見えなかったらここにいないわよ」



 望遠鏡の脚で私達を払いのけるアルシオーネさん。そんなツンな態度に臆せずグイグイいくエリシアさんのコミュ強ムーブに、こっちが臆してしまいそうです。



「あなた達は観光客でしょ。ここで盗撮かしら?」

「ち、ちちちち違います! あ、姉を、探してる、だけです!」

「姉? 特徴は?」

「あ、と、名前はモトヤマ・ヒナで、茶髪でセミロングで、赤い眼鏡、です」

「年は幾つ? あと生まれた季節」

「じゅ、19で、冬です」

「ありがとう」



 アルシオーネさんはおもむろに望遠鏡を覗くと、角度を調整しながら方向を変えていきます。まさか星から比奈姉を探し出そうというのでしょうか……? そんなことすらコルタヌ六芒星にはできてしまう……ってこと!?

 フーリエちゃんが寝息を立てている脇で、アルシオーネさんは「見つけた」と望遠鏡を止めました。



「セレーネ・ベルタ大聖堂の方に向かってるわ。それとあなたの星も見つけた。17歳で生まれは冬。そうでしょ?」

「ど、どうして……!?」

「とても似ている星があったわ。それに……あら、あなた今日は厄日だわ」



 ええ間違いなく厄日でしょうねコルタヌ六芒星に2人も出会ってしまったのですから! 今も心臓バックバクで血圧急上昇ですよ!

 しかし追いかけても追いかけても、比奈姉は先に行くばかり。これでは一向に姿すら捉えられません。顔は合わせられなくても、せめて後ろ姿だけでも見たいのですが……

 姉妹はいつでもどこでも、一緒にいるもの。その言葉が嘘じゃないなら、ほんの少しだけでも姿を見せてくれてもいいじゃん。ずっとずっと、信じてきたんだからさ……



「もしかして、私のこと、忘れちゃったの…………? そこにいるって、見せてよ……っ」

「リ、リラさん泣くのは早いですよ! まだ見失ってはいないです、大聖堂へ行きましょう!」

「いや、移動している間にまた他の場所に行ってしまうわ。神話演武で待ち伏せが今の最善策ね」

「ならそうしましょう。大丈夫、まだチャンスはあります!」

「エリシアさん…………。そうですよね、落ち込むのは早いですよね。簡単にへこたれるほど、私と比奈姉の関係は脆弱ではないはずです。ありがとうございます。まだ頑張れそうです」



 エリシアさんの励ましを糧に、涙を拭って立ち上がります。まだ出国していないなら追えるはず。見つけたらどんな手を使ってでも、私と目を合わせてやるのです!



「神話演武まで時間はあるわ。それまで色々回ってきたら? せっかくの祭り、急いでも良いことないわよ」

「な、ならそう、してみます……フーリエちゃんも、行きましょうよ」

「まだ寝てる…………」

「ちょっ、そうは言わないで、行きましょう!」

「嫌」



 引っ張っても叩いても起きないフーリエちゃん。こうなるともう山のように動いてくれません。仕方ないのでエリシアさんと回って、後から合流することにしました。



「絶対に来てくださいねフーリエちゃん!」

「言われなくても行くから安心して」

「あぁっ、おててフリフリかわいい……っ!」

毎週金曜日の更新となります!

少しづつ頻度も増やしていけたらと思っていますので、よろしくお願いします!

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