もうひとつ、重要なことを忘れてませんかっ?
酒場を出ると、フーリエちゃんが「あっ」と何か思い出した声を出しました。半開きのお口かわいい。
「そういえばエリシア用の箒の件。ここで魔法が使えなくても箒を飛ばせる動力機関があるって」
「確かにそんなこと言ってましたね。どこにあるんでしょうか」
エリシアさんは魔力こそあるものの、それを制御できないので魔法が使えません。しかし私とフーリエちゃんは箒での移動が基本です。
徒歩と同じスピードで飛ばしていては、箒移動である意味がない。しかし3人も乗せることはできない。そこでウインマリン地区にあるという後付けの動力機関を探すことにしました。
比奈姉は生誕祭までいるとの情報も掴みましたし、本格的に探すのはそれからでも遅くないでしょう。
「魔鉱石を使うから特有の魔力が出ているはず。魔力値の判定範囲はこのくらいで、属性判定をこれとこれで……」
フーリエちゃんは杖で空を切りながら難しい単語をぶつぶつと呟いています。一体、何をしているのでしょうか。
「よしこれで魔鉱石の位置を特定できる」
「えっと、どうやったんですか……?」
「魔鉱石の持つ特徴を指定して、私の放つ魔力に反応するように式を組み込んだ」
「凄いです! 私もやってみたいです!」
「まだ開発途中だから、教えられるまでには至ってないんだよ。それに工学分野の知識も必要だよ?」
フーリエちゃんがポンっと出した本には、難解な専門用語がズラリ。これらを理解しないと使えないということは、私には何十年掛かっても無理でしょう。
というか、しれっと言ってますがフーリエちゃんはオリジナルの魔法まで編み出してるんですか!? 天才と呼ばれるゆえんがまたひとつ明らかになりましたね。本当にフーリエちゃんはかわいくて凄い……
フーリエちゃんの杖の先から放たれる光の強弱を頼りに、行き着いたのは普通の家でした。
「ここ、なんですか? 動力機関と聞いたから町工場を想像していましたが」
「いや絶対にここ」
フーリエちゃんが絶対的な自信を見せていると、通りすがりの人から声をかけられました。
「アサクラに用かい?」
「アサクラって、この家の人?」
「そうさ。アサクラはいつも深夜に埠頭へ出る。昼間はずっと引きこもりさ」
「そうなんだ、ありがとう。じゃあ夜まで待つしかないね」
フーリエちゃんが指を鳴らすと、やっぱりどこからともなく箒が飛んで来て目の前で静止。
早く乗ってと視線で急かされ、慎重に跨ぐとフーリエちゃんも横乗りで後ろに搭乗します。
「深夜に起きなきゃいけないから、寝るなら今。昼からぐっすりできるなんて最高! リラ、私の箒貸すから宿まで運んで。箒で気付いた点があればメモよろしく」
「え、え、え、でも他人の箒に乗るなんて……!」
「箒に大きな違いなんて無いよ。んじゃ、おやすみ」
その言葉でフーリエちゃんは熟睡。頭を私の背中に預けて。
いや待ってそれはダメですよフーリエちゃん!! 理性が蒸発しそうになっちゃいます!!ふわふわの髪の毛が背中に伝わる…………はああぁぁぁぁっ!?!?
しかも箒を貸すって何!? 私をそれほどまでに信頼してくれているんですか!?!? この上なく嬉しいけど恐れ多いッ!!
興奮しても仕方ないので、慎重にゆっくりと宿まで箒を飛ばしました。




