フーリエちゃんは実質、実家です!
私が思わず大声をあげると、店員さん、もといコルタヌ六芒星の人は面食らいました。
「え、今気付いたの? もしかして観光客? てっきり新生活を始める人かと思ってたけど」
「あ、え、えと、その、はい……」
「そっか。それなら余計緊張させちゃったね。申し訳ない」
思い出しました。コルタヌ六芒星はフーリエちゃんが言っていた、国の運営を担う官僚だと!
国のお偉いさんと出会ってしまうなんて、なんと不幸なのでしょう。コミュ障でなくとも、緊張してガチガチになりますよね!? 視界が急に狭まって、役人さんの下半身とその周囲しか見えないです。コワイコワイネ……
「ボクはアトラス・カール・ポタジェ。農水畜産担当のコルタヌ六芒星をやらせて貰ってる」
「あ、あの、リラです…………ど、どうして、店員、なんですか?」
「あの店はボクの祖母の店なんだ。だけど腰を悪くしてしまって、今日だけボクが仕事を休んで店番をしていたんだ。暇でしょうがなくて、展示品の確認の為に腰かけたら寝ちゃった」
「え…………」
「お願い誰にも言わないで! 無理にとは言わないし報復もしないと誓うけど、どうかこの通り!」
頭を下げて願い出るアトラスさん。途端にコルタヌ六芒星の肩書が陳腐に感じてしまいました。こんな人が国の運営の一端を担っているとは……良いのか悪いのか、緊張が少しほぐれました。
「でも何故ベッドを? 移住でもするつもり?」
「ち、違います。泊まる宿がその、家具が無くて……ずっと歩き回って疲れて、仕方ないから、安いベッドを用意しようって話になって」
「あー分かったあの宿屋か……かなり苦情が多いんだ。特に魔法使いに対してそういう部屋を割り当ててると」
「ええ……じゃあ、わざと、なんですか」
「断言はできないけどね。確かに宿屋には家具を備え付けなければいけないって法律は無い。だから摘発できないし、きちんと客に説明するように注意するしかできない」
「ずる、賢いんですね……店主は、魔法使いが、嫌いなんですか」
そう聞くと、アトラスさんは困った表情を見せました。ため息もついたことから、深刻なことだと推察できます。
「この国は、良くも悪くも魔法使いの国なんだ。魔法使いが便利に暮らせるように設計されていて、店舗が2階にあったり看板も高い位置にあったり、魔法使いでない人にとっては不便極まりなかった。今は観光地化して店舗が地上に降りたけど、それでも名残りは残ってる。法律も平等になるよう整備されたけど、伝統に則った前時代的な法律も残っている。非魔法使いが増えた今、それらは排除されるべきなんだろうけど、このコルテは魔法で誕生した国だ。アイデンティティは欠かせないんだよ」
伝統と新しい時代に向けた改革のバランス。政治はサッパリですが、転生前の世界でも耳にする問題でした。
可能なら、ほんの少しでも意見できれば良いのですが、私はこの世界の住人ではないので聞いているだけしかできません。第三者が首を突っ込んで良い結果になるなんて、ほとんど無いんです。
「さて着いたよ。部屋の前まで運べばいいかな?」
「は、はい。ありがとう、ございます」
アトラスさんに運んでもらって、はじめてのおつかい異世界編は無事終了です。アトラスさんに再度お礼を言うと、手を振りながら颯爽と去って行きました。
「お帰り。おっ、ベッドまで持ってきてる。上出来、よくやった」
「え、えへへへへ…………」
あぁやっぱりフーリエちゃんしか勝たん……実家のような安心感




