はじめてのおつかい~異世界編~
寂しく箒を飛ばし、人の少ない上空にも関わらず周囲の目が気になる。
自意識過剰と指摘されれば、何も言い返せないほどに臆病でコミュ障。なのに仲間からおつかいを頼まれ、異世界でひとりでの買い物に向かう魔法使い。
名前はモトヤマ・リラ。漢字で書くと本山莉羅。年齢は17歳。
さてさて周囲の人の目線に負けず、頼まれた掛布団を3つと処分品のベッドを持って帰れるかな?
「こんなのは止めよう……」
緊張をほぐすために脳内でナレーションを雇っていましたが、恥ずかしいし悲しくなってきたので解雇です。
もっとも、魔法使いという目立って注目される職業になっている時点で矛盾はしているのですけれど。やっぱり魔法の憧れは捨てられないし、なってみたい自分とは弱点を克服した自分でもあるのです。
魔法の力を借りれば、理想の自分になれるかもしれない。そして何より、魔法の実在する世界に転生して魔法使いにならないのも、矛盾する話なのです。
どちらを取っても矛盾しているのなら、憧れを含んだ矛盾を選びたい。異世界でくらい、理想と夢を追いかけたいのです。
どうにか羞恥心に耐えながら、寝具のマークの看板が垂れ下がる店を発見しました。
まずは最優先の掛布団からです。ベッドコーナーで熟睡しているお客さんを起こさないように、そうっと物色します。
あくまでコルテ滞在中だけ使うので、最低限の温かさがある安い物を選びました。
次はベッドなのですが、このお店には訳アリ品が置いてあるようです。フーリエちゃんは処分品でいいと言っていましたが、捨てられた物を探すより楽ですし壊れる心配もありません。
しかし問題がひとつ。それは訳アリ品のベッドに、お客さんが熟睡しているということ。しかもよりによって値札の上で。
(どうしよう……起きる気配はないし、起こす勇気も出ない……わざと大きな音を出して起こす? でも店員さんに怒られそうだし、どうしよう……)
ぐるぐるベッドの周りを回って考えていると、お客さんが小さく唸って体を起こしました。私はとっさに物陰に隠れて立ち去るのを待とうとしましたが……
「んんんっ~よく寝た~。あれ、そこの魔女さんどうして隠れてるの? もしかして驚かせちゃった? そうだったらゴメンね」
(なななな、なんで!? 絶対にあそこから見えないはずなのに、どうして私が分かるの!?)
「もしかして、何で見えてるのかって思ってる? それはボクが透視を使えるからで、ってそう言ったら余計怖いか。大丈夫、ボクは味方さ。出てきてくれないと、その証拠も見せられないから困っちゃうな~」
(詰みじゃん詰んでるじゃん! 怪しくないとか、こっちからじゃ分かんないよ! い、一応すぐ魔法は撃てるようにしよう……)
杖を構えながら、恐る恐る物陰から身を出しました。ベッドを挟んだ向こう側には、六芒星のブローチを胸に付けた女性がいました。
丈が長めのシャツにキュロット、髪はショートカットで芝生を想起させる濃い緑色というボーイッシュな出で立ちです。
握手を求められましたがコミュ障なのでもちろん無理です。
「はははっ。そうだよね、このブローチ見たら普通の人は緊張しちゃうよね……親しみやすいように振舞ってるつもりなんだけど、逆効果だったかなぁ……」
悲しそうに表情が沈むのを見て、少しいたたまれなくなりました。
違うんです誤解なんです、私がコミュ障すぎるだけなんです!
「え、あ、あの、その、すいません……」
「謝らなくていいよ。それに商品の上で寝ちゃってたボクも悪いし。その品をお買い上げで?」
「あ、えと、はい……」
「他にご希望の品は?」
「えと、そのベッド……の値段が、見たくて」
「ああこれね。配送中の事故で全体的に傷があるけど、使う分には問題無い。限定4台で500マイカだけど、驚かせてしまったお詫びに400マイカにするよ」
さらっと商品説明していますが、この人が店員さんなんですか? 店員が売り物の上で寝てるとか、異世界でなかったらSNSで晒されて炎上ですよ……
「あ、じゃあ3台、お願いします……」
「まいどあり。その布団も値引いて150マイカにしておくね」
「い、いやいや、そこまでしなくても……私が臆病な、だけですから」
「いいや、ここは値引かせて。驚かせた事実がある以上は、しっかり報いをしないと」
「そ、そこまで仰るなら……」
根負けして値引きを受け入れました。相手の善意を無理に断るのも悪いですしね。
「では合計1650マイカね」
「あ、ではちょうどで……」
「はい、確かに。持ち帰りは大丈夫? 配送しようか?」
「え、じゃあ、お願いしても、いいですか」
「もちろん。1000マイカ以上お買い上げで送料無料だよ」
タダで配送してもらえるなら大助かりです。掛布団とベッドを一人で持ち帰るのは、いくら箒があってもキツイですから。
ついてきてと言われ行くと、大きなベランダに出ました。置いてある木箱には大量の緩衝材が入っていて、壁には箒と大きなカゴがあります。なるほど、ここで商品を梱包してカゴに入れ、箒にくくりつけて運ぶんですね。
大幅値引きをしてもらって忍びないので、私も作業を手伝います。
すぐに使うので簡単に包んで終わり。店員さんが箒を浮かせてカゴを装着し、中に商品を入れます。
なんか箒をひとりでに浮かすのってカッコいいですね。フーリエちゃんの箒を呼び出すやつも最高にカッコいいし、私もそういうのやってみようかな。
「よし準備できた。では案内してくれるかな」
「は、はい!」
スナップを効かせて手首を振り、マイ箒を出しました。ちょっとマジシャンぽくなったかな。
自転車に乗るように跨いで、ふわりと浮き上がらせます。やっぱり一芸が欲しい! 地味!
「で、では、行きます」
ゆっくりと箒を飛ばして宿に向かいます。隣の店員さんも重い荷物を下げているにも関わらず、余裕綽々で箒を飛ばしています。なんなら横乗りで優雅な感じで上品。相当な魔法の腕があるようです。
私の視線に気付いたのか、店員さんが笑いかけてくれました。やめてコミュ障にそれはダメージ来る……
「す、凄いですね、そんな重いの、簡単に運べるなんて」
「? 当然でしょ。ボクがこのくらいできなきゃ、魔法使いの上に就く者として不相応だよ」
「魔法使いの、上……?」
まるで重要な役職にいるかのような言い草です。この人はただの店員さんのはずでは……?
ふと六芒星のブローチが目につきました。六芒星って……あ!
「もももしかして、コルタヌ六芒星!?」




