幻の古代生物のそばには、奇怪な謎が転がっていました
ようやくダンジョンの最深部まで到達しました。
講堂ほどの広さがある開けた空間に、噂の生物が待ち構えていました。その姿は高さが3メートル以上はある、巨大化したサソリのようです。
ロブスターのように大きなハサミを持ち、太く短い6本の足でのっそり動いています。尻尾の先には刺が付いていますが、先端が丸くて刺としての機能を果たしていません。
「これはクヴャリーシェではないですか! 実在していたのですね!」
「クヴァ……クダァ……え?」
「古代に守り神として崇められていたという記録が残っている生物です。記録は残っているものの、実際に姿を見た者はおらず、痕跡すら見つからないことから幻とされていたんです」
「なるほど。魔物が大量にいるから誰も最深部に到達できず、目撃情報が無かったということか」
「単純な一本道にも関わらず、ダンジョン指定されている上に開拓が途中までですからね。編集長も知らずに依頼を出して、受付の人も教えてくれないなんて不親切ですねえ」
サンバーさんはブツブツ喋りながらカメラを構え、一心不乱に写真を撮っています。グヴャリーシェは襲う気配を微塵も感じさせず、のそのそと動くだけでした。
なお私は完全に手持ち無沙汰なので、目の前の風景を眺めることに徹します。
「そういえば成果によって追加報酬もあるんだよね? つまり他にも何かあるってことでしょ。その何かの情報教えてよ」
「そうでした。実はグヴャリーシェの他に、謎の言語で書かれた奇書が眠っているとの噂があるんです」
奇書とはまたワクワクする代物じゃないですか! こういう類の本には、究極の魔法の秘儀や世界の真実などなどが書かれているのがお約束ですよね! 報酬のためにも好奇心のためにも、私の総力をあげて探しましょう!
……とはいえ、講堂くらいの広さがある空間です。パッと見では本らしき物は見当たらず、地道に探していたら日が暮れてしまいます。
「フーリエちゃん、探知とか透視の魔法ってないんですか」
「あるけど、月属性の魔法だから屋内では使えないよ」
「うーん困った……」
「めんどくさい……地脈でも辿ろうかな」
フーリエちゃんはさも当たり前のように高度そうな魔法を使い始めました。
一方でエリシアさんは岩に向かって銃を発射。確かに岩を壊してアイテムが拾えたりしますが、その方法は脳筋すぎやしませんか。
「あった! ありましたよ本が!」
マジで見つかっちゃうの……これじゃ本当に私は何もしてないじゃないですか。悔しいし、悲しい……私が臆病なのも悪いですけど。
見つかった本は装飾が一切無く、紙も普通のとは違い古風です。パピルス紙ってやつでしたっけ。
「見せてくださいエリシアさん。ふむ、タイトルも著者名も無し。まさしく奇書です」
「確かに見たことない言語で書かれているね」
「わ、私にも見せてくださいっ」
好奇心の波に乗って、私にも本を見せてもらいました。たかがこの程度のことで勇気がいる自分が情けない……
「…………? リラどうしたの固まって」
「あ、あぁいや、その、私も見たことない文字だったので……」
その“未知の言語” はアラビア文字によく似ていました。
似ている、というのはアラビア文字だと断定できる材料がないからです。写真でしか見たことありませんし、もちろん解読もできません。
日本人の私からすれば、アラビア文字も異世界の文字と同じようなものです。しかし私の知るアラビア文字に似ているのも事実であり、より頭が混乱してきました。
「じゃあこれで追加報酬は確定だね?」
「相変わらずお金にがめついですねえ。もちろん確定ですよ」
「やった」
小さく喜ぶフーリエちゃんがとても愛らしいです。頭の混乱なんか一瞬で吹き飛びました。
いつの間にか隣にいたエリシアさんも、同じ気持ちのようです。
「フーリエさんかわいいですねえ……」
「分かります……尊い……」
やはり推しは光。変人ですが、エリシアさんとは仲良くなれそうな予感がします。
「よし! 後は持ち帰って解読作業です! 写真もバッチリ撮れましたし、これは特大スクープですよ!」
「私達のことはくれぐれも匿名で頼むよ」
「承知してますよ。記者たるもの個人情報の扱いは慎重でなければなりませんから」
フーリエちゃんとサンバーさんの会話を聞いていると、なんだか微笑ましい気持ちになります。
しかし……なぜか心がモヤモヤします。嫉妬なのか寂しさなのか……
「ではちゃっちゃと帰りましょう」
帰りはエリシアさんが殲滅してくれたお陰で楽でした。もちろん、箒の後ろにフーリエちゃんを乗せてダンジョンを後にしました。




