いざダンジョン突入!魑魅魍魎の世界へよおこそ
近場のレストランで食事を済ませると、食後の一休みをしっかり挟んで幻の古代生物が潜んでいるらしいダンジョンへ向かいました。
ダンジョンまでは箒で15分程度。森の道なき道を進むと、開けた場所に辿り着きました。そこにぽっかりと口を開けているのが件のダンジョンのようです。
ゲームやアニメの中ではお馴染みのダンジョンですが、実際に目の当たりにすると、腰が引けてしまうくらいに異様な雰囲気が漂っています。
一見すると普通の洞窟に見えますが、まるで心霊スポットに来たかのような本能的な恐怖が襲い掛かってきます。入口から大量の魔力が放出されているのも感じますし、ダンジョンとして普通の洞窟と区別されているのもうなずけます。
「さて行きますか。特ダネ大スクープで一攫千金です! 」
「私はここで待ってるから」
「ダメです。ちゃんと契約書に署名した以上は歩くくらいして頂かないと」
「ふ、フーリエちゃん! よ、よかったら私が手を引いてあげましゅか……?」
「本当? 助かる」
「ピェッ…………」
半分冗談のつもりだったのですが、本当にフーリエちゃんが手を繋いでくれました。
え? え? え? 現実? この手に伝わる柔らかくて暖かい感触は現実??? 推しと軽率に手なんか繋いじゃっていいんですか!?!? これ厄介オタクに殺されませんよね!?!? 私の第二の人生、これで終わりンゴ……??
「ほら固まってないで行くよ」
「ピェッ…………」
半ば意識を飛ばしながら、人生初のダンジョンに足を踏み入れました。
フーリエちゃんと手を繋ぐなどという予想外すぎるイベントが発生したお陰か、ダンジョンへの恐怖心は薄れていました。ほんと、どこでフラグ立てたんでしょうか。無自覚系主人公になった覚えはないですよ。
ダンジョンの中はゲームやアニメの中と同じように、魔物が跋扈する世界でした。同じ種族でも形や色や大きさは色々で、代表的なスライムから名前を知らないマイナーな魔物まで多種多様。まるで魔物のワゴンセールです。そんな魔物が次々襲い掛かるので、先人の導いたルートがあるとはいえ一筋縄では進めません。
「しつこいですね魔物というのは! そんなに人間様がお好きなら友好な態度を示しなさいな!」
「Farnasta! Felonata! Wilnata! |Wartena・Aiqrs《水よ弾けろ》!」
「ま、せいぜい頑張れ2人とも」
「ちょっとフーリエさん!? あなたも手伝ってくれないとフーリエさんも死にますよ!」
「だから死なないように頑張れって言ってるの」
「勘弁してくださいダンジョンに潜るの久々なんですよ!」
幸いにもダンジョン内の魔物は比較的弱く、1回攻撃を喰らえば次々に倒れていきます。しかし圧倒的な数の暴力で2人では捌ききれなくなってきました。
「数が多すぎるっ! でも先を考えると消費魔力が多い範囲攻撃は使いたくないですね……!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、万年運動不足にこれはキツイです……っ」
「私に良い考えがある。敵をある程度引き付けて、一人で半分ずつ範囲攻撃魔法を撃ち込めば魔力の消費が抑えられるんじゃない?」
「さっすがフーリエちゃん作戦が完璧です! 天才!」
「少し考えれば思いつくことでしょ」
そう言いながらニヤけて照れるクッソかわいいフーリエちゃんを横目に、攻撃を一旦止めて魔物を引き付けます。
良い感じにまとまってくれたところで、サンバーさんのアイコンタクトを視界の端で捉え、範囲攻撃魔法を撃ち込みました。
「|Farnasta・Rnquoc《燃え広がれ》!」
「|Felonata・Rnquoc《凍て尽くせ》!」
半分は凍て尽くされ、もう半分は燃やし尽くされて魔物は死に絶えました。
これでやっと一息つけます…………。岩の影に座って休憩を挟むことにしました。
「はぁ、大変でしたがリラさんのお陰で助かりました。魔法の腕前はかなりのモノだとお見受けしましたが、もしかして同じ魔法学校の出身ですか?」
「あ、あ、あ、いえ違います……ふ、フーリエちゃんに教わって、その前は全然……魔法使いとか、じゃないです」
「フーリエさんとはどのような経緯で出会ったのですか? 」
「や、あの、カリーナで、たまたま……」
「そしてリラさんに奴隷契約を迫ったという訳ですね!?」
「ち、ちが……! フーリエちゃんはそんな人じゃないです!」
めっちゃグイグイ来るんですけど!? 記者ってやはりそうなのですか!? 相手に無理やり迫ってボロを吐かせるお仕事なんですね!?
フーリエちゃん助けて……っ、寝てないでこの人をどうにかしてください……! 取材とかまっぴらごめんなんですからあ!
と、その時でした。カサカサと嫌な音が鼓膜を震わせました。サンバーさんも聞こえたようで臨戦態勢に入ります。
音は一定方向ではなく、各方向から聞こえて来ます。つまり魔物が私たちを再び囲みにきたということです。死ぬと独特の体液を出して、その匂いで援護を呼ぶ生物もいますし、さっきの魔物はそういう類だったのかもしれません。てかホントに魔物多すぎやしませんかこのダンジョン!?
やがて2つ、4つ、8つと赤い目が現れました。もうその時点で囲まれているようで、最初に魔物の全体がぼんやり見える頃には、目の数は何十にも増えていました。
「ぎいいいいいやああああああ!?!?!?」
「なんなのうるさ……うわあぁぁぁぁ!?!?!?」
フーリエちゃんもサンバーさんも大絶叫。それもそのはず、魔物の成している姿は想像を絶するほどにキモイのです。例えるなら、クモとGを足して2で割ったヤツが巨大化した生物。虫唾が走る、気味が悪い、キモイ、グロテスク、鳥肌立つエトセトラ……気持ち悪いの類義語を並べても足りません。生理的以上に生物学的に無理。
私は声すら出せません。想像を超える恐怖や不快感に直面すると声も出ないらしいですが、今がその状態です。逆に落ち着いているまであります。
ジリジリと寄ってくる魔物は「大人しく食べられろ。撃つと襲うぞ」と、生物学的嫌悪を感じる目で訴えているっぽい。動けば襲われ静止すれば喰われ、どっちにしろ詰みじゃないですかヤダー!!
絶対絶命のピンチと誰もが確信していた、その時です。
「やっぱりいましたか化け物め! コイツを喰らいな!」
ダンジョンの雰囲気とは正反対な明るく陽気な声が響きました。声の方へ向くと、そこにはマシンガンのような武器を構えた白いロングヘアの女性が。薄暗い中で銃口と深紅の瞳がキラリと輝きます。
「錬金術師を舐めんじゃねぇですよ」
物騒な口上を嬉々とした表情で延べ、錬金術師と名乗るその人は一斉に銃を乱射しました。
中心にいる私達を上手いこと避けながら、超高速の一斉掃射で魔物は隙も無くバタバタ倒れていきます。私達はただしゃがみ込んで恐怖に怯えるしかありませんでした。
魔物ではなく真っ白な錬金術師 (?)に。
「ふう、もう大丈夫ですよ。下衆な魔物は死体の山としてあげましオロロロロロ…………ッ!」
一斉掃射が終わって顔を上げると、辺り一面に魔物の死体の山と血の海が出来上がっていました。そして苦しそうに吐き続ける錬金術師さん。
そんな有様を一目見るや、サンバーさんは泡を吹いて失神してしまいました。私も危うく失神しかけましたが、フーリエちゃんのかわいい金髪とオッドアイの目を見てこらえます。
一方フーリエちゃんと顔が真っ青な錬金術師さんは互いをじっと見つめ合っていました。目尻がピクつくフーリエちゃんと真顔の錬金術師さん。なにこれお見合い?
すると、錬金術師さんの深紅の瞳が再びキラリと輝きました。瞬間、目を疑う速さでフーリエちゃんを抱きめたのです!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんという愛らしさかわいらしさ!! さらさら金髪に色違いの目、そしてその容姿を見るに魔法使いですね!? 最高です! わたしが求めていたもの全てが内包されています!! 背が小さいのも良き良き!! やわらかい、もふもふ!!」
「うわぁ!? いきなり何だこいつ!? やめろ離せ苦しっ……くっさい!! 口洗え口を!!」
「そ、それ以上フーリエちゃんに手を出させませんよ!」
悪いですが錬金術師さんには魔力弾を喰らわせ、その隙にフーリエちゃんから引き離しました。
「汚ったないよ全く!!」
「がばばばばばばばばばばばば」
そして追撃とばかりに口に水をガボガボ入れられる錬金術師さん。
本当に一体なんなんだこの人は………………!?




