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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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話は聞かせてもらいました!私たちは盗聴されている!

「フーリエちゃん! フーリエちゃん! 起きてください!」

「んあぁぁ……今何時……?」

「一大事です! ルーテシアさんがヒュースベルを殺しました!」

「ん、予定通り……おやすみ」

「もう昼ですが!?」



 今日も曇り空のスタンレーの昼に号外が飛び交いました。紙面上には『静寂従順な死神の予告が成された』との文字が走ります。

 一方で不可解な点があります。犯行予告が出された日からヒュースベル宅には屋外、屋内共に厳重な警備が張られ寝室にまで交代で見張りがいたのに関わらず、寝室のベッドで泡を吹いてなくなったのです。

 そのため一部ではヒュースベル本人の自殺と主張され、過激派では見張りが殺したとして抗議活動に発展しています。



「どうやって殺されたのかによって今後また動き方が変わるんじゃないですか」

「寝室にも見張りがいたなら本当の自殺か見張りが殺したかじゃないの。死神ことルーテシアは魔法使いではないし」



 フーリエちゃんは布団にガサゴソと潜り込みながら寝起きのか細い声で言いました。フーリエちゃんには珍しい安直な推理です。



「とりあえず起きてください。何事があろうとなかろうと、昼食の時間になってしまいますから」

「リラだって人のこと言えないくせに……」



 ぶつくさ言いながらカタツムリのように這い出るフーリエちゃん。こんな姿で元貴族だと言って、一体誰が信じるのか。

 厳しい礼法やしきたりからの反動とは本人の弁ですが、割と素の姿なのではと疑ってしまうのは私だけでしょうか。


 階下に降りたフーリエちゃんは朝食兼昼食としてトーストとコーンスープを食べながら、傍らで今日の新聞を覗きます。

 たまに貴族らしい気品を感じる場面がありますが、今のフーリエちゃんは完全に昭和のお父さんです。ちょっと解釈違いからの厄介オタクになりそう。



「うん、やっぱりルーテシアの犯行では無さそうだよ。家の周囲に8人、屋根の上にも2人いて、更に室内の各部屋に1人づつ警備がいる。こんな状況下で忍び込むのは私でも無理」

「ならどうして彼は亡くなったんですか」

「毒薬でも服用したんでしょ」

「でも自殺しないように服用薬や包丁やロープに至るまで徹底的に管理されていたそうですが」

「常服薬のなかに毒薬を忍び込ませたんでしょ。そもそも依頼を出したということは、事前にルーテシアと接触してるはず。告知も出したんだから警備が厳重になるのは必然。予め本人による自殺ができるようにも手段を残したと。さて市民の反応は如何に」



 フーリエちゃんはまるで他人事のように言葉を並べてトーストをコーンスープに浸しました。じゅわっと美味しそうな音が鼓膜を震わせます。



「夕刊まで待つつもりなら、いっそ1番街まで確かめに行きませんか」



 愛銃のメンテナンスをしていたエリシアさんがそう提案しました。ですがそこは面倒くさがりのフーリエちゃん、首を速攻で横に振ります。



「クラウンロイツ家と間接的に関係性があるんだから、1番街まで出向くのはリスクが高い」

「じゃ変装していきましょうよ」

「ならエリシアはお留守番だね。髪色が一番目立つ」

「ぐぬぅ……」

「夕刊待てばいいだけの話。わざわざ見に行く必要はない」



 と、その時でした。両目を隠すほどの長い藍色の髪と、頭から生えた小さな獣耳の人物が玄関とは反対側からやってきました。無表情ですが悲哀の類の感情は感じられません。

 私達が口を開く前に彼女の方から言葉を発しました。最初から私達の会話を聞いていたのか、先ほど話していた内容の答えを彼女は出してきました。



「ヒュースベルは自分で死んだ。ボクが手を下す前に。だが本来は、自分の握った刃で自らの命を貫くのが望ましい」

「反応はどう?」



 フーリエちゃんが簡潔に尋ねます。



「行き過ぎた警備体制が苦痛となって自殺したとの見方が大半だ。ボクが関わったと主張する人間はほとんどいない。そしてそれは事実だ。だからセンチュリー家の評判はまた下がる」

「それでも尚、センチュリー家は荒唐無稽と言い張るだろうね。小さな歪みが大きな揺らぎとなり、小さな火種が大きな炎に、小さなヒビが大きな亀裂に……向こう(コルテ)も同じ。所詮は似た者同士か」

「ボクは違うと思う。コルテは差別をしない」

「何が正しいのかは勝者によって決まる。常に意見は対立し、争い、打ち負かした方がその時代の“正しさ”となる。こと思想や哲学に関しては、単純な力では勝利を掴めない。共感し賛同された数が結果になる。最後に是非を決めるのは私達じゃない」

「そうかもな……」



 彼女は現場の方角へと遠い視線を向けました。

 よく見れば瞳孔が少し縦長で先端を覗かせる鋭い牙など、細かな部分では獣の構造なのが、ケモ耳と尻尾が飾りではないことを主張しています。

 今まで獣人とはいえ耳と尻尾以外の見た目は人間と一緒で、その先入観からよくあるケモ耳っ子くらいにしか思っていませんでした。

 彼女の銃と対峙した時でさえ気が付かなかったのですから、先入観がいかに強い影響を及ぼすか実感しました。


 と、またも情報屋が扉を勢いよく開け放って入ってきました。もう扉のHPは赤ゲージでしょう。



「クラウンロイツがセンチュリーに直接あぁたこうだしてんだと! 支配権の譲渡を提案してっとこだってまよ、てルーテシアいたんがい!」

「騒がしいな全く。白い錬金術師と同じくらいに大袈裟で騒がしい」

「なんか飛び火した気がするんですが」

「大袈裟じゃね本当のことだべした」

「その直談判はクラウンロイツから持ちかけたの?」

「んだ。してその場にあね様らもいるんだと!」



 フーリエちゃんはティーカップを口元で止め眉をひそめました。



「どうして? そういうの普通は当主のみで場が設けられるよね。ポヴェアル伯爵はまだ後継を2人に譲るほどに年老いてないし」

「それ以上のこどは……」

「ルーテシア、君が匿われたのは殺め始めて何人目くらいだった?」



 傍から聞かなくても物騒な会話です。後にも先にも聞くことはないでしょう。



「4か5人目。二つ名が付き始めた頃」

「その頃からそのつもりだった……? ルーテシアの殺人動機に便乗して……」

「あね様らがルーテシアを匿ったのも上様からの指示だってこどかい?」

「そうかもね。ルーテシアの思想を最大の武器としてセンチュリー家から主権を奪う。少し過激な方が衝撃的で印象的で人も動かせやすいし。私達の行動がよりクラウンロイツ家を有利に動かしてる」

「その説は十分にありそうですよ」



 突然、あらぬ方向からエリシアさんの声が飛んできました。てっきり頭を蒸発させていると思い込んでいましたが、エリシアさんはキャビネットの下にある飾りを剥がしていました。

 覗いてみると前面に網状になっていて、スピーカーのようなマイクのような丸い物体が出てきました。引っ張り出すと更にケーブルがどこかへ伸びています。



「まさか盗聴器?」

「みたいだね。どこに繋がっているか調べよう」



 フーリエちゃんが盗聴器に魔力を流すとケーブルを伝って外へ魔力が流れていきました。本当に番能ですね魔法って。



「さっきの話の流れからすれば、盗聴器は店主姉妹が仕掛けたんじゃないですか? そうすれば辻褄が合います」

「……だと良いんだけどね」



 その一言で空気が一瞬にして張り詰めて時が止まりました。きっと誰しもが同じ予感を浮かべたでしょう。

 予感が逡巡して再び時が動いて、その予感は現実のものとなったのです。



「分岐が噛まされてセンチュリー家に盗聴されている」

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