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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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向けられる疑惑の目

『望まぬ死があるなら 望まぬ生もある

 苦痛の死があるなら 苦痛の生もある

 哀しみの死があるなら 哀しみの生もある

 生が地獄なら せめて楽な最期を

 変わらぬなら、己が旗手になり、救済とし殺めよう

 ――ヒュースベルに救済を』



 そんな静寂従順な死神の犯行声明と共に、衝撃的な見出しが新聞の一面を飾った日、多くの人々が【クラウンの掲示板】に押し寄せました。

 当然です。国を支配する貴族のひとつであるクラウンロイツ家が連続殺人犯に加担しているとなれば、こちらにも疑いの目が向けられます。しかも死神の声明と共にですから。

 暴動にまで発展しなかったことが不幸中の幸いでしょう。



「どういうことだ! 殺人鬼との関係となんなんだ!」

「擁護して隠してたの!? 」

「この国はどうなってしまうんだ!」

「落ち着いて落ち着いてください。耳はひとりにふたつしか無いんですから」

「フーリエちゃんどう説明すれば……っ!?」



 助けを求めてもフーリエちゃんはのんびり紅茶を淹れるのみ。この場で最も出番に相応しい人物が前に立たないと収拾がつかないというのに……

 本当に厄介なことになりました。本来ならセンチュリー家とクラウンロイツ家への不信の件と、静寂従順な死神の件は()()()()だけで交差する予定ではありませんでした。店主姉妹と静寂従順な死神の関係性は秘密のまま計画は終わるはずだったのです。

 ですが今朝の報道によってその秘密が暴かれてしまったのです。あくまでも疑惑とどまりで憶測しか書かかれていませんが、メディアの影響はどの時代でも推して知るべし。聞くところによれば1番街には既に大衆が押し寄せているとも。

『センチュリー家が動揺する程度』の騒ぎは、私達の手の届かない場所で、血が流れかねない事態へと膨らんでしまったのです。



「お前らも共犯なのか!」

「頼りにしてたのに! 裏切者!」

「お前らが殺されればいいんだ! この嘘つき犯罪者悪党!」

 「怖いわ〜殺人鬼よ〜!」



 人々の声はヒートアップ。ついには罵詈雑言まで飛び始めるまでになってしまいました。

 エリシアさんも我慢の限界が近いのか腕が震えています。これまでしてもなお、お気楽でいるフーリエちゃんにさすがの私も痺れを切らしました。



「フーリエちゃんもう限界です! 今の最高責任者は貴女なんですよ!」

「分かってるよ。この先を考えてるところだったのに……はぁ」



 嫌々ではありますが、ようやく立ち上がって人々の前へ姿を表しました。

 普段より帽子を目深に被り姿勢を正せば、水を打ったように静まりました。些細な仕草だけで人心を掌握してしまう。つくづくフーリエちゃんが味方で良かったと思います。



「私から結論を申し上げる。フィルトネ・クラウンロイツとメフィルト・クラウンロイツは静寂従順な死神の協力者だ。生と死の権利の保証という死神の主張と店主姉妹の利害が一致した結果だ」



 フーリエちゃんの発言に私は吃驚の声をあげました。予定外で予想外の言葉に、この場にいるフーリエちゃん以外の全員が狼狽しました。

 それでもフーリエちゃんは挟む口を与えず、淡々と人々に言葉を向けます。



「死神は言った。生の自由があるなら、対極の死の自由も存在すべきだと。

 けれど実際はどうだ。食べる事すら困難な環境が放置されている中で、生の自由など現実には存在しない。獣人に至っては職業と住居の自由も無い。

 ならばせめて、苦しみもがき喘ぐ生から解放される死について自由を保証すべき、とね

 死神は一般市民。センチュリー家とクラウンロイツ家による事実上の独裁の中で、支配貴族の一部が一般市民の声を拾い上げて枯れないように守った。そうは思わない? 新聞を読んでここに来た人なら、静寂従順な死神の被害者の背景は知ってることでしょ?」



 フーリエちゃんの問い掛けに人々は当惑の表情を浮かべながら、互いに顔を合わせます。どうやら私達以外にも、死神の被害者の抱える背景に思う部分がある人達がいたようです。

 ですがもちろん激しく反論する声もあります。生殺与奪の権利を他人に握らせるな、残される人のことを考えていない、自然秩序への冒涜だ、など……

 しかしそれらの意見も、いや、賛成派も反対派も一捻りするようにフーリエちゃんは次の言葉を綴りました。



「じゃあ質問しよう。店主姉妹に対して、クラウンロイツという名前を意識せずに接した人はいる? 同じ一般市民として上にも下にも見ずに対等に関わってきた人は?」



 誰も手を上げません。

 ただ固唾を飲んでフーリエちゃんの方へ視線を向けるのみ。



「死神の行為が善か悪かが本質ではない。貴族が、家の名前を保持した貴族が一般市民の声に耳を傾けた事が、今回の一連の騒動における本質。

 そして何より、彼女らは、一般市民が支配貴族に反旗を翻す機会を与えたんだ。

 貴族の犯罪への加担。犯人の提唱する社会的課題と新たな思想。これらが交わった時――社会は国は大きな変革を迎える。溜まり積もり燻った不満が吹き出す」



 ふとフーリエちゃんが集まった集団の後方に視線を向けました。その先には上層方面へと駆けていく少なくない人数の人々。

 再び視線を元に戻すと微笑を浮かべて言い放ちました。



「不満とか意見があるならこの際にぶつけると良いよ。我々に与えられた権利だよ」

「あ、あんたは、死神のことも、クラウンロイツのことも知っていたのか」

「確証と証拠を得られたのは店主姉妹が連れ出されてから。だから私達がその部分に関して非難される筋合いは無いよね?」



 フーリエちゃんは肩をすくめました。

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