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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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取材されるのは何気に初めてかもしれません

 「初めまして。今日はお忙しい中、お時間を頂きましてありがとうございます。記者のオートカーと申します」



 名刺を渡された瞬間、フーリエちゃんの眉が吊り上がりました。以前話していた社交界でも名前が挙がるほどの有名記者が私達の元へ訪れたのです。

 今日は新聞の取材日。私達が住み込みで働くようになった便利屋【クラウンの掲示板】その店主姉妹をいるべき場所へ連れ戻す作戦。その第一幕が開けます。



 「それではインタビューを始めさせて頂きたいと思ます。宜しくお願い致します」



 記者はメモ帳を片手に、テーブルを挟んだ向かい側に座りました。



「単刀直入にお聞きします。フィルトネさんとメフィルトさんは店を畳まれたのですか?」

「あくまで休業という認識でいる。その姉妹は突然、捜査局へ引き抜かれた。クラウンロイツ本家からの呼び出しと言っていた。時期が時期だけに静寂従順な死神が関わっているのは間違いない」

「以前から死神について調査をされていたのですか?」

「いいや。関わってなかったらしい。ただ今回については別件の調査から偶然、死神の関与が疑われる事件へと発展してしまった」

「居住区35番街での事件ですか?」

「そう」



 フーリエちゃんは淡々と回答していきます。こなれた様子で淀みなく言葉が出てくるのは流石。私はその場にいるだけでガチガチに緊張しているというのに……

 私達は【クラウンの掲示板】に雇われた身。

 クラウンロイツ本家に戻され、店主姉妹が戻ってこない状況では旅を続けることができません。店主を失った便利屋も行き場を失った状態。

 スタンレーを支配するセンチュリー家の側近という権力には簡単に干渉することができません。そこでメディアという存在を利用して世論に働きかける策に出ることにしたのす。

 丁度、新聞ではセンチュリー家とクラウンロイツ家による支配へ不安と不満が取り沙汰されていたので、それらと絡めて両家に揺さぶりをかけて隙を突く作戦です。



「【クラウンの掲示板】についてクラウンロイツ家当主は無関係であり、干渉はしないと述べていました。今になってお二人を指名した理由についてご存知ですか?」

「明確には分からない。店主姉妹が言っていたのは意味深な言葉だけだった」

「それはどのような言葉ですか」

「放し飼いの狼からの引用だった。貴族はどれだけ離れようと、その家の名前と地位に縛られるとね。まるで初めからこうなることを予見していたようだった」

「では便利屋もいづれは畳む予定だったのでしょうか」

「あくまでスタンレー国内で営業をするって意味じゃないかな。今回のような事態になってもすぐに本来の場所へ戻れるように。何にせよ彼女らの意図と本家の意図は想像する他ない。なにせ彼女らに雇われた身内であるのに、この店の鍵を渡すことすら許されなかった。裏があるのは間違いないねぇ……色々ときな臭いし」



 あくまで死神については白を切ります。私達の計画は彼女とも連動していますし、店主姉妹と深く繋がりがある以上、ここで明かしてしまったら私達まで責任が及びかねません。

 フーリエちゃんは真実のみを語ると言っていました。しかし()()()()()とは言っていません。

 記者の反応は上々で、大スクープの予感に期待を寄せているのが、手帳に走らせるペンの速度から容易に想像がつきます。



「最近のクラウンロイツ家の動向について話されていたことは?」

「私の知る限りは無いかな。2人はどう?」



 フーリエちゃんが私とエリシアさんの方へ顔を向けます。



「いえ、私は何も」

「リラさんと同じくです」



 記者は鼻息を漏らしました。感情が態度に出やすいタイプのようです。

 フーリエちゃんも今回は感情を少し大袈裟に表現しています。いつもの飄々さを保ちつつ、身振り手振りを交えて語ります

 人によって態度は変わるものですが、フーリエちゃんの場合はイメージ操作のように思えます。傍で受け答えを見ていると、ぐうたらな印象が掠れていく錯覚に陥るほどです。


「センチュリー家との統合、こちらについての関係もないのでしょうか?」

「聞いていないね」

「聞こうとは思わなかったのですか?」



 記者はペンを止め、疑心を浮かべた顔を上げました。確かにフーリエちゃんの態度は一般人の貴族に対しての態度とは違います。

 非常に鈍感か、肝が座っているか、あるいは特別な立場にいる人間に映るでしょう。実際、特別な立場にいるのですが。



「私達はあくまで雇われの身。そして店主姉妹も特殊な立場にいる。あまり根掘り葉掘り聞くものでもないと思って」

「私から見るとフーリエさんらも特殊な立場にいると思います。ただの雇われ人なら店の保守を任せないと思うのですが」

「私達は旅人。旅人に必要なのは資金と快適な寝床。この国ではここ以外にはそれらを得られる場所は無い。こちらとしても保守したい物件なの」



 記者は止めていたペンを再び走らせます。

 走らせながら思案顔を強め、次の質問を考える素振りを見せます。



「……では皆さんは今後どうされるおつもりですか?」

「店主が戻って来るように行動を起こすつもりだよ。自ら立ち上げた事業なんだから最後は自分の手で店仕舞いするべき。本家にも店主姉妹に許可を与えた責任がある。これらの意見がクラウンロイツ家と捜査局に声が届かせる必要がある。説明無しに振り回されぱなしでは嫌になるよ」

「具体的には?」

「それがこの取材だよ。貴方は社交界でも名前が挙がる記者と聞いている。貴方が書いたこの取材記事が出回ればクラウンロイツ家も目を通すはず。紙面に述べられた私の言葉を見て、クラウンロイツ家が良い反応を返してくれるのを望む」

「では最後に一言お願いします」



 フーリエちゃんは居住まいを正し、カメラの向こう側に語り掛けるような目で記者を見つめ、口を開きました。



「【クラウンの掲示板】は人々から信頼を得ている。それ故に失踪に近い形で店主が戻されたことに、私達も含め多くの人々が不安に感じているし困惑している。せめて事情説明をしてほしいと思う」

 「では取材は以上になります。お忙しいところありがとうございました」

「誠意ある記事になることを願っているよ」



 記者が一礼し店を後にするのと同時に、一気に緊張の糸が切れて力が抜けます。横たわればソファのふかふかの感触が、憂目からの解放を実感させてくれます。



「だぁぁ〜疲れましたぁ緊張したぁ〜」

「リラは何もしてないでしょ。私が全部やったんだから感謝してほしいな」

「フーリエちゃんしゅきぃ!」

「抱きつく位に同情するなら食べ物とか魔導書くれ」



 あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛ジト目最高!



「とりあえず私達が今できることはもう終わってしまった。今後はルーテシアの動きと世間の反応次第。今日には行動を起こすと言っていたけど」



 フーリエちゃんの予想通り、翌日に静寂従順な死神は挑発とも取れる大胆な行動に出ました。

 それは新聞の一面を飾り、そして今回のインタビューも同時に新聞に掲載され、結果として出された見出しは――


『クラウンロイツ家と静寂従順な死神の関係。裏で共謀疑惑』

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