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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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獣人

 情報屋が去って夕食の準備に取り掛かっていると、奥から藍色の髪の毛が顔を覗かせました。その人物は神経質に釣り上げた目を前髪の奥で光らせていました。――頭から生えた小さな獣耳を動かしながら。



「その耳は、獣人の」

「獣の血が混じった人間。その特徴である耳と尻尾を帽子とマントで隠していたってことか」

「最初に言っておきたい。騙すつもりは、無かった」




 全員が目を丸くして彼女の耳へ視線を向けました。トラのような形をした小さな耳を小刻みに動かし、その動きは彼女の警戒心と同期しているようです。



「騙されたとは思ってないよ。話は食べながら聞こう。ルーテシアの分もあるよね?」

「一応あります」



 今日のメインメニューはラタトゥイユ。私もネズミのシェフが主人公のアニメ映画で見たことがあります。

 人間というのは本能に逆らえないもので、料理を食卓に並べると、つい数十秒前に湧いた大きな揺さぶりですら食欲に丸め込まれてしまうのです。



「エリシアって意外と料理上手いね」

「エリシア、なのか。意外と美味しい」

「意外とはなんですか。ってかあなたは殺し屋でしょうに良くそんな物言いを……」

「とりあえず、なぜ獣人なのを隠していたのか教えてほしい。まぁ想像は付くけど」

「……お前らも知っているだろう。この国で獣人の締め出しが始まっていることを」

「あったあった。『圧政が加速するか。獣人への規制強化を検討開始』って記事があったね」



 フーリエちゃんは新聞の山からすっと取り出して、当該の記事を指し示しました。そういえば店主姉妹が連れていかれた日にそんな記事を見た気がします。当時はそれどころではなく目を通す余裕はありませんでしたが。

 今まで存在していた獣人への職業選択、結婚、居住地の制限を更に厳しくすることで治安の向上を図る狙いがあるそうですが、誰から見ても差別でしかないのは明らか。

 初対面で見せた銃を付きつけるほどの警戒心も今なら納得できます。彼女は貧困の生活に加えて差別にも苦しんできたのです。テーブルの上で握られた震える拳から彼女の心情が痛いほど伝わってきます。



「この国は腐敗し始めている。ただ金と労働力を巻き上げることしか考えていない。上空を覆う煙と水蒸気は、人々の嘆きの成れの果てだ。ずっと漂って影を落とし続けている」

「それにしてもなぜセンチュリー家はここまで圧政をするのですかフーリエちゃん」

「確かそこも今朝の新聞に載っていたはず」



 新聞の山のてっぺんから今日付けの新聞を取りました。広げるとフーリエちゃんの小さな体は新聞の後ろにすっぽりと隠れてしまいます。かわいいなぁ愛らしいなぁ。



「コルテが獣人への支援に乗り出したらしい。それに対しての対抗心だろうね。前に言った通りコルテとスタンレーはその成り立ち故に敵対関係になるし、今のセンチュリー家当主もコルテへは否定的。向こうが魔法なら此方は産業を、向こうが人なら此方は技術をってことだろう。その証拠もある」



 コルタヌ六芒星の秘書官が発表したコメントの中に『豊かな産業と技術は人々の幸福の元に育まれる。煙に巻かれては未来は見えない』と明らかにスタンレーを意識したコメントがありました。

 一方でスタンレー側も規制強化に対して『差別ではなく必要な区別だ。古きに巻かれては未来は見通せない』と反発。衝突が起きていないのが少し不思議になるほどの対抗姿勢です。



「要するに私達は運が悪かった。市民の不満が溜まり溜まった時期に来てしまって、貴族が営む店で居候することになって、殺人事件に巻き込まれて…………私もこんなになるとは予想だにしてなかった」

「すいません、私が箒をぶつけてしまったがために…………」

「もう過ぎたことだよ。今は目の前の問題を早期に片付けるのが最優先。ルーテシア。君は君の意思で動けばいい。君の思想が受け入れられるか否かは君の行動でしか判定できないからね。こちらは君の行動を利用させてもらって店主姉妹を引きずり出す」

「なら、明日からやる。時間は無い」



 彼女がうなづいたのを認めると、フーリエちゃんは目の前の料理を小さな口にかき込みます。

 私も、魚の小骨のように刺さる不安を飲み込んで明日へ備えたのでした。

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