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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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本家情報屋を手駒にするフーリエちゃんって一体…………

 夕食を食べ終えた夜の初め頃。入口のベルを鳴らす人物が現れました。開けてみると、その人物は意外にも情報屋でした。



おばんですぅ(こんばんは)。ルーテシアはいっがい? いなくたっても、わがさ(あなた)にも用あるんだっぺけど」

「ルーテシアはいないよ。それで要件は?」

「わがさら、何か企んでねのか。お上様を脅すつもりか?」



 情報屋は少し青ざめた様子でフーリエちゃんに詰め寄りました。焦り方も幼少期の記憶の中にある祖母にそっくりです。でも年齢は私達とそう変わらない。もしや合法ロリってやつですか??

 フーリエちゃんは、自分が座っている椅子のひじ掛けに両手を付くほど焦燥を見せる情報屋相手に、手のひらを振りながら沈着冷静に応えます。余裕綽々という言葉がこれほど似合う人間はいないでしょう。かわいい



「揺さぶりをかけるだけさ。脅迫の域に達してしまうのはよろしくない。私はこの店にいるべき人物が戻ってくれば良いの。その為に必要な扇動をするまでさ。わざわざ焦ってまで来てるってことはルーテシアがリラの命を狙ったことも知っているんでしょ? 向こうも彼女をダシにしてるなら、こっちもダシに使わせてもらうよ」

「センチュリー家が何しでかすか分かったもんでね。ずうっと強引にやってコルテは嫌いだっちっておっかね(怖い)ことばっかだっぺな」

「まぁどんな手段を用いて抑えてくるか確証はない。ただ、その敵対視してるコルテであんな事件が発生した以上は対話の場を設けてくれるか、武力に頼らない柔軟な対応をしてくれると思うけど」

「なして、そだこと言えんの」

「知ってるからね」

「もしや、もしかして」



 情報屋が生唾は飲みました。畏怖にも似た懐疑の目。フーリエちゃんの正体となる貴族の名前が、情報屋のデータベース上に存在したのか。ただ普通に考えても、常人ではないのは誰の目からしても明らかです。普通の旅人の範疇に収まる人物ではありません。



「ご想像にお任せしてもらうと助かるよ。ただ、私が欲しい情報の対価として欲しいなら少しは考える」

「いや、いい。おめさんは敵に回したぐねから。それにおらだって、ここの店主とは深い付き合いだ。引き戻してくれるっつなら、なんぼでも協力するべさ。情報屋は人付き合いの商売だっぺ」

「ありがとう。けどもしも新聞にルーテシアの正体や店主姉妹との関係をすっぱ抜かれた場合は、私は関係者として素直にその事実を認める。個人的な感情として嘘はつきたくないからね」

「それもあっぺけど、大丈夫なんだっぺか。色々と……」

「その場合はルーテシアの主張が全面的に受け入れられるのを祈るしかない。大丈夫だとは思うけど」

なしてそだに(どうしてそう)思うんだ」



 怪訝な顔を浮かべる情報屋に対し、フーリエちゃんはやっぱり飄々とした様子で答えます。

 しかし単に楽観的ではなく、むしろその逆であるのがフーリエちゃんの思考の捉えづらさに拍車を掛けるのです。



「妹のメフィ、呼び戻されて素直にはいと答えると性格だと思う? 積極的で俗世的。そしてルーテシアはメフィに最も懐いている。向こうも大人しくはしてないはず」

「……一理ある。でなかったら店は畳んでるべしな」



 フーリエちゃんも情報屋も、互いの認識が一致したのを確認するように視線を交えます。

 情報を制する者は戦を制すると言いますが、それ以上にフーリエちゃんの人心掌握に平伏するばかり。本人が語るように、社交界で培われた洞察力は並大抵ではありません。情報屋すら出し抜く手腕は私から見ればチート級です。



「ホンモノの情報屋を手駒にしてしまうフーリエさんって本当に何者なんですか」

「伯爵レベルの大貴族だったり? エリシアさんはどこかの貴族が失踪した噂とか聞いてないんですか」

「いえ全く。失脚なら聞きますけど」

 「「ますます正体が分からない……」」



 エリシアさんとヒソヒソ話をしていると、フーリエちゃんがこちらに体を向けました。思わず背筋が伸びてしまいます。



「要項が決まったから2人にも話そう。情報屋の協力を得られるようになったので、早速彼女には情報収集をしてもらう。センチュリー、クラウンロイツ両家の内部事情をなるべく多くね。それを元に私達も動き方を変える。そして丁度、姉妹が引き揚げた後に取材依頼が来たでしょ? 忙しいから断ってたけど、改めて取材を受けて店主姉妹の現状を伝えよう」

「あ、そうか。姉妹が急に本家からの命令で連れていかれたと伝われば」

「評判を考えれば衝撃的なニュースになるだろうね」



 筋は決まりました。後はルーテシアさんの動向次第。彼女は既に動いているのでしょうか。ふと窓を見れば外は雨でした。

 無意識の集団心理か、しばらく雨音観賞会が続きました。そしてまた理由もなく、情報屋はよっこらしょと重い腰を上げるように立ち上がって店を去りました。些細な行動ひとつひとつに、いちいち理由なんて無いんです。

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