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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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死の自由

 初めて足を踏み入れた時のように子供の声は聞こえてきません。しかしその先に殺気立てた彼女がいると第六感は訴えてきます。

 黄土色の地面を踏み進める音を反響させながら、あの四角く切り取られた空間に辿り着きました。古い丸型蛍光灯の光のようにぼんやりした陽光が降り注ぐ中で、ルーテシアは古びたリボルバー式の銃を前に突き出しながら待ち構えていました。



「…………お前らを監視していた。理解者、だと思っていたんだがな」



 一発、空に向かって銃声が響きました。見た目の年相応に重く沈む声色。目に掛かるほど長い藍色の髪の奥には光を失った瞳が見え隠れします。



「別に君を牢屋に入れようってつもりじゃない。フィルトネとメフィルトの居場所を教えて。店の鍵を返して一連の事件から身を引く」

「ボクはそこのメガネに聞いている。お前じゃない。どうして口外した。さあ、答えろ」



 彼女は視線を少しだけ動かして私へ合わせました。

 下手な返答をすれば今度こそ殺される。銃口がこちらに向いている。体が震える。逃げたい、逃げてもいい状況。なのに心の底では正反対に逃げるな、と叫んでいる。

 何故? 分からない。でも逃げたら……後悔しそうな予感がしたのです。何に? それすら分からないまま、それでも声を出そうと必死で声帯を震わせました。



「だ、だって、悪いこと、ではないじゃないですか。良いこと、なのに。それなのに、疑われてます、死神だと。でも、子供に勉強を教えてるのに、そうだとは、思えなくて。疑いを晴らしたくて……」

「…………ふっ、残念ながらキミの思うような聖人じゃない。大方、そこの小さい魔法使いが思い浮かべてる通り、ボクが死神だ。静寂従順な死神だ」



 驚愕する隙も無く彼女は銃弾を発射。しかしすぐにフーリエちゃんに弾かれてしまいました。まるで西部劇の早撃ちガンマンのような杖さばきで。

 フーリエちゃんも質量を乗せたかのような圧を帯びさせた声色で返します。


「まぁまぁ落ち着いて。銃を突きつけられては話もできない。端的に言うよ。便利屋の姉妹は身柄を拘束されてるか、それに近しい状態にあるんでしょ? 君を差し出さねば処罰を受ける」

「そうだ。だからお前らはボクを拘束しに来たんだろう!?」



 また銃を撃ちますが同じようにフーリエちゃんに弾かれます。フーリエちゃんの余裕綽々な表情とは対象にルーテシアは声を荒げ、焦燥と苦心に満ちています。口数が少なく無情だった彼女が、初めて感情を激しく露わにしました。



「ボクを助けたらフィルもメフィも死ぬ! しょせんお前らは凝り固まった正義を振り回すだけなんだろう!」

「死ぬ……!?」

「想像以上の権力行使に出たか。それでは人質じゃないか」



 フーリエちゃんが苦渋の表情を浮かべました。いつも余裕綽々なフーリエちゃんが追い込まれるのは初めてです。頭の中で歯車が高速回転しているのが私にも透けて見えます。



「ねぇ、聞かせてくれないかな。君が人を殺めるようになった理由を。あの2人が擁護しているってことは、何か理由があるんでしょ?」



 フーリエちゃんが諭すように声を向けてもルーテシアは表情も体勢も変えないまま。歯を食いしばって疑心と敵対心と銃口をこちらに向けるのみです。

 一体、目の前の少女の過去に何があったのか。どんな考えの元で自殺幇助の行為に走るのか。できるなら全てを知って彼女と対等に話がしたい、そう思いました。


 暫くの間、時が止まったかのように沈黙が流れました。お互いにぴくりとも動かず、まるで我慢比べ。まばたきすら忘れて相手の口が開くのを待ちました。

 風が幾度か吹き流れて、ようやくルーテシアが重い口を開きました。堪忍したかのように構えたリボルバーも下げました。



「……ボクはこの世での生を諦めた人の手助けをしているだけ。でもそれをお前らは殺人と言って罪にする。唯一理解してくれたのは、あのふたりだけだった。ふたり以外は誰もボクの主張に耳を傾けないか、鼻で笑うか、激しく反論されるか。それに、ボクには前世の記憶がある。その世界では、死の自由が与えられていた」

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