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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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ルーテシアさんは何者?

 開店前のレストラン。すりガラスの向こう側で人影が忙しなく動いています。しかし一度ノックをすればその人影は素早く方向転換をして扉を勢いよく開けました。



「聞いだよ。クラウンロイツの姉さまらが店を畳んだっで」

「あ、えっと、臨時休業、です」

「お上様からの呼び出しっちゃ、なんがあんでねの」

「それを聞きに……」

「ま、とにかくあがってあがって。わがに聞きてことあっだんだ」



 情報屋は訛りが強すぎて発音が曖昧で知らない方言が出てくる。おまけに雪崩のように早口。しかしこれでもまだ序の口。なのです。頭の歯車を一生懸命にかみ合わせてフルスピードで回して理解に努めます。それでも誰か通訳いませんかー!!

 そんな私の心の声など向こうには届いているわけもなく。キッチンで仕込みをしながら彼女は訛りに訛った言葉を浴びせてきます



「で、姉さまらがお上様に呼ばれたワケはあんのか?」

「何も、知らないんです……」

「例の殺し屋が絡まってのは間違いねけど、そんであのルーテシアってめっこ()。匿ったらしけども、何かおがしよ。どんなことしでかすか分がんね」

「えっと、ルーテシアさんが怪しい、んですか?」

「んだんだ」



 既に発火寸前まで熱を持った歯車を、それでも無理やり回転させてどうにか彼女の言葉を翻訳していきます。

 そこへ今までぽっかり口を開けたままだったエリシアさんが口を挟みました。ここまで呆気に取られているエリシアさんも初めてです。



「あの、失礼ですが、もっと普通の言葉で話してもらえます?」



 その前置きをして本当に失礼な言葉を出す人初めて見た。



「そだことねぇ。わが(あなた)らと同じ言葉でくっちゃべってる(喋っている)べ。訛りはあっけども、元は同じ言語だばい。そう変わってねよ」



 幸いなことに情報屋は顔色ひとつ変えずに言葉を返しました。その言葉もまたお年寄りが言いそうなセリフですが、見た目は少女と言って差支え無いんですよね……私は見た目ロリの500歳とか実年齢3000歳以上のお姉さんキャラとか見慣れてるので変に思わないですが。



「でも私、ルーテシアさんは悪い人ではないと思います」

「なして」

「えっと、それは……子供に良くしてる姿を見たことがあるからです」



 ルーテシアさんが学校に通えない子供達に勉強を教えていることは、本人から強く口止めされています。子供に声を与えるために勉強を教えていると言いますが、洗脳教育のようでもないし、なぜ隠すのかが分かりません。

 クラウンロイツ姉妹は知っていることから、2人も情報屋には口にしていない。なぜただの教育をトップシークレット扱いするのか……何も悪いことではないはずなのに。とはいえ口外したら殺すと脅迫されてしまっている以上、私もそれを伝えることはできません。



やろこ(男の子)めろこ(女の子)には良くって裏でわりことして嘘こぐ輩はなんぼでもいっぺ。わり人でもなぐだって、裏があんのは間違いね。お上様に弱みか秘密を握られてねんべな」

「弱み、ですか」

「憶測でしかねけどない。ルーテシアとはいっぺんも顔合わせたことね。出てきたのも最近だ、ちょうど、例の死神様が出た頃だ。姉さまらもなんぼか人殺しに関わったことはあっぺけど、死神様のだけには触れながった。他の人殺しとは根っからちげから手を出さなかったのか、それはわがんね」



 そこまで言うと、彼女は手を止めて顔を上げてにっこりと笑いました。私には恐怖にしか感じまない笑みを。



「んじゃ今日も開店だ。手伝ってくんち」




「「ありがとうございました!!」」

「あり、が……」



 最後のお客さんを見送り、本日の昼営業は終了。永遠のように思える来客の流れを3人でさばき、もう限界超えてぴえん。もう背筋を伸ばす体力は無く、腕枕してカウンターに突っ伏しました。



「いやえがったえがった。今日も大繁盛。ありがとない」と情報屋。

「普段はひとりで回してるってどういうことですか……」とエリシアさん。

「うむっ、ホントそうだね、もぐもぐ…………おいひい」とフーリエちゃん。

 ……フーリエちゃん?



「いつからいたんですか!?」

「ついさっき。ぶっ倒れた魔法使いだって言ったらいっぱい食べてと言われてさ、うまうま」



 相変わらず飄々としているというか縛られないというか。こんな()()をして深い洞察力や圧倒的な魔法の技量を持っているのですから侮れない。そしてかわいい。そしてごくりと飲み込むと、肘を付いて情報屋に問いかけました。



「ねぇ情報屋。ルーテシアの目撃情報も無いの?」

「もっぱらあんのは店の周りだべな。あの店に入り浸ってるのは、みな見てっと思うんだ」

「意外と知られてるんだ。なら確定かな」

「な、何をですか」

「ルーテシアが何者か。その前にまず情報屋に伝えておくことがある」



 情報屋は「おら(わたし)……?」と自分で自分を指差しながら困り眉を見せました。てかしれっとあの訛りを理解できてるフーリエちゃんも何者なんですか。

 そしてフーリエちゃんは体勢も表情も変えずに言い放ちました。



「情報屋。そっちは騙されてる」

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