今頼れるのは情報屋しかいないんです!!
「また【静寂従順な死神】の被害者が出たようだ。今度は両手を事故で失った人物が薬で死亡」
「先日の事件が解決しない中で次の被害者が出てしまいましたね…………」
クラウンロイツ姉妹が朝刊を覗き込みながら難しい表情をしていました。
「ここまで尻尾の先っぽすら出さないとは、もはや亡霊の部類ですね。警備だって増やしているんですよね?」
「エリシアの言う通り、巡回警備員を増員したが、誰もが姿を見ていない。一部の区域では住民が恐れを成して外出を控えるようになってしまった。これでは治安維持活動への疑念や懐疑が募ってしまう」
そこへ破壊する勢いで入口を開けて憲兵が入ってきました。
「急に失礼するぜ。お前らを捜査本部の構成員として編入させろと指示があった。てなワケでよろしくな」
「本当に急すぎるよ。それに捜査本部の構成員にって、どんな風の吹き回し? こっちはこっちの仕事が……」
「親元からの指示だよ」
「…………っ」
親元、とはつまりクラウンロイツ家のことでしょう。センチュリー家の側近として共にスタンレーの国営を担う貴族。
メフィさんとフィルトネさんは苗字の示す通り、そのクラウンロイツ家の出身。権力と地位を捨てて現在の便利屋を営んでいる彼女らに、直々に指示が下るということは、クラウンロイツ本家から姉妹に向けた何らかの意図があるのでしょう。なにせ一度は好きにしろと半ば追放の形で姉妹の主張を飲んだのですから。
「どうする、フィル姉」
「私達は放し飼いの狼ですわ」
「そうか。承諾の意を伝えてくれ。あと従業員も連れていくべきかい?」
「残っていろ。指名されたのはお前らだけだ」
「なら店は任せるしかないね。引継ぎリストを作る時間くらいの余裕はあるよね?」
「ん。場所は捜査局でな」
「分かった」
憲兵が去り、扉がゆっくりと閉まると同時にフィルトネさんは私達へ頭を下げてきました。
「こんなことになってしまい、大変申し訳ありません。わたくしとしても、想定していない事態になってしまいました……」
「ふたりは家を抜け出したんだよね? どうしてまた呼び出されるのさ」
「分かりません。今日の今まで一切の連絡はありませんでした。殺人事件にも麻薬絡みの事件にも幾度か関わっていますが、このようなことは初めてです。先日のフーリエ様の体調不良と死体発見の件が、国家を揺るがす程の事件となってしまったのか……とにかく行ってみないことには何も分かりません。分からないまま、ここをお任せするのは大変心苦しいのですが、どうか宜しくお願い頂けませんか」
「面倒くさいなぁ……」
「申し訳ありません。ただ現在遂行中の依頼で、報酬が170万マイカの依頼がありまして」
「やるか」
うーんこのチョロかわ魔女っ娘め。好きだぞ。
「重ね重ね、どうか宜しくお願い致します」
まるで不祥事でも起こしたかのように、フィルトネさんは罪悪感に満ちた顔を深々と下げました。
私も頭の整理がつきませんが、できるのはクラウンロイツ姉妹の指示に従うこと。主がいなくなった店で私達は残された引継ぎリストの通りに仕事をしました。
店の看板を降ろし、臨時休業のビラを配り、新規依頼への返答、支払いと振込みの管理、そして依頼の完遂。忙しなく動いて落ち着きを取り戻せたのは月が替わってからでした。
変わり映えのしない景色の中でも、しっかりと次の季節に進む準備を始める空気感と太陽の明るさを感じながら、ソファに3人とも身を投げ出して今後を案じていました。
「これからどうすればいいのでしょうか」
「店を鍵を渡して終わりにしたいところだけど、突き返されちゃあね……身内の証拠が無いとダメとか、これだからお役所は。あのふたりも外に出てるとして何処にいるのやら」
「…………あっ」
ふと思い出しました。こんな時にこそ頼るべき人物を。こんな時にこそ真っ先に向かうべき場所を。
「情報屋に行きましょう」
「情報屋って前に行っていた?」
「はい。ただ対価として昼営業の手伝いをさせられますが……」
「うへぇ」
フーリエちゃんが眉を思いっきりひそめて拒絶の意を満面に浮かべました。しかし頼れるのは彼女しかいないのです。
「フーリエちゃんは待ってても大丈夫ですよ。私とエリシアさん、なんならひとりで行きます」
「わたしも行きますよ! ひとりに負担を強いるわけにはいきません」
「なら客としてお邪魔しようかな」
「自分だけ得しようとしてる……でもフーリエちゃんに頑張っている姿をいっぱい見せられる……!」
「いやいつも見てるけど」
「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛」
そういうの無意識でやるのやめてくれませんか!!! 私の心臓が持ちませんでもやめないで!!!!!!