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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第1章 異世界転生の、始まりの始まりです!
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幕間 異世界サバイバル事情とフーリエちゃんの料理テク……ってそのソースは何ですか!?!?

 春の心地よい風が髪を揺らします。

 まっすぐに突き抜ける森の道を、月明かりに照らされながら、箒に乗った二人の魔法使いがのんびり進んでいきます。


 前に乗って箒を操っているのが、つい一昨日に異世界転生をしたリラ。そうです、私です。

 異世界で行方不明になった姉、比奈姉(ひなねえ)を探す旅の最中なのです。


 そして後ろで、うつらうつらと今にも寝そうなかわいい子がフーリエちゃん。天才で面倒くさがりで背が小さい金髪オッドアイ魔女っ娘。オタク殺しの属性を持つ旅の仲間であり推しです。

 ちなみに私は同担拒否勢ではないので、一緒に愛でたい人はぜひ仲良くなりましょう。コミュ障ですが、同担さんとなら楽しくお話できる……はず!



 まあそれはさておき、私とフーリエちゃんは比奈姉が目撃された魔法の聖地【コルテ】という国を目指している道中。最初の街カリーナを出て、ほぼ半日ほど箒を飛ばしていますが、経由地が未だに見えません。この森を抜けるにも、まだまだ時間が掛かりそうです。



「ふ、フーリエちゃん。夜も遅くなりそうですが、どうしますか」

「どうするって、野宿しかないんじゃない? 森はまだ抜けられそうにないの?」

「まだまだ出口は遠そうです……」

「魔物が本格的に活動する前に、テント張ろうか。そこで止めていいよ」



 フーリエちゃんのナビ通り、箒を止めます。

 よいしょ、と箒を降りて杖を一振りすると、折り畳み式のテントが出現しました。そして本体に手を付けることなく、杖でテントの部品を操って組み立てていきます。



「お、おおおおおぉぉぉぉ……!!」



 その様子はさながら有名魔法映画のようで、思わず感嘆の声が漏れます。

 そしてあっという間に完成、と思いきやロープをテントの四隅に引っ掛け、さらに木の枝に引っ掛けました。



「さ、入って」

「え、あ、はい」



 促されるままテントにお邪魔します。2人が寝るには十分なスペースが確保されていて、さすがに物理法則を無視した巨大な空間ではありませんでした。

 フーリエちゃんは木の枝に引っ掛けた4本のロープをまとめて持つと、ぐいっと引っ張りました。するとテントが引っ張り上げられていくではありませんか!



「え、え、何ですかこれ? テントが木と木の間に浮いちゃいました……」

「木を登ってくる魔物は少ないから、可能な限り木の上に寝床を作る。冒険者から教わった」

「なるほど。これなら火の番をする必要もないですしね」



 テントが立ったなら、お次はご飯タイムです! 「労いはきちんと与えないとね」とのことでフーリエちゃんが手料理をふるまってくれるそうです!

 テントの中で推しと肩を並べてご飯を食べる……数多のラノベ・漫画・アニメで見てきたシーンが現実になるなんて! 幸せすぎて無理、しんどい…………!


 フーリエちゃんは密封された加熱済みのハンバーグを取り出すと、それを魔法で空中に浮かせて、さらに水玉の中に閉じ込めると直接火を当てて湯煎しました。魔法が発達しているだけあって、食料の保存技術も発達してるっぽい?

 その間に丸いパンを半分に切り、上にちぎったレタスや輪切りのトマトを乗せていきます。杖を一振りすれば、当然のように新鮮な状態で出てくるので、フーリエちゃんの言う魔法の都合の良さを実感します。



「そろそろ終わったかな。ハンバーグ乗せて、仕上げにソース!」

「えっと、なんですか、それ」

「かければ何でも美味しくなる万能ソース。これがあれば面倒な味付けから解放される」



 そう解説していますが、この世とは思えない淀んだ色をしていて、なんかこう、ヤバいです。フーリエちゃんまさかのメシマズ系……?



「はいできた。フーリエ特製ハンバーガーどうぞ」

「あ、い、いただきます……」



 見た目のグロテスクさに思わず顔がひきつりますが、天才フーリエちゃんのことだから味はおいしいはず……! そう信じて一口食べて――



「!?!?!?!?!?!?」



 あ……ありのまま、今感じたことを説明します……!

 私はハンバーガーを食べたかと思ったら、味が全くしませんでした……! 何を言っているか分からないと思いますが、私にも分かりません……!

 味覚がおかしくなった??? でも水の味はしっかりする……



「うん、おいしい! 貴族暮らしの頃はこんな料理知らなかったからなぁ〜。教えてくれた冒険者に感謝だよ。リラどう、おいしい?」

「確かに、このソースは何にでも合いますね………」

「そうでしょ?」



 かければ料理の味が消えるソース。万能という言葉にウソはありませんでした。

 当の本人は非常に満足した表情で、ハンバーガーを貪っています。単なるメシマズの枠に囚われない、新たな料理ヘタキャラが爆誕してしまったようです……

 それにハンバーガーがこの世界に存在していることも驚きです。アメリカみたいな国があるのでしょうか?



「ふぅ、ご馳走様。寝よ」

「食べてすぐ寝たら牛になりますよ。それに、安眠はできなさそうです」



 もう一口食べようか迷っていたタイミングで、幸か不幸か、テントの下を魔物が占拠しているのに気づきました。

 さらには上空を舞う鳥の魔物まで現れる始末。木の上という地の利があるとはいえ、少し厄介そうです。


 するとフーリエちゃんは、ずいとテントから顔を出して、一通り周囲を確認すると「ほいっ」と杖を振りました。

 瞬間、1本の大きなつららを生成させたかと思いきや、それを追従ミサイルのように操って魔物の体を貫通していきます。同時に上空では、鳥の魔物がまとめて大きな水玉に閉じ込められて溺死していきました。


 つまりフーリエちゃんは、異なる魔法を同時に操って、地上と上空の魔物を同時に仕留めたのです。これがどれほど驚異的なのかは、魔法初心者の私でも理解できます。

 アニメの世界ですら――少なくとも私が見てきた中では――そんなキャラはいませんでした。



「凄い…………何が起こったのかサッパリ分かりません」

「このくらい楽勝だけど、問題はこれからか」

「ど、どういうことですか」

「死体の匂いで、また別の魔物が寄って来る可能性がある。さっき地上で倒した魔物は、鳥の死体を餌にする習性があるからね」



 フーリエちゃんの言葉通り、再び魔物がぞろぞろと寄って来ました。その数は先ほどと比べ物にならないくらい。木の上にいなければ、本当に絶望的な数です。



「本当はやりたくないけど、安眠を妨害されるのはもっと嫌だね。この際だから、リラに私が天才と呼ばれる所以(ゆえん)を見せてあげる。瞬きする間に皆殺しだよ」



 フーリエちゃんは杖をくるくる回しながら、満面のドヤ顔でそう宣言しました。かわいすぎか??


 ほいっ、という気の抜けた掛け声と共に杖からレーザーが真下に伸び、地面に到達すると扇状に広がります。そして光が魔物を包み爆発。

 “瞬きする間に皆殺し”その言葉通り、魔物は極めて簡単にまとめてなぎ払われました。この光景を文章で説明すれば、1行程度にしかならないでしょう。

 チートって、こういうことなんですね。思わず唖然とします。



「今は簡単に出来るようになったけど、レーザーを曲げるのも苦労したんだよ」

「本当に、なんでもできるんですね」

「そうだよ。まぁレーザーは月属性の魔法で昔からあるけどね。ただ月属性を使えるのは世界でも十数人しかいない。でも、リラも月属性の力を持ってるから頑張れば使えるよ。全ては想像力と、実現させる為の研究次第さ」



 つまり頭の良さも必要ってことですか。私は根っからの文系なので理系はてんでダメなんですよね……

 ふとフーリエちゃんを見たら、瓶に入った粒を取り出して、ひょいと口に含みました。まさかフーリエちゃん病弱? いやまさか。

 でも心なしか、髪の毛が少し縮んだ気がしました。幻覚かな?



「それ何ですか?」

「ん? ただの魔力補給剤だよ。栄養剤みたいなやつ。魔力を使い果たすと、二度と回復しないから気を付けるんだよ」

「それ初耳なんですが!? メッチャ重要なことじゃないですか最初に教えてくださいよ!?」

「ごめん、忘れてた。一応、魔鉱石を体内に埋め込んで回復させる方法もあるけど、そもそも人間の体内に鉱石を埋め込むのに多大なリスクが生じるから推奨はしない。基本は寝て食べて回復。緊急時や魔力の流れを整えたい時に補給剤。基本だよ」

「わ、私にも分けてもらえますか……?」

「いいよ。体が怠くなったら飲むこと」



 受け取った小瓶を、ローブの裏ポケットに大事にしまいました。その際に指が触れて心臓が跳ねたのは内緒です。


 フーリエちゃんは、ふわぁぁとあくびすると、魔法でネグリジェに着替えて寝袋へ入りました。どこまでもかわいい。


 そんな姿を見ていたら私も眠くなりました。フーリエちゃんのすぐ横に寝袋を置いて、私も寝る準備に入ります。

 かわいらしい寝息が、すぐ横でASMRのように私の鼓膜に吹きかかります。半ば狂いそうになりながら、理性をなんとか持ちこたえさせて眠りにつくのでした。

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