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勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い  作者: 網野ホウ
三波新、定住編

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おにぎりの店の日々 その6

 まだ夜とは言えない時間。

 けど酒場には俺達だけ。

 さもありなん。

 宿泊客は、まだ酒の味も分からなさそうな年齢の、しかも所持金もほとんどなさそうな初級冒険者達。

 だから宿屋とかこの村の裏話も普通にできる。


「じゃあキャンプ場みたいな広場も作ってみたらどうだ?」

「キャンプ場? 何それ」


 ヨウミばかりじゃなく、みんなが不思議そうに俺を見る。

 キャンプ自体ないのかもな。

 いや、アウトドア……いや、娯楽自体少ないのかもしれない。

 魔物とかがうようよいて、そいつらが住民の命を狙ってるんなら、俺のいた世界の人々よりも、生きることに真剣になるだろうから。


「分かりやすく言えば、野宿しやすい環境づくりをするってことかな」

「例えば?」

「誰でも使えるようなかまどを設置してたり、それが川のそばにあって、洗い物をしやすくしたり……」

「それは反対だぞお」

「それははんたーい」


 モーナーとマッキーがほぼ同時に反応した。

 気が合うのか?

 と思ったら、それぞれ別方面からの理由だった。


「ここからあ、冒険者として育っていくんならあ、自分達でえ、かまど作ったりできなきゃだめだぞお」

「それも一理あるけど、魔獣の縄張りも広げやすくなるんじゃない? 見晴らしもよくなるだろうし。それと、死角が多いから森の住民達も過ごしやすいってことあるのよ。特に森の中を移住する種族には迷惑極まりないわね」

「え? そんなのいるの?」

「ヨウミちゃん、あんた……いや、人間には分からないかもね。他種族との接触を嫌う種族がいるらしいのよ。生活の痕跡はあるけど、そこに誰かが近づきそうになったら、すぐにそこから引き上げるってね。もっともあたし達エルフ族の中でも、そんな言い伝えがある程度で、実際見たことはないんだけど」


 なるほど。

 初級者は自己責任の元、自分達だけでどんなことができるかっていう、自分の実力の把握も必要だよな。

 それにいわゆる生態系か。

 どちらも納得できる話だ。


「じゃあフィールドワークでの鍛錬については、ダンジョン内部のように案内はそんなに必要ないか」

「無事に帰ってくるように言っとけばあ、それでいいと思うぞお」

「立ち入り禁止とかの看板立てたら、好奇心が芽生える初心者もいたりするからね。宿屋の手伝いしてた頃、ベテランでもそんな冒険者いたもの」


 下手に刺激するなってことだよな。


「それにしても、随分熱心じゃねぇか。ノロマが作ったダンジョンに、山側の森の中かぁ? お前らの手も回らねぇんじゃねぇか?」


 確かにその可能性はある。

 が、こっちは基本的にはおにぎり作りと販売だ。

 手が空いた者に案内をさせてるだけに過ぎない。


「でもさぁ、ドーセン。モーナーのことノロマって言うの止めてくれる? 特別仲がいいわけじゃないけど、なんか不快だ」


 まぁ、マッキーの言うことはもっともだ。

 悪口を渾名にしてるようにしか聞こえない。


「モーナーって、意外と言いづれぇんだよ。口が回んなくて出てきたのがノロマでな。さらに口が回んなくなって、ノーマーっつったこともある」


 言いづらいのは仕方がないが、なんだかな。


「しょーがないぞお」

「しょうがねぇのかよ」

「宿屋の床が頑丈ならあ、何言われても文句はないぞお」


 ま、まぁそうだよな。

 あれ?

 でもテンちゃんの体当たりくらっても、吹っ飛ばされることなく倒れるだけですんだってことは……かなり体重あるんだよな。


「床だけは丈夫なんだな、ここ」

「アラタもやかましいっ! ……けどよ、何でお前ら、そこまで冒険者のこと考えてんだ? 曲がりなりにも商売人だろ? 商売のこと考えねぇか? ……まあアラタがここに来た経緯はこないだ聞かしてもらったけどよ」


 呼び出した奴はアレだが、改めて懇願された旗手を断った手前、その分何かを返したいという気持ちはある。

 それに、この中に一人、仲間はずれがいますってやつだな。

 異世界から来た俺、ってのが、やっぱりどっか引っかかる。

 仲間になりたいって言う奴らがこうして集まってるんだが、本当は逆なのかもな。

 異世界から来た俺を、旗手以外のことで役に立ちたいから仲間にしてくれ、ってな。

 こんなこと、口が裂けても言えねぇわ。


「あんときには話題は上がんなかったけど、引退が迫りつつあるベテランと成りたての冒険者しかいないらしいんでな。育成役不足で、冒険者への依頼人は依頼を受け付けてもらえない、片や若手は依頼を紹介してもらえないってんでな。その育成を一役買おうと思ってな。こっちの仕事もあぶれることはないし」

「へぇ? そんなことになってたんか。新聞とかにはそこまで詳しくは書かれてなかったな」

「俺もお、知らなかったぞお。アラタがあ、好きでやりたがってるとお、思ってたんだけどお」


 行商同行組はすでに知っている。

 やはり情報の流通手段が少なければ、田舎であるほど情報は遅く伝わるってことか。


「何か話がまとまらないよね。食堂の建て替えと、冒険者の育成と、食料調達?」

「黒い姉ちゃんよっ!食堂でもねぇんだよっ。宿屋だっつてんだろうが!」


 いじりまくりの応酬を面白がって、本題が全く進まんな。


「マッキー、ちと違う。俺が話題に出したのは、おやっさんの宿屋の悩みを聞いたからだ。冒険者の育成は慢性的な国全体の問題だが、実はそれほど緊急じゃない」

「ちょっ! 緊急じゃないって……解決できなかったら不味いでしょ」

「ヨウミ、実はそうでもない。だって、人間の住む場所を変えればいいだけだから」


 意外な答えだったか?

 モーナーと人間勢が呆気に取られてる。

 まぁそうだろうな。でもな……。


「冒険者でもない俺が、まだヨウミと二人きりだった時、どんだけ野宿した? 宿屋で寝泊まりなんて数えるくらいだろ? 本当に命が危ない実感を得たら、どんな環境の変化でも安全のためなら耐えられるんだよ。対抗策がまだ打てるから現状維持ができるんじゃないか?」

「……まぁ、私らもそんな感じだったからな。もっともエルフ社会の中にいた期間は短かったけど」

「社会ってもんがない魔物とか生き物は、それこそ自由なはずだしな。ライムはどうだ?」

「ジユウ! キママッ!」


 ポヨンポヨンと跳ねている。

 けど、流石に大きくなるとあざとさは感じられなくなってきたなぁ。


「だから客が増えても、宿だろうが何だろうがこの村で安全に過ごせるかどうかってことだな」

「その安全って、魔物に襲われるかどうかじゃなくて、生活の心配なく過ごせるかどうかってことだよね?」


 言うまでもない。

 と言っても、こいつとかライム、モーナーは耐久力が抜群だから、そこら辺の定義のすり合わせは必要なんだよな。


「で、さっきから話題に上がってる食生活の問題が差し当たって解決しなきゃならないことだよね。あたしはアラタのおにぎりだけでもいいけど、どっちかというと草食だからね。でもマッキーとか人は違うよねぇ」

「動物、魔獣も狩り過ぎると、ってぇのが、さっきまでの話だったな。初級の連中が何人来ても狩り過ぎるってこたぁねぇと思うが……」

「予想外のことは想定しておかないと、実際に事が起きた時に対処できないことが多いのよね」


 ヨウミの言う通りだが、見落としが一つある。

 その要素を加えたらどうなる?


「だがいつもでも初級のままじゃない。成長して行けば、ベテラン勢じゃ手が足りない依頼数も減ってくはずだ。成長株なのかベテラン勢かは分からんが、今はここに殺到している初級の連中も、手伝いも兼ねた育成にも力を入れてくれるはずだ」


 規則違反者とならないように引退する冒険者達が続出する前、ここの宿屋はどんな経済状況だったかは知らないが、客足はその頃に戻るんじゃないか?


「あー……、そうなると予約キャンセルが出るかもしんねぇなぁ。となりゃ、増改築、建て替えは投資にはならねぇな。急造したって、宿屋の人手が足りねぇや。どのみち後手後手に回っちまう」

「現状維持、がベストってことね」


 今の盛況が一時的なものと分かったんだろう。

 残念そうな親父の顔だが、決して悪い事ばかりじゃない。


「けど、アイテムの鑑定と売買で、その時よりはいくらか収入は上がったままになるはずだ。たとえ初級の連中が来なくなっても、俺達があのダンジョンでアイテム採集してここで鑑定を頼むさ。鑑定料の収入は安定するはずだ」

「アラタぁ……お前ぇ、いい奴だなぁ……」

「いいやつだってえ、俺が最初に分かってたぞお」


 張り合って何の意味がある。

 まぁおやっさんの宿の件はこれが結論ってわけだ。


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ジャンル別年間1位になりました。
俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる~


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