行商を専業にしたいんだが、どうしてこうなった その6
予想外の、しかも身の危険、命の危険を感じた時にはわざとふざけるようなことを言う。
気持ちを落ち着かせる方法の一つ。
と、真顔でエージは説明する。
一理あるがな。
「でも、大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
今回の件、依頼は確か、俺を護衛してくれ、という内容だったはずだ。
それに新人冒険者四人が便乗した。
その護衛の件によって経験を積ませてくれ、と。
今は逆の立場になっている。
ライムの体の一部を微弱に発光させて足元だけを照らし、エージの手を引いて慎重にゆっくりと前に進む。
「……冒険者の僕より、随分慣れてる感じですね……」
「言ったろ? この世界に来て初日がこんな感じだった。けどあの時と違ってここはどんな世界か分かってるし、ライムもいてくれる。これだけでも心強い限りだな……とと、このまま真っすぐ進めないな。迂回の道は……」
「途中に枝分かれした道、ありましたよ?」
「あ、そうだったっけな。そこまで戻るぞ」
ヤバい魔物の気配がうようよしている。
この階層の空気、雰囲気も上よりはかなり重い。
けど、魔物と出逢わなかったらどうということはない。
エージの口数も次第に少なくなってきている。
怪我でもしたか。
だが休んでたら、俺達の気配に気づく魔物も出てくるかもしれない。
歩く速度はほぼ変わってないようだが。
ところで迷宮というか、迷路というか、二通りの呼び方があるようだ。
メイズとラビリンス。
どっちがどっちかは忘れたが、片方はループの道がない迷路。
枝分かれした道の先はすべて行き止まり。
片方は枝分かれした先が遠回りや近道になるルートになっているもの。
行き止まりだけのものは、右なら最後まで右、左なら左の壁伝いに進めば必ずゴールにたどり着く。
ループはそうじゃないが、危険な道を回避することできる。
ここはそんな迷路のようだ。
あのでかい魔物を倒すよりも時間がかかっているが、着実に上への階段に近づいている。
「そういえばな」
「あ、はい」
「仲間の三人には、先に戻るように言っといた。出入り口で待ってると思う」
「そうですか」
「かなり慌ててたから、まずは落ち着かせないと、と思ってな。助けに行く気満々だったが、行かせてたらあれじゃ間違いなくここで全滅してた」
「あ、ありがとうございます……」
「気にするこっちゃねぇよ。……まずはこのフロアのゴールに到着。上には……うん、魔物の気配がないままだ。あとは楽に地階に行けるぞ」
振り向いてエージの顔を見る。
気付かなかったが、随分青い顔をしている。
相当やせ我慢してたな?
まぁ流石リーダーといったところか。
「あ、アラタさん……」
「なんだ? ここまで来たらもう問題ないだろ。迷わなければ一人でも帰れる。がそうはいかない。俺も戻りたいからな」
「い、いえ……そうじゃなく……」
「……まさか、やっぱりあのアイテム欲しかったとか言うんじゃねぇだろうな? 流石に勘弁してくれ」
どのルートを通っても魔物と出くわす可能性があった。
出逢わずにここまでこれたのは、まぁ運が良かったとしか言いようがないな。
まぁ地面に穴を空けてどんどん下に落ちていけば、ひょっとしたら熟練の冒険者と出会えたかもしれなかったろうけど。
だが構造もよく分からんし、誰もいなかったらお陀仏だ。
「……あの、そうでもなくて……」
「何か気になることがあったか? 一旦戻ってからにしろ。お前も仲間達も普通じゃないんだよ。一日間空けて、もっと落ち着いてからだな」
「あ、アラタさんのこと、なんですが……」
「俺? ……俺は普通の一般人だぞ? って、この世界じゃない人間という意味では普通じゃないかもしれんが」
歩きながらグダグダとした会話が続く。
ここはまだ地下一階。
地階に上がったからと言って、目の前がすぐ出口ってわけじゃない。
話しに神経使うのはまだ早いと思うんだがな。
「まさか、魔物が化けた姿とか思ってんじゃねぇだろうな? そうじゃない証明ができないから疑うのは勘弁してくれ」
「あの……アラタさん……本当に旗手様じゃないんですか?」
「……はい?」
話にならない。
どこを見てそんな判断ができるというんだ。
「いや、一般人だっつっただろーが。下らねぇこと言ってねぇで、とっとと合流するぞ」
納得してなさそうな顔をしている。
が、今はここから出ることが最優先だろ?
仲間もお前の帰りを待って……。
いや、あいつら、今頃は多分……。
とりあえず、出口に急ごうか。




