フレイミーの一面ː何か知らんが腹が立った
「どらあっ! はぁ……はぁ……。くそっ!」
何か知らんが。
何か知らんが腹が立つ。
その憤りに任せて両腕に装着した装甲から、よく分からん何かをぶっ放す。
目の前にいる、うようよいる魔物らを吹っ飛ばす。
あれからダンジョンに潜入。
ただ、体が大きすぎるため入り口からは入れないンーゴは入り口で待機させた。
ダンジョンの中に入れないから、そこで待っててくれってだけが理由じゃない。
その気配はないが、雪崩現象から現れた魔物群が近寄ってきたら、ダンジョン内にいる俺らに報せることと、時間稼ぎの防衛を請け負ってもらうためだ。
討伐部隊よりも戦力は劣るだろうが、でかい体とその中に秘めた力は、決して非力じゃない。
ンーゴ以外の全員で、ダンジョン内に湧き出てきた魔物退治にやってきたのだが、何かこう……俺の腹の虫がおさまらない。
が、なぜ腹を立てているのか、何に対して腹を立てているのか、自分でも分からない。
その怒りを両手両足の防具に託し、その魔物達目がけてぶちかましている所。
八つ当たりしても、誰も迷惑にならないいいサンドバッグになってくれるのは助かる
「ちょ、ちょっとアラタ。いつもと違って、なんか変よ?」
「さっきまで……って言うか、外にいた時はそうでもなかったけど、ここに入ってから急に……どうしたの?」
テンちゃんとヨウミが心配そうに声をかけてきた。
が、自分でも分からないことは答えようもない。
「……うっせぇな。とっとと魔物ぶっ倒して、とっとと戻るぞ!」
「何か、急に好戦的になった感じがしますけど、どうしたんです? アラタさんらしくないですよ?」
俺らしく?
何を言ってる。
「……クリマー。俺らしい俺ってどんなんだよ?」
「え?」
勝手に決め付けんな。
俺はどう振る舞うべきか、だなんて、他人に決め付けられる筋合いはねぇんだよ!
「お前らの思う俺らしさに従って行動しなきゃならねぇってことか? 何でお前らの想像にあわせなきゃなんねぇんだよ。俺はずっと、俺の思うがままに毎日を過ごしてきたんだが、そっからお前らが俺の何かを思い込むのは勝手だが、それを押し付けられる筋合いはねぇよ!」
「そ、そういうつもりじゃなくて……」
不穏な感情がどんどん湧き出てくる。
クリマーが何か悪いことを言ったわけじゃねぇが、なんかこう……。
「ご、ごめんなさい……」
「ちょっとアラタっ。クリマーにそこまで怒ることはないでしょっ!」
「テンちゃんのお、言う通りだぞお。ごめんもお、言わせないようなあ、怒り方はあ、どうかと思うぞお」
テンちゃんとモーナーから窘められた。
言い過ぎた、と自分でも分かってる。
だが、できることをできないものとされたり、できないことをできて当然と思われたりするのは迷惑極まりない。
「……クリマー、悪……」
「何か、前のアラタに戻った感じがして、あたしはちょっと懐かしかったけどね」
俺の謝罪のタイミングが悪かったのか、マッキーが俺の謝罪の途中で割り込んだのか分からないタイミングだった。
「マッキー……。アラタがあ、クリマーにい、ごめんって言っとるときにい……」
「あは、ごめんごめん。でも、何かそう思ったからさ」
「タシカニ、ムカシハ、ソウダッタネ。ナンネンマエニナルカナァ」
ライムまで懐古主義かよ。
「俺ぁ、そういう方が好みやな。つかず離れずってのぁ、気楽で一番いいやな。ンーゴも多分そう言うべ」
ミアーノは、確かにドライな関係が好きそうな感じはする。
……こいつはそういう意味では変わらんな。
ンーゴも。
「だって、アラタ達に狙いをつけて矢を放ったらさぁ」
おい。
懐かしすぎんだろ。
「え?」
「アラタを弓で狙ったあ? マッキー、何考えとんのや!」
「それ……ちょっとひどくないですか?」
「……初対面でえ、いきなりそれはあ……流石にい、かばえないぞお……」
マッキーが集中砲火食らってる。
これはこれで面白い。
「ちょっ、何であたし責められてるの? 昔話だからいいじゃない、ねぇ、ヨウミぃ」
「うん、あれはちょっと怖かった」
「ちょっ! コーティ! あんたにだけは言われたかないわよっ! っていうか、あんたはあん時はまだ一緒にいなかったでしょうが!」
コーティも意外とノリがいいな。
つか、なんだこの流れ。
グダグダすぎるだろ。
「ミッ、ミー」
サミーが体をよじ登って背中におんぶの体勢になった。
なんか俺に体を擦り付けてるようなんだが、何かこう……慰めてるつもりなんだろうか。
結構成長して来てるから、ちょっと重いんだが。
「ミーッ、ミッ」
ハサミで俺の肩を叩いてから、前を差す。
あぁ、まだ魔物は全滅してないってことね。
そうだな。
本来の目的、忘れちゃダメだよな。
※※※※※ ※※※※※
「ミンナ、オカエリ。ブジニオワッタカ?」
魔物を全滅させて、全員ダンジョンの入り口に到達。
そこで警戒していたンーゴと合流。
全員で帰途についた。
「イズミゲンショウノマモノ、ゼンゼンコナカッタゾ。マァ、アラタガイッテタトオリッテコトカナ」
「あぁ。この雪じゃこっちに来る手掛かりもなかったろうよ。なら行きやすい方に進む。そっちにゃサミーの親たちがいる」
「ギョリュウ族ね。でもあの魔物達をやっつけられるの?」
「現象の魔物は普通の魔物よりも相当手ごわいが、向こうにいるのはギョリュウ族ばかりじゃない。強さだけで言えば、俺らとは桁外れの強さを持つ種族がうじゃうじゃいる。相手にならんよ」
事実、その魔物らの気配はほとんど感じられない。
恐らく返り討ちにされたんだろう。
あの種族が俺達の味方になってくれたら、これほど心強いことはないんだが……。
まぁそれは有り得ないことだと思う。
魔物らですら瞬殺だ。
それよりか弱い俺達の存在など、それこそ歯牙にもかけないだろう。
「ンジャ、シアンニレンラクシトイタホウガイインジャネェノ? ソレハソウト、ミンナ、ドウシタ?」
「どうしたって、何だよ」
「イヤ、ナンカ、フンイキガミョウダナッテ」
「あぁ、そりゃあよお」
ミアーノが事細かにンーゴに説明をする。
そこまで事細かく喋らなくてもいいじゃねぇか。
「フーン。デモマァ、アノフレイミートカイウヤツガ、イロイロシャベリハジメテカラ、アラタ、ソンナカンジニナッテタゼ?」
「そうか?」
「言われてみれば、そんな感じでしたね」
そうだったか?
自覚はないが……だが言われてみれば、連中も俺のことをこうだと決めつけてかかってたような気がしなくもない。
そこに、ポツリとヨウミが呟いた。
「……言われてみれば、あのお嬢様も、突然やってきたのよね。しかも高飛車な感じ。自分の知らないことはない。知らないことは有り得ないこと、みたいな?」
「ヨウミも、何かとげとげしくなってきたわよ? アラタがうつったって感じ?」
マッキー、お前は子供か。
人を病原菌扱いすんじゃねぇよ。
「でもお、みんなをぉ、動物園のお、動物扱いみたいなこと言うのはあ、ちょっと許せなかったなあ」
「アンナノ、ライムタチノジユウダヨネ?」
「本当ですよ」
口々に、あの女への批判が出てくる。
が、流石コーティ。
穏やかになったと思ってたが、方向性は変わらない。
「あの女を動物園にぶち込めばいいだけじゃない」
極端な変わり者、という湾曲表現なんだろう。
けどおおよそ、あの女への印象はみな同じようなもんだった。
それと、フレイミーとおかしな仲間達の来訪の目的。
大層な目的を語ってはくれたが、この村の、あるいはこいつらのこと以外は頭にないっぽかった。
自惚れるつもりはないが、俺達の様子を伺いに来たって感じだよな。
めずらしい種族のこいつらを何とかして手懐けて、我が物にして、人気をとろうって腹積もりか。
そんな腹に一物抱えてる奴を嫁に娶るなんてなぁ……。
シアンの目も腐っちまったんかねえ。
元々腐ってるかも分からん。
俺の仲間になりたいってほざくくらいだしな。
※※※※※ ※※※※※
その翌朝。
俺の通話機が鳴った。
「あい……あぁ、シアンか……。って、まだ朝六時だぞ? こんな朝っぱらから何の用だ?」
『何の用って、昨日現象の魔物が現れたって連絡を受けて、それっきりだったじゃないか。アラタに何度か連絡したが、受信してくれなかったからどうしたのかとな』
何か忘れてるような気がしてたんだが……ほんとに忘れてた。
『それに、その時間辺りにフレイミーがそっちにお邪魔したらしいと聞いてな。何かそっちに迷惑になるようなことはなかったかとも思ってな』
……全員から不評だよ。
だが、こっちで何をやらかしても許嫁の立場は変わらんだろうな。
余計なことを口にして、逆恨みされるのもくだらない。
あの女がこっちに来ない限り、何の問題もないはずだ。
それに、シアンに何か思うことがあるなら、もっと言葉を続けるはずだ。
迷惑な行為をしたのなら、二度とこっちに来させない、とかな。
そんなことを言い出さない限り、こっちも余計なことは言わない方がいいだろう。
口は禍の元、沈黙は金ってな。




