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勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い  作者: 網野ホウ
エピソードゼロ:三波新、放浪編

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俺の仕事を、なんでお前らが決め付けるんだ その3

 テンちゃんが加入してから、宿に泊まらなくなった。

 というより、宿で宿泊することに拘ることが減ったというべきか。

 というより、俺はどっちでもいいんだが、時々ふかふかの布団に入りたがるヨウミが拘らなくなったんだな。

 雨風をしのげる洞窟があればそれで十分。

 テンちゃんは、夜になると自分の体に誘ってくる。

 真っ先にその誘いに乗るのがヨウミ。

 俺は、寒くなければどこでも寝ることができる。

 たとえ地面が岩でごつごつしていても、体に痛みを感じず窮屈でなければどこでも眠れる。

 が、テンちゃんはとにかく誘う。

 しつこく誘ってくる。

 助けてほしいなどと思ったことはないんだがな。

 あんまりうるさいんで、こいつの腹の一部に頭を乗せる。

 すぐに羽根を俺の体に乗せて寝せようとする。

 だがすぐに寝入っちまう。

 ……勤め人だった頃には、こんな感情は全くなかったな……。


 ──────


「久しぶりっ」


 夢の中にまたも現れたモザイク人間。

 テンちゃんが俺の夢の中に出てくるときはこの姿。

 普通の人の格好か、普段の姿のままの方がいいんだがな。

 逆になんか、不吉というか不気味というか、そんな存在に見えるぞお前。


「まともな格好しろよ。なんだその方眼紙で大雑把に書かれたような姿」

「アラタの夢に出てくる人達もあたしの姿見えちゃうからね。この格好の方が、あまり見られることないんだよね」


 夢の中の話なんか知らねぇよ。


「……で、今夜は何の用だ?」

「うん、あの魔物、きちんと返してきたよって報告」


 報告にしちゃ遅すぎるんだが。

 ないよりはましか。


「あの三人のね、馬車の屋根にボスンって」

「落としたのか?」

「うん。うまく乗ったよ? すごいでしょ」


 跳ねて地面に落ちたとかじゃないのか。

 まぁ、すごいけどさ。

 ……すごいのか?


「そしたら馬車が急停車して、三人が慌てて出てきて、あたしを見て驚いて、屋根の上に乗っかったアレを見て驚いてた」


 戻ってきたのが分かってくれりゃそれでいい。

 ところで……。


「晩ご飯、お前だけおにぎりだったんだが、あれでいいのか? 他の食いたいとは思わんか?」

「ん? 別に気にしないよ? アラタのつくったのおいしいし」


 ……褒めてもらえるのはうれしいんだがな。

 量がハンパない。

 食材なら、そこらに生えてるススキから採れるから、不足する心配はないんだけどさ。

 偏食は良くないと思うんだ。


「お前、肉は食うのか?」

「んー……食べられないことはないけど、それしか食べるものがないなら食べるよ? おにぎりとか野菜とかの方が好きだなー」


 雑食……けど傾向は草食か。


「同じの食べ続けて飽きるってこともないし、不満があったりしたら前の足四本で同時に地面叩いて報せるよ」


 四本同時にってことは、上体上げないと無理だよな。

 なるほど、滅多にない動作だと何かがあると分かりやすい。


「あぁ。ところで、やっぱりそのモザイク、何とかしてくれ。夢に毎回出てくる人物なんかいやしないだろ。俺が一番多く見せつけられてることになるんだから、これは俺の不満も聞き入れるべきだろ」

「んー……分かった。考えとく」


 夢の中でする話じゃないよなぁ。

 夢って分かってみる夢なんて、あんまり意味がないような気がする。


 ──────


 さて、今日も今日とて荷車を引く。

 ヨウミとライムは御者席にいる。

 テンちゃんは荷車の隣を歩く。

 荷車を引っ張りたそうにしているが、路面の窪みとかにはまって動かなくなった時、後ろから押してもらうつもりでいるから、馬車馬のような役目をさせるわけにはいかないんだよな。


「テンちゃんの時の長雨の分晴れが続いてる感じだけど……大丈夫? 疲れない?」


 ある程度の疲労はある。

 あることはあるんだが……。


「宿に泊まらなくなったよな?」

「え? うん。でも何のこと?」


 ということは、だ。


「宿の料理も口にすることはなくなったわけだ」

「不満はないでしょ? 私だって宿屋の娘だったんだもん。調理ぐらいは一通りできるよ?」


 ということは、だ。


「食事と一緒に飲む酒も……全く飲まなくなったんだな」

「ま……まぁそうだけど」


 なんか歯切れが悪そうだ。

 だがな、そこが一番重要なんだぞ?


「酒を飲まなくなった分、スタイルも良くなったんじゃねぇか?」

「いきなり何言ってんだこいつっ!」

「酒飲まなくなった分、痩せたんじゃないか、とな」


 後ろを向いてても分かる。

 手足をばたつかせてるだろ、こいつ。


「だから何だってのよ!」

「その分軽く感じるんだ。健康的になってきて何より」

「ぶっ! う、うるさいっ!」


 テンちゃんはヨウミを見た。

 この会話も理解してるんだな。

 あとでヨウミがどんな顔してたか教えてもらおう。


「……魔物が現れる気配はあまり強くないけど、店開くならここら辺かな? それとも、もう少し探してみようか」

「微妙な言い方ね。私には全く分かんないからアラタに託すしかないんだけど……。近くに同じような気配は感じないの?」


 魔物が発生するいくつかの地点の距離が遠いか短いか、ってことだな。

 時間差は感じる事はあったが、距離となると……。


「元手の費用がほとんどかからないんだから、店開いてもいいんじゃない?」

「それもそうか」


 店を始めたら丁度昼時になりそうな時間。

 非常食のほかに、昼食用としても買う冒険者も多くなる。

 が、泉現象ではない自然現象だから、買いに来る冒険者も普段より少ないだろうな。

 まぁそれも覚悟の上、計算の上だ。


 しかし予想に反して、開店してまもなく買い物客はやってきた。

 有り難い話なんだが不思議に思うこともある。

 気配で場所を知る奴が他にもいるってことなのか?


「そんな奴ぁいねぇよ。実はな、占い師って職があるんだよ」

「占い師?」

「あぁ。次はこの辺で魔物が現れますよってな。ところが占い師って職はあるが、店はない」

「なんだそりゃ?」

「あ、あたし聞いたことあるよ? 本業しながらやってる人がほとんどなのよね。だから、誰が占い師してる人か、分からない人には分からないんだって」


 この世界に来て二年くらい経つが、初めて知る事実がまだあったとは。


「だからうちの店に最初に来る人って、冒険者の経験が豊かな人多いでしょ? 新人も一般人も、誰が占い師してるかなんて分からないからね」


 なるほど。

 そういうことか。

 それにしても、店のそばにシートを広げて昼飯を食う冒険者の集団って、なんかシュールだな。

 遠足に来てる学校の生徒か何かか?

 これから魔物討伐に行こうとする連中とは思えないほど和やかすぎるぞ、お前ら。

 おまけに冒険者とは思えない連中も店に……。


 ん?

 冒険者と思えない連中?


「あ、はい、いらっしゃー……あ……」

「えっと、店長さん、います?」


 ヨウミの様子が何か変だが……。


「はい? 何か?」

「何か? って……あなた、どういうこと?」


 いきなり俺に怒り始めた。

 何だよ、この四人組の客は。


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cont_access.php?citi_cont_id=229284041&s

ジャンル別年間1位になりました。
俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる~


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