アラタの、新たな事業? その5
「ここんとこ、みんな、ほんといろんな事件に巻き込まれてさぁ」
「少しくらいゆっくりしたって罰は当たらんと思ってんだよ? 俺達も」
「事情は知ったことでもあるし、対応がしっかりできてりゃ、集団戦の中止の話を聞いても腹は立たないし、むしろもう少し休んだら? って思えるんだけど」
「つか、訓練終わってすぐに温泉って……至れり尽くせりで……」
「しかもほとんどタダ同然じゃない。逆に、利用する方が悪い気がするんだけど?」
集団戦の休止はまだ続いてる。
だからといって、冒険者達はまったく来ないわけじゃない。
アイテム探し、魔物討伐などの仕事で来る連中は毎日いる。
文句の一つでも来るかと思ったら、俺らに同情する声ばかり。
で、ちらっと温泉のことを言ってみたら、これまた歓迎の声があがる。
けど問題点が一つあってな。
「脱衣所がない?」
「アラタ……まさかあんた、混浴にしようとか考えてるんじゃないでしょうねっ!」
どこかの馬鹿王じゃあるまいし。
「アラタはあたし達とおんなじ、男女別にしたい派だよ」
「あたし達? テンちゃん、あんたも温泉に入るの?」
「うん。そのつもりだよ? どうして?」
「えーと……いや、何でもない。アハハ……」
別に気にするこっちゃねぇだろ。
露天風呂に入りに来る野生の猿とか、テレビでよく見るじゃねぇか。
って、それは俺がいた世界での話だもんな。
こっちではどうなのやら。
「まさかノミとか体にへばりついてねぇだろうな」
「こ、こら、アールっ!」
ぷっ。
やべ。思わず吹いちまった。
つか、この世界にもそんな虫いるんだな。
……テンちゃん、ほっぺ膨らましてる。
怒ってるよな、これ。
「いないいない。いたら今頃、私たちみんなその被害受けてるよ」
「ヨウミちゃん、どういうこと?」
「時々テンちゃんのお腹を枕にして、羽を掛布団にして、みんなで一緒に寝ることがあるんだ。あったかくて気持ちいいんだよねー」
「あー……そりゃ羨ましいわ……あたしも混ぜてほしいなー」
話がずれてるぞ。
まぁ、おかげでテンちゃんの膨れっ面もおさまってはいるが。
「まぁ誰が入るとかはともかく、流石に脱衣所は必要だろ。混浴だろうがそうではなかろうが、脱衣所は男女別にせにゃならん」
「そりゃあそうだ。……俺らが作っちまってもいいぞ? どうせそこに住む奴はいねぇだろ? なら雨風を防いで、雪の被害もないような建物だったら事足りるだろ。あとは一度にどれだけ利用者がいるかによって、その大きさも変わってくるが……」
マジかよ。
業者に頼まにゃならんかなぁと思ってたとこだったんだが。
「でも材料は森の中から調達したらダメだ。乱獲みたいになってしまうからな」
ダークとは言え、流石エルフ。
森への気遣いは欠かすことはない。
「けど、間引きみたいに伐採したらどうだ? 伐採された一本の周りに生えてる木が、より丈夫に育つんじゃないか?」
「切り倒すまではいいとしても、フィールドまで運ぶ道順はあるのか?」
「……それもそうか。となりゃ、材料費どんくらいかかるかだな」
「水道は作りたいよね」
「トイレも欲しいぞ」
またも俺はほったらかしにされて、今度は冒険者達で建設談義始めやがった。
「おいちょっと待てお前ら。取り掛かるとしたら、その件の手当てを出さにゃならんだろ? 材料費なら出せたとしても、手当まで手が回るかどうか」
「あー……生涯無料入場権ってのはどうだ?」
「無料?」
「ただで浴場を利用させてもらえたら、それでいいさ。こっちは専門家じゃねぇんだ。壊れてもすぐ修復できるような仕組みにすれば、素人だって直せるだろ」
……そんなんでいいのか?
お気軽すぎるだろ。
「だってお前らの普段の仕事は……」
「脱衣所建てる仕事のどこに、命の危険があるってんだ? それ考えりゃ、趣味で野営作りするようなもんだぜ? おまけに仕事が終わりゃ、すぐに風呂に入れるしよ」
「そうそう、それだけでも十分有り難い。それにあそこにあるんだろ? あまり……と言うか、ほとんど魔物が来ることがない安全地帯だからな」
まぁ重宝がられるってのは、まぁうれしくもあり有り難くもあり。
けどな。
「誰が建ててくれたかってのは記録には残せるが、もれなく無料扱いにするってのは難しいと思うぞ? 誰かに受付を頼むなら、申し渡しだって必要だしな」
「まぁ……そりゃそうか。はは、変な事言って悪かったな」
「……手伝った奴、無関係な奴、全員まとめて無料ってことにすりゃ、問題ないだろうが……」
「いや、いくらなんでも」
「維持費はかかるでしょ? 入浴料無しにするなら、それをどうやって捻出するのよ?」
だよな。
「それに、受付係には手当ては必要だろ?」
その問題は、問題にならない。
「その手当てには、必ず金銭は必要ないとは思うんだ。ただ、あんな風に溜池を作ってくれたこいつらには何か報酬はやらんとなー、とかは思うが」
ミアーノやンーゴ、そしてこいつらは、冷や汗かきながらの力作業の連続。しかも長時間。
労いの一つもないと割に合わねぇだろ。
「あたし達に? あたしは特にいらないかな」
「俺もお、特にほしいとは思わないなあ」
「ミアーノとンーゴもそう言ってたわよね。下手すりゃ災害を引き起こすとこだったから、だって」
「何? そんなに水量があったわけ? 水源地、とんでもないわね……」
地理についてはよく分からん。
そんなこんなで特に揉め事もなく、手が空いている冒険者達の好意で設計、建設が行われて、三日ほどで温泉施設ができあがってしまった。




