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勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い  作者: 網野ホウ
店の日常編

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千里を走るのは、悪事だけじゃない その3

 雑誌記者のレワーが感動しながら俺の話を聞いていた。

 それが記事になる際、俺にその内容を確認してきたが、俺も特に問題にするところがなく、そのまま記事になった。

 が、客からはその記事の反応が、驚くほど何もない。

 まさかこっちから「記事読んでくれた?」などと聞くような真似はできない。

 まぁ別に気にするこっちゃない。

 ファンクラブだなんだという妙な客が増えさえしなけりゃな。

 その妙な客は時々現れる。

 適当にあしらっても特に何かをごねたりすることなく、それで終わりなのが幸いだが。

 だが、奇妙な噂がしばらくしてから耳に入った。


「なぁ、アラタ。支店でもできたのか?」

「支店? 何だそりゃ?」

「おにぎりの店っぽい店ができたとか」


 いきなり何の話か。

 こっちは会計の仕事で忙しいってのに。


「知らねぇよ。たらこと梅のおにぎり二個のみな」

「はいよ、三百円か。……そうか。アラタの店とは無関係なのかな。ならどうでもいいか」

「俺も聞いたぜ。ここよりもちょっと値段が高いって話だったな」


 次に並んでる客が口を挟んできた。

 この二人は互いに見知らぬ冒険者らしい。

 そんな二人が共通の話題を持ち出すってことは……それなりにその話は広まってるんかな?


「しかもこの村で、だもんな」

「へ?」


 初耳だ。

 そりゃそうか。

 村のどこに何があるか、なんてまだほとんど分かんないもんな。

 仲間達に休暇を与える制度も考えたが、紅丸グループの店の船だアトラクションの船だってのも、ここら辺にはこなくなった。

 つか、活動してるかどうかっていう話すら耳に入ってこなくなった。

 仕事はしてるが、ある意味引きこもり状態だな。


「アラタはずっと店に缶詰め状態だろ。ヨウミちゃん達はどう? 聞いたことない?」

「え? あたし? あたしは……うん、あたしも聞いたことないな。クリマー、マッキー、コーティ?」

「ないわね」

「ないです」

「ない」


 テンちゃんなら聞いてるかもしんねぇな。

 モーナーはどうかな?


「サミー……は、流石に聞いたこと……ないよね?」


 遊び相手はまだ来ていないサミーは俺の足元にいる。

 床を両腕で軽く同時に叩く。

 その話は、聞いたことがなさそうだった。


「ま、仕事の邪魔にならなきゃいいんじゃねぇか、とは思うけどな」

「アラタ達がそう言うんなら、俺らは別に口出しすることでも……」

「ねぇよな、うん」


 冒険者達から聞いた噂話は、その気になれば確認しに行くことはできる。

 が、そんな暇なんざあるわきゃない。

 販売、米の選別に洗米、運搬、炊飯、おにぎり作り、包装、収支計算。

 誰かと一緒でする仕事はあるし、誰かと一緒じゃないとできない仕事もある。

 こっちはこっちのベストを尽くす仕事で手一杯。

 休暇を取らせたのは、みんなに仕事のやる気を引き出すため。

 他店の偵察に、みんなのやる気を引き出す効果があるかっての。


 ※※※※※ ※※※※※


 それからしばらくして、夕方近い時間。

 例によって、客である冒険者達が来ることはもうない時間帯。


「ごめんくださーい」


 という声が聞こえ、おにぎりを作る手を止めて顔をそっちに向ける。

 何と言うか……一言で言えば、ガラが悪い男が五人。

 冒険者というよりならず者だな。

 見た目で人を判断しちゃいけない、っていう奴もいるが、こっちは旗手の能力があるからな。

 ある程度なら本性は見破れる。


「はい、ご注文は?」

「ご注文は? ねぇ……」


 喧嘩吹っ掛けに来たのか。

 ファンクラブ会員より面倒な連中だな。


「あのさぁ、この店、辞めてくんねぇかな」

「俺らの店の営業妨害なんだよねぇ」


 ……いきなり喧嘩腰か。

 引っ越ししてもいいし、行商に戻ってもいいが……。


「……商売を辞めろ、と?」

「んな事言ったら、俺らがあんたを脅してるように聞こえるじゃん? それじゃこっちがもっと迷惑すんだよねぇ」


 自主的に辞めろってか?

 おそらく、こないだの噂話の、もう一軒の店の連中か。


「勝手に自分の都合を押し付けるあんたらは」

「いやいや、俺らの都合じゃなくてぇ、あんたがこの店辞めたら、みんなハッピーなわけ。わかる?」


 モロに押し付けじゃねぇか。


「俺もハッピーになれるってか?」

「知らねぇよ。けどそう思ってろよ。それで円満解決ってなぁ」

「……いきなりそんなことを言ってくるあんた達は」

「俺らの事なんか聞かなくったっていいだろお? あんたは何にも言わずに『はい分かりました』って言えばいいんだからよお」


 何でも自分の思い通りにできる、と思い込んでる連中だ。

 どう料理してもいいんだが……。

 ここは、こいつらの言う通りに従って動くのも面白いか?


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ジャンル別年間1位になりました。
俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる~


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