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勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い  作者: 網野ホウ
店の日常編

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緩衝材なんて真っ平ご免 その8

序盤は蔦に捕られえられた女の回想ですが、グロテスクな表現がありますのでご注意ください。

 その村の中心の辺りで、地面が突然盛り上がった。

 と思ったら、その魔物は地上に現われた。

 全身でのたうち回りながら、付近の建物を破壊し始めた。

 それを見た村人達は、呆然とする者、逃げ惑う者が入り乱れ、訳も分からず悲鳴があちらこちらから上がる。

 破壊された建物のあちらこちらからは火の手が上がり、畑や田んぼなども荒らされるどころじゃなかった。

 建物のがれき、地面の土や岩ごと、村人達を手あたり次第飲み込んでいった。

 その魔物の口から逃れられた者は、残念ながら助からなかった。

 その巨体に漏れなく押し潰され、屋外だというのに辺りは血の臭いで充満しつつあった。

 潰れてしまった村人たちの遺体をも、その魔物は飲み込んでいく。

 逃げることを諦めた一人の女は、それでも生きることは諦めなかった。

 いや、それは正確ではない。

 どう動いても結局飲み込まれるのだ。

 飲み込まれる恐怖から逃れたい。

 しかし逃げている間、その恐怖からだけは逃げられない。

 自ら妄想して育っていき大きくなっていく恐怖。

 その恐怖から逃げる方法はただ一つ。

 その恐怖が大きくなる前に、その魔物に飲み込まれること。

 襲われる恐怖の感情が怖い。

 その恐怖から逃れるために、魔物には早くこっちに来てほしい。

 そんな思いも心の中に湧き上がった。

 その複雑な思いは、彼女の心の中に気持ちの余裕も生じさせた。

 見渡すと、まだ被害を受けていない馬小屋がある。

 嘶く馬達。

 彼女は家族や知人に報せることよりも、自らの心の中で生まれた恐怖から逃れるため、死を覚悟しながら暴れている馬に駆け寄って跨り、村の外目がけて走らせた。

 何度も後ろを振り向いた。

 魔物は反対方向へと移動しながら建物を破壊。

 そして、生死問わず人々を飲み込んでいく。

 自宅は魔物が動くその先にある。

 避難を促すことなど、とても無理だ。

 それより、魔物よりもこの恐怖から逃げ切りたくて、一心に馬を走らせた。

 もちろん走らせた記憶はない。

 気付いたら、見知らぬ小川のほとりで、膝を抱える格好で地面に横になっていた。

 突然人が襲われる恐怖。

 その恐怖心に負け、愛する家族や知人を助けに行くことができなかった臆病さ。

 同じ恐怖を感じていただろう彼らの、その思いを少しでも軽くしてあげられたかもしれなかったのに、助けに行かなかった。

 仲の良かった人達誰一人にも手を伸ばさず、我が身可愛さを優先したことで助かったことを実感して得た安堵感。

 しかし同時に感じた、誰よりも自分のことを大事にするという心の醜さ。

 そして、ずっと平和な毎日を過ごしていたはずだったのに、そのすべてをぶち壊した魔物への怨憎。

 悲鳴も轟音も振動も、何もかも消えて静かになったことを知るや、再びその地を訪れた彼女。

 村に着いた彼女は直感した。

 建物の建材すら見当たらない。

 村の地面はすべて泥。

 足を踏み入れたらきっと沈んで、二度と上がることはできない。

 あの魔物は村人を、そして村を殺した。

 あんなでかい魔物は二つといない。

 一見、巨大なミミズ。

 手足がなく、目も鼻も見当たらなかったあの長い巨体。

 視界にはいった、魔物の口の中に吸い込まれていく村人たちの姿。

 魔物の体に押しつぶされ、骨や内臓が体からはみ出し、地面にへばりついている村人たちの体。

 恐怖、悲しみ、絶望、怒り。

 それぞれの感情が重なり、心の中で大きくなっていく。

 村人の、家族の仇。

 そして、決して消えることのない恥。

 その根源である自らの臆病な心を克服するための踏み台となれ!

 腸が煮えくり返るとはこのことか。

 食いしばる口から、呼吸が次第に荒くなる鼻から、血走る目からも恐らく血が流れ出している。

 そんな感覚を感じ取りながらも、その憎悪の炎は心の中で大きくなっていった。


 ※※※※※ ※※※※※


「みんな……みんな……その日まで……みんな、笑って生活してたのに……。何も悪い事なんかしてなかったのに! なぜあんな目に遭わなきゃならなかったんだ! 貴様らも……貴様らもこのワームと同じか! 村人をただの餌としかみてないのなら……その餌から食らう刃の味を知れ!」


 蔦にがんじがらめにされてる奴に言われてもなぁ。

 それに、この蔦から解放しろ、とかは言わないんだな。

 我が身大事さよりも、相手を傷つけ、倒すことしか考えてない、事情を知らなきゃ危険な奴としか思えんよなぁ。


「勝手な事言わないでよねっ! あたしはあんたがどこの誰だか知らないし、あんたが住んでた村がどこにあるかってことも知らないわよ!」


 そうだ。

 コーティの毒舌も役に立つことがあるもんだ。


「コーティ、それにンーゴ、ミアーノ。みんな、ちょっと下がっててくれ」

「な、何するの?」

「アラタのあんちゃん。この人は俺とンーゴに来やがったんだぜ? 直接は無関係だろうよ。危ねぇとこに自分から首突っ込むもんじゃ」


 ミアーノ、いいんだ。

 大丈夫。

 だってお前らは……。


「なぁ、ねぇちゃん。あんたは俺らに名前を一度も名乗ってない。名前を名乗るよりも大事なことがあるなら、名乗ることに価値はないだろうな」

「余計な話はもううんざりだ! この拘束を解け!」


 ようやく我が身が自由になれないことの意味に気付いたか。

 まぁそれよりも、だ。


「余計な話じゃない。必要な話だから話しかけてんだ。一つ聞きたい。あんたはここに、ンーゴに何をしに来たんだ?」

「はぁ?! 今まで私の話を聞いてたか?! 仇を討ちに来たんだよ!」

「嘘だろ? 嘘だよな」

「な……何を勝手に否定してんだ! あたしは、家族や村人の」


 嘘だよな?

 嘘のはずだ。


「もう一度聞く。あんたはここに何をしに来たんだ?」

「いい加減に」

「答え次第じゃ、解放されずに絶命しかねねぇぞ?」

「何だと?!」


 彼女の憎悪の目が、はっきりと俺を捉えている。


「俺にとっても不本意なことはしたくない。だから……頼むから、気持ちを落ち着けて答えてくれ。……あんたは、ここに、何をしに来た?」


 しばらくの間が空いた。

 俺の懇願に似た思いを受け止めてくれたか?


「……わたしは、家族と、村人達の仇を討つために、十年以上もあのワームを探し、追ってきた。……わたしはお前の言う通り、気持ちを落ち着けて答えたぞ」

「……ちょっと、いいの? アラタ」


 マッキー、いいんだ。

 大丈夫。

 だってお前らは……。


「そうか。……お前の解放してもいいが、それなら、俺は全力でそれを阻止する。ぜってぇンーゴに近寄らせねぇ」


 自分でもびっくりするほど、感情が静かじゃないと出ない声が出た。


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ジャンル別年間1位になりました。
俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる~


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