ファンクラブをつくるのはいいが俺を巻き込むな その7
俺が言う面倒事ってのは、ヨウミとミューとかワッツとテンちゃんとかの恋愛事情じゃない。
その原因を作ったファンクラブとやらのことだ。
面倒事に巻き込まれた、とは、言わずと知れたその四人のこと。
まぁ厳密にいえば、当人たちの知らない所でファンクラブを作られた俺達だ、と強く訴えたい。
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人の言うことは、たまには素直に聞いてみるもんだ。
シアンと最後に会った時、あいつが王宮に帰る間際に、魔球を販売することにした、と告げられた。
ついでに強制的に魔球を買わせられたが、それが役に立った。
回復の魔球で、テンちゃんに激突され、下敷きになった時に受けた怪我を何とか事なきを得た。
「うぅ……。ひでぇ目に遭った……」
もしも今までの俺だったら、お前の思惑通りに動いて俺に何の得がある、と突っぱねて、使った分を補充するのみだったろう。
そうだったら、重傷から回復できるほどの魔球は買い込まず、再起不能、最悪死んでたかもしれなかった。
よくても痛みで体を動かせない状態……って、それは有り得んか?
テンちゃんの体重をまともに喰らったのは覚えてる。
息してるだけでラッキーってとこだろうな。
想像するだけでぞっとする。
こうして元気に体を動かせる喜びを噛みしめる余裕はない。
そんな考え方は、多分性格上だろうな。
で、俺が気付いた時には、おにぎりの店のみんな以外はドン引き。
ワッツは何か……悶えてた。
「アラタを助けなきゃってオロオロしてて、そう言えばいつもお尻のポケットにあの財布が入ってたこと思い出して何とか魔球をアラタに取り出させて……」
「回復系の魔球を使ったんだな。それで?」
「周りであんまりしつこくあたしに謝って来て、その邪魔までしてくるもんだから」
そういう、何をしていいか分からない時は、普通は大人しくしてるもんだろ。
恋敵を亡き者にしようとしたわけじゃあるまいが。
「後ろ足蹴りで下腹部を」
下腹部っつっても、下半身は馬だからな。
馬の部分の腹部ってことだよな。
押さえ込んでるのが、馬の部分の胸のあたりだから……大丈夫だよな?
性的暴行を受けたんなら、遠慮なく急所にかましていいと思うが。
「気持ち良かった」
何で満面の笑みなんだよ。
「久々に全力で、二本足同時にヒットさせたから」
その威力、何馬力ですかね?
想像したくないんですけど、興味はある。
けど、防具越しだけど、それでも悶絶で済むんだな。
流石は冒険者。
って、誰かに攻撃して気持ち良さを感じるなや。
怖ぇよ。
こいつようにサンドバッグとかパンチングボールとか用意した方がいいだろうか。
「気分でかますんじゃねぇぞ? 大概の奴は間違いなくシャレにならん怪我するから」
「分かってるよお」
この馬鹿天馬、本当に分かってるのか?
まぁそれはともかく……。
「恋愛は好き好きだがよ、自分の理想を相手に求めんなよ? お前らの理想は、こいつらのすべてのほんの一部。理想以外のすべてを受け止められると確信してからの方が、理想を追い求めながらよりはお付き合いはうまくいく。相手に求める理想ばかり押し付けると、ただのお人形さんの着せ替えごっこ。お人形さんは別に楽しいとか思わんから。仕方なく付き合ってやってるだけだから」
「そ、そんなっ」
「そんな、じゃねぇよ。お前らはお前らのことはそりゃ知ってるだろ。生まれてから今まで自分じゃない時なんか一度もない。けどその経歴を知ってるのは己自身一人だけなんだよ。それを他人に理解してもらうこと自体難しいってのに、ほぼ初対面の相手に理解してもらった上で、自分と同じくらいの好意を持ってもらおうなんて尚更難しいに決まってる」
恋愛感情じゃなく、憧れの気持ちって言うだけなら、ここまで力説する必要はないかもしれんがな。
「……たかが三十年くらい生きてきて、五十年以上生きてきた俺達に説教って」
反論はきましたがね。
それだって同じこと。
「ま、確かにそれも一理ある。けど俺はお前らに、俺が生まれてきて今までどんな生活をしてきてどんな思いを持ち続けてきたか、なんてことは言う気はない。けど、恋愛だって人間関係の一つだろ。お前らのことも知らないし知るつもりもないが、俺ほど嫌われた奴はいねぇだろ。嫌われ者になりたいだなんて誰も思わないし、俺も思っちゃいなかった。けど、諦めた。どう振る舞っても嫌われるってんなら、人からの好意もどうでもよくなった」
これでさらにドン引きっぽい雰囲気が強くなった。
まぁそれも知ったこっちゃない。
「けど、そんな経験が災難を回避する知恵になるってんなら、大いに役に立つってことだろ? 何年生きたかなんて問題じゃねぇ。これだけ思いを募らせても、相手に伝わらないことなんてままあるこった。もどかしくて苦しくてどうしようもないから行動に移したんだろうが。それでも相手に伝わらない。その思いを相手が知らないから。あるいはその思いの価値を知らないから、といったところか。特にテンちゃんなんてまだ子供らしいからな」
「子供だと?!」
「あたしが言うのもなんだけど、子供だね。大人になると、羽が四枚になるの。ほら。今二枚だけでしょ?」
「し……知らんぞ! そんな話!」
このワッツ、状況を把握した者にとっちゃ、子供が大好きおじさん、とも受け取られかねんな。
ある意味そっちが怖いか。
つーか、やはり人間以外の種族も、他種族の成長度合いは分からないものなのか。
人間だけじゃなかったんだな。
「本当かどうかは俺も知らんよ。だが本人がそう言うんだし。それに質問の聞き方ばかりじゃなく聞かせ方もよくねぇし。好きな人はいますか? いなかったら友達になりませんか? くらいにすりゃいいものを。テメェの習慣を他人、特に他種族に押し付けんなよ。そっちの嬢ちゃんも。同種族同士だっておんなじことだ。お前らに比べりゃ、ファンクラブの会員の方がまだマナーがいい」
大声とか怒鳴り声とかを張り上げなくても、雰囲気が一変することってあるんだな。
なんか全員、急にしおらしくなりやがった。
「アラタ……」
「何だよ、テンちゃん」
「何か、責任者らしい事言ってる。珍しいね」
「お前な……」
お前も少しは、相手の言葉の意図を知って、その答えにも言葉選ぶくらいのことはしろよ。




