ファンクラブをつくるのはいいが俺を巻き込むな その1
人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ。
出典はどこだろうな。
恋愛ごとには無縁だったし、誰かがその相手の苦境を救ってくれる、というのであれば、彼女探し、恋人探しに必死だったろう。
けど、俺の場合は、一方的に助けてもらいたかったし、誰かを救うという余裕は全くなかった。
大体恋愛の相手がそんなことまでしてくれるはずもない、とも思ってた。
何が言いたいかというと、三十過ぎてもそんな相手はいないし、いないことにコンプレックスなどを感じてるわけじゃない。
必要とも思えんし、いなくても不自由はしていない。
なんせ、新しくできた家族がいる。
それで十分満足だし、時折こいつらの相手を面倒と思うことすらある。
これでさらに、俺に恋愛感情を持つ奴が現れたら……。
こいつらの面倒を一緒に見てくれ、とまず最初に頼み込むだろうな。
もっともそんな奴が今まで俺の前に現われたことはない。
かといって、家族……便宜上仲間と言った方が分かりやすいか?
仲間達に俺のような生き方や考え方を押し付ける気は毛頭ないし、押し付けられたいとも思わない。
それはともかく。
人の恋路を邪魔するつもりはなかったが、馬の足で蹴られかけ、馬のような体に押しつぶされかけたことならある。
そんな面倒事をこいつらが持ち込んできたわけじゃない。
面倒事に巻き込まれた該当者に、難癖付けられて巻き込まれた。
※※※※※ ※※※※※
普段は姿を現すことがないピクシー種。
しかし常に姿を見せる程に魔力が桁違いに高いピクシーのコーティが、新たにおにぎりの店……というか、俺達の仲間に加わった。
個体全てが小さくて愛くるしい容姿の種族。
コーティも例外じゃない。
が、口を開けば乱暴な言葉が次々と出てくる。
ある意味残念な子でもある。
が、意外にも人気が高い。
「可愛いピクシーに罵られるのが……」
その理由を最初に聞いた相手はこんな風なことを言っていたような気がする。
聞く気を失い、聞き流した。
だからこの後何と言っていたかは当然覚えていない。
「生きている者はいつかは死ぬ。自ら危険な場所に臨む俺達だ。一般人よりも死は身近にある。魔物にやられて死ぬ奴は、決して少なくない。希少なアイテム探しの途中で事故に遭って命を失う奴もいる。どれだけ用心していてもな。いつ命を失うかは分からないし、それを望む奴もいない」
「そりゃそうだろうな。でなきゃ俺の店にまで救命、延命目的でおにぎりを買い求めるなんてしやしない」
「その通り。だからこそ俺達はいつも真剣に真面目だし、真剣にふざける。真剣に騒ぎ、真剣に休む。中には奇妙な性癖を持つ奴もいる。けど、今伝えなきゃ二度と伝えることができないかもしれない事態に陥ることもある。ため息をつきたくなるくだらないことを言う奴もいるかもしれんが……まぁ、アラタのことだからあまり気にしないだろうが」
一々気にしてたら、気が滅入ることばかりになっちまうっての。
この冒険者の言う通り、こいつら冒険者達の仕事場は、一般人の職場と比べりゃ、常に死と隣り合わせの危険な場所がほとんどだ。ましてやそんな危険な状況に陥っても、あっさりとその窮地から救ってくれるヒーローなんていやしない。
だから俺は、そんな変なことを言う奴らには、好き放題言ってくれ、としか言いようがない。
あとは当人の好みの問題だ。
だが、その相手のコーティとなると話は別だ。
「くっだらねぇこと言ってるとぉ! 全力であたしの得意な攻撃魔法ぶちかますよっ!」
それはやめてやってくれ。
無関係な連中もまとめて、何人か絶命しかねんから。
「冗談だ、と受け止めるくらいの余裕は持てよ、お前は」
「お前って言うな!」
「あーはいはい、コーティ様」
「あ……うぐっ」
煽てると、いくらかは攻撃の効果が薄れるという特徴がある。
まぁそれだけ幼い感情ってことだろうが。
その感情も裏表がないってのが理由なんだろうな。
他の仲間達同様、ファンクラブができちまった。
その性格故か、仲間の中でコーティだけが、ファンクラブができて素直に喜んでたな。
小さい体に可愛い顔で全力で喜ぶ姿は、心の底から喜んでいるように見えた。
これで俺の仲間の中でファンクラブがないのは俺だけ……。
「アラタにもファンクラブができたって話、したよな?」
「はい?」
彼らの目的は、ダンジョンでの活動とする者が多い。
だが、鍛錬目的で来る奴も増えてきた。
そんな連中は、もちろんダンジョンにも行くが、フィールドの方に足を運ぶ奴もいる。
屋外には境界線というものは存在しない。
だから、案内や警備役としてミアーノとンーゴが大活躍してくれている。
二人の姿を見た者は誰もが驚いた。
が、それも最初だけ。
土竜っぽい獣人のミアーノ、手足のないイモリが巨大化したようなンーゴにも愛嬌を感じる者が増え、そこそこ人気者になってたりする。
危害を加えるどころか、安心感を与えてくれる者なら、誰でも好かれるってことなんだろう。
その点俺が誰かに安心感を与えている実績はない。
はずだ。
なのにファンクラブができてる?
まぁ遠くから見つめられてる分には仕事の邪魔にはならんから構わんがな。
だが絡んできた者がいた。
しかも、俺に敵意を持って。
「おおおおお前に決闘を申し込むっ! 受けろ!」
やたらとどもって怒鳴ったそいつは、間違いなく緊張していた。
冒険者と言っても、必ずしも人間とは限らない。
ダンジョンの噂を聞いた、人間以外の種族が来ることもある。
こっちは別に、排他的でもないし排除するつもりはなく、周りに危害を加えなければ基本的に誰にでもおにぎりは売るし、ダンジョンやフィールドは俺が管理している場所でもないしな。
で、そのめいっぱい緊張しながら宣戦布告をしてきたその冒険者は……人馬族の男。
ケンタウロスとかセントールとか言う種族。
星座のイラストでよく見る、いて座のモデルというかあんな感じだな。
もっともこいつの職種は剣士のようだったが。
「……冒険者が一般人を相手に決闘……って、俺の負け決定じゃねぇか。申し込まれる心当たりが全くないんだが?」
「ああああの、はははは灰色の天馬の……」
「テンちゃんがどうした?」
「かかかか彼女の……恋人の座をかけてだっ!!」
……はい?




