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勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い  作者: 網野ホウ
紅丸編

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飛び交う噂 その2

「ただいまーだ。なかなかいいもん転がってたな。こりゃいい仕事ができそうな気がする」

「持ち出したアイテムによっては、アラタが取り上げるとか上前貰うとかってことはないわよね?」


 何だそのアコギな商売は。

 知らんわ。


「……そもそもダンジョンに入る前にここに来なきゃいけないって規則もない。おにぎりは売ってりゃ売れる。けど必ず買ってから潜れ、なんて取り決めもねぇし。そもそも金を持ってない奴の為にやってる店だ。お前らぐらいになると、潜る直前に買い物する必要もないんじゃないか?」


 こいつらはベテランと呼べる経歴と、実績……はあるらしい。

 そんな奴らは現場に踏み込む前に、装備品所持品は準備万端だろうに。

 あれこれを買い忘れた、なんていう初心者がするミスをするはずもない。

 物好きな連中だわ。

 売り上げが上がるからいいけどさ。


「ならオッケーね」

「あぁ。問題ない。あとはいつまで続けられるか、だが……問題ないだろう」


 聞こえよがしに会話してんじゃねぇよ。


「お、坊主どもはまだいたか。あんまりおそくまで外で遊んでんじゃねぇぞ? 魔物がやってくるかもしれんからな」

「そうそう。早く帰んないと、家族が心配するよ?」

「はーい……」

「じゃあ、かえります……。さようなら」


 意気揚々としてここを後にする冒険者二人。

 意気消沈で家に帰る子供二人。

 対照的だな。


 ※※※※※ ※※※※※


 ゲンオウとメーナムが毎日ここに立ち寄るようになった。

 と言っても、まだ一週間経ってはいないが。

 双子も毎日来ている。

 もっとも双子の方は来る時間帯は夕方だが、来る時間もここにいる時間もまちまちだ。

 真面目に学校に通ってるってことだよな。

 ま、相変わらずサミーとは会えない毎日だ。

 片や彼の冒険者二人は、ダンジョンから帰ってきた後は毎回ほくほく顔でここを去る。

 だからこいつらは、一々ここに来なきゃならないほど未熟な腕じゃないだろうに。

 だが毎日来るこの二人は、いきなり別の冒険者チームを連れて来た。


「お久しぶりです、アラタさん!」

「元気そうで何よりです!」

「ヨウミさんもお元気そうですねっ」

「って……新人の人ですか?」

「おう? って、久しぶりだな……確か……」


 で、連れて来たチームは、見覚えがある男女二人ずつの四名。

 なんか結構大人びてきてるじゃないか。


「おう、久しぶりだな。エッジ、ビッチ、シーマ、デリー」

「近いですけど違います。エージです」

「何で僕がビッチになるんだ……ビッツです」

「シーマじゃなくて、シームですっ」

「私はデイリーですっ」


 こいつらも、冒険者名だろ?

 本名と違う名前にする奴が多い。

 寿限無めいた長い名前だと、咄嗟の行動で連携を呼びかける時に長いとすぐに反応できないからだとか。

 まぁ拘るなら悪かったよ。


「な? 相変わらずなのは外見だけじゃない。口先も変わってないぞ。ガハハハハ」


 ゲンオウは一言余計なんだよ!


「初めまして。クリマーと申します。って、アラタさん達とお知り合いなんですか?」

「泉騒動の時にはいなかったわよね。その肌の色……まさか……ドッペルゲンガー種?」

「え?!」

「マジ?!」

「私、初めて見る!」

「養成所でちらっと触れた程度の種族よね!」

「あ、あは……初めまして、みなさん」


 お前らなぁ……見世物じゃねえんだよ!

 ここの従業員なの!


「何だよお前ら。こいつを見に来たのか? 仕事の邪魔するんならどっか行け!」

「すまんすまん。ほら、本来の目的を忘れるようじゃ、現場でいきなり命を失う事態を引き起こしかねんぞ!」

「あ、はい、すいませんっ! クリマーさんも、アラタさんもすいませんっ。えっと、おにぎりのセット、八つください。一人二セットで」

「あいよ。そっちの大人は?」

「俺達は……今日はいいよ。俺の企画の実践ということだからな」


 なんのこっちゃ。

 ま、仕事の邪魔をしなきゃ何の問題もない。


「ほらよ。ちゃんと戻って来いよ」

「はいっ」

「もちろんです」

「頑張ります!」

「じゃあ行ってきますっ」


 若いっていいねぇ。

 若いから未熟って訳じゃないこともある。

 最初に会った時は、ほんと子供だった。

 まぁ厳密にいえば、今も大人じゃないが、何となく中堅冒険者って感じがしないでもない。


「……アラタ」

「ん? 何だよ」


 大人は行かないのか?

 何俺を見てぼーっとしてるんだ?


「今お前、なんて言った?」


 何のことだ?


「今、戻って来いよって言ったよな?」

「あ? ああ、それが?」

「俺達にも言ってたよな」

「そうだっけ?」

「だから、ダンジョンから出てきた後はすぐにここに来るんだよ」


 ……こないだの、一々ここに戻ってくるなっつったアレに突っかかってんのか?

 ……たく。あのさぁ……。

 そんな言葉尻、どうでもよくないか?


「……ま、いいけどな。じゃ、行ってくらあ」

「ふふ。行ってきますね」

「お……おう……ちゃんと」


 あ、つい言葉が。


「ちゃんと? 何だよ」


 一々振り向いて聞き直さんでいいっつーの!


「ちゃんと帰って来いっての!」

「はは、おう! 行ってくるぜ」


 ……まったく。

 心にもなくても言葉に出ちまう口癖のレベルだろうが、戻って来いよってのは。

 それだけ安全じゃない所に行くってことだからな。


 ※※※※※ ※※※※※


 昼前にあの六人は戻ってきた。

 全員ほくほく顔だ。

 アイテムの収穫が思った以上高額らしくなる、とのこと。


「ほーぅそうかい。そりゃよかったな」

「はい。ゲンオウさんのあの企画、いいかもしれないっす」


 こないだから、なんかいろいろ考えてたらしいな。


「何やらかそうとしてるか知らんが、俺を巻き込むんじゃねぇぞ?」

「巻き込むとしたら、客としてここに来るってことだけだ。……拾ったアイテムは意外と高値で売れる。簡単に、ちょいとばかし高めの防具を一揃い買えるくらいにな」

「初級冒険者達に自分達で揃えられるくらいにアイテム取らせれば、成長も早くなると思ったのよ」

「余った金の一部は俺達の指導料ってことでな。俺達が付き添えば、かなりヤバ目の魔物が来ても問題ないってことでな」


 なるほど。

 ゴーレム騒ぎの時は未熟者達だけで入ったんだよな。

 指導役、指南役がいればいくらかは安心だが、その役目を現役のベテランが担うとなれば……。

 その手数料も自分で稼ぐことはできるし、習う方もアイテム拾得でその目を養えば、自分の金で支払うことができるってことか。


「じゃ、そういうことで、これから忙しくさせちまうが勘弁しろよ?」

「ここを素通りされちゃ、儲けも何もないけどな」

「それはないわね。値段といい回復速度といい、安くて早くて」

「いいからとっとと帰れ」


 お喋りは退屈しのぎにいいけどよ。

 こっちだっていつもの作業は続けないと、儲けになるどころか商品の生産ができねぇんだっての。


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ジャンル別年間1位になりました。
俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる~


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