一話
「陽菜、陽菜ってば、起きて、もう朝だよ。」
「・・・おはよう、香菜」
まだ体は眠いのか、頭が少しぼーっとするが、一応起きたから、起こしてくれた親友の香菜におはようと返した。 まだ本調子ではないので声がかさついていたが朝の挨拶はとても大切なのだ。
「うん!! 陽菜もおはよう!!」
ああ、今日もとってもかわいらしい声が聞こえる。 今日も一日良い日になるだろう。
「香菜、いつも起こしに来てくれてありがとね。 いっつも大変でしょ?」
「そんなことないよ、私は起きる時間が陽菜よりも早いし、それに・・・」
「それに・・・?」
私が香菜に聞き返すと小さな声で「それに、陽菜を起こすことが私の楽しみでもあるし・・・」と聞こえてきた。
「い、いや!! 何でもないよ!! 親友が困ってたら助けるのは当たり前だよ!!」
うん、私の親友で幼なじみはとってもかわいい。はっきりわかんだね。
と、話がいらない方向に行ってしまったが私が毎朝、香菜に起こしてもらっているのは理由があるからだ。
「陽菜? 今日はどんな感じ?」
「・・・うん、いつも通りだよ。 いつも通り、見えないよ」
「・・・そっか」
私が体の調子を報告すると、隣から香菜のさみしそうな声が聞こえてきた。
なぜ私が香菜に体の調子を報告するか、それには私が起こしてもらっている理由にも関わってくるのだが、私は生まれつき目が見えないのだ。
いわゆる障がい者と言うやつだ。 だが私はこれについては深く考えたことはない。 なぜならそれが私だと割り切っているから。 ただ一つだけ、一つだけ文句を言いたいことがある。
それは、香菜の顔が全く見られないという事だ。
こんなにも優しくてかわいい声を持っている完璧幼なじみの顔が一つも見られないという事は私にとっては何よりも大切な事なのだ。
だから私の生涯の夢は、香菜の顔を一目見る事だ。
大きな夢を持ってる人に比べたら、小さな夢だと思うが、それでも私は香菜の顔を一目見たい、そして、香菜の目を見て、香菜にあることを伝えたいのだ。
だから待っていろ・・・ 私は絶対にこの夢を叶えてやるからな。
「ふふふ・・・」
「あれ? どうしたの? なんか笑い方が怖いよ?」
「あ、い、いや、なんでもない。 ただ今日も香菜がかわいいな~って」
おっと、私の心の笑みが表に出ていたようだ。 それに誤魔化そうとしてとても恥ずかしいことを言った気がするが大丈夫だろうか。 それに香菜もシーンとしてるし。
「・・・・・・そういうところだよ。 ばか。」
「うん、何か言った?」
「別に? 何も言ってないよ~だ」
よ~だって何それかわいい・・・っていけないいけない、こんなことを考えるなんて変態じゃないか。
え? もう手遅れ? うるさい。
「あ、香菜、今日って学校何かあったっけ?」
「え? 今日? ちょっと待ってね? 確認してみる」
香菜がそういった直後にカタカタという音が聞こえてきたから、多分スマホで予定を確認しているのだろう。
香菜は生徒会に入っているため学校の事で困ったことがあればとりあえず香菜に聞いておけば大丈夫なのだ。
「えっとね、今日は特に何もなかったよ? まあ、何かあっても私がついていてあげるから陽菜は心配しなくても大丈夫だよ!!」
「香菜神様、本当に毎日ありがとうございます。」
「え? 神様? ど、どうしたの? 急に?」
この日、私、三神 陽菜はさいっこうにありがたい幼なじみで親友の牧野 香菜に甘えていた自分を殴り倒し、自分でできることはやって、できるだけ香菜に苦労をかけないことをここに誓います。
「あ、今日のお昼ご飯の弁当は陽菜の大好物の甘い卵焼きにしたからね!! 感想聞かせてね?」
・・・・・・誓うと思います。